small thing, this world







僕と君との、小さな世界。それは、冬の世界だ。


小さな星がまたたいて、息が白くなって、君がそっと微笑む。僕たちは抱き合う。そんな、雪国みたいな、安らかな世界。何処かでホッキョクグマが抱き合って眠っているだろう。そんな世界。


ドアの外で起こった痛み。を全部忘れて、ふたりで身を寄せ合って眠る。蜂蜜みたいに密な眠りが、僕たちに訪れる。


明日のことなんてわからない。悲しいことが起きるかも。


けれど、そんなことは忘れて眠るんだ。ずっと。朝、目覚めるまで。



君は、退屈な朝を履いて出てゆく。僕は、太陽の光を脚に纏って、出てゆく。けれど、途中で窮屈になるんだ。なぜかな。夜はあんなに暖かい眼差しで僕らを見てくれるのに、僕らは朝にはすっかり退屈してしまう。母に待たされて不機嫌な女の子みたいに(顰めつらで)。


僕たちは空を飛ぶようなことを考えては否定されて、満員電車で微笑んではしたうちされて、しぼんで行ってしまうのかな。


けれどじっさい、僕らは飛べるんだ。真昼の空に浮かぶ真白な半月みたいに。


退屈な夜に帰ってきて、すぐに君はテーブルにろうそくを灯す。部屋にはスープの匂いが漂ってる。遠くには、月がいる。昼とは全然違った、イタズラっぽい顔をしてる。いいぞ、君は、今から飛ぶんだ、って言っているみたいに。

君は微笑んで、ワインを差し出す。それよりも、僕は君にキスする。瞬間、幸せがともる。


君と僕は飛ぼう。街が遠く見える。誰も来ない処まで。


壜に入っている魔法の粉を使うように、足の羽で、僕らは夜空へ飛び立つ。蝶の羽根の様に青い。


不思議な模様の描かれたマダラな空色の扉を開けて、神様に会おう。目隠しされているから、見えないけれど、きっと僕らは泣き出すはずだ。

それかぐでんぐでんに酔っ払ってしまう?  見えない眼で。そんなのつまらなすぎるよ。だって、きっと。神様が見てる。君を見て、ギターを弾いているよ。竪琴みたいな。


僕ら、地上に降りて、とりあえず先にしたことは、うがいをすることだった。泡の出るソーダでね。薄青色の。


そして、君をだいて、また眠った。また朝は始まるけれど、何時もよりは憂鬱じゃなかった。


ただ長い旅に出ている愚かな僕らのために、天使が歌う。


それが聴こえるうちは、耳を澄まし、君ときいている。生命をつなげるために。


どんなに痛くても、どんなに長くても、旅を続ける。


だって僕のために君がいて、君のために僕もいる。だから、ただよりかかり、歌を聴こう。星の音も。


そして、時々飛んで、雲に腰掛け、あの竪琴を弾こう。今度は神様に、それをきかせるために。


そして私は、小さなてで、小さなノートに、これを書き記している。


私はくだらないもの。天使が囁く。星の歌を。







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