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ソーダ集

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君と僕は飛ぼう。街が遠く見える。誰も来ない処まで。
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2014年8月の記事一覧

Born in July

 彼は夏のこどもだった。

 7月の、雨が止み緑の色の濃くなる、美しい時期に生まれた。
 その光の明度は彼の肌を、深い色に染めた。

 バスに乗っている時、人々のざわめきと、車内の明るさに、夏の気配を感じた。

 そういえば今朝、階段を上っている時も、夏の家の中の匂いがしたことを想い出した。

 夏がどんどん近づいていって、やがて全ては、夏になる。

 バス停で降りると、私は汗を拭い、彼の

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small thing, this world



僕と君との、小さな世界。それは、冬の世界だ。

小さな星がまたたいて、息が白くなって、君がそっと微笑む。僕たちは抱き合う。そんな、雪国みたいな、安らかな世界。何処かでホッキョクグマが抱き合って眠っているだろう。そんな世界。

ドアの外で起こった痛み。を全部忘れて、ふたりで身を寄せ合って眠る。蜂蜜みたいに密な眠りが、僕たちに訪れる。

明日のことなんてわからない。悲しいことが起きるかも。

けれ

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浴室の人魚

ノヴァーリスに憧れる私は、グラスの中に魚を飼い、身体の中に自分を閉じ込める。
密やかに。夜が明けてゆくのを視ている。しんとした青い浴室の中で、私は1度死に、また白い日射しによって、再生する。

男の子は遠くへ行き、私には話す人もいない。

電話は静かだ。

本はへやを、私の空白を食べている。欠ける月の様に。それでも私の空白は膨張してゆき、私の頭は狂う。

浴室に溶ける人魚の尾は、彼の脚をも溶かして

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