浴室の人魚
ノヴァーリスに憧れる私は、グラスの中に魚を飼い、身体の中に自分を閉じ込める。
密やかに。夜が明けてゆくのを視ている。しんとした青い浴室の中で、私は1度死に、また白い日射しによって、再生する。
男の子は遠くへ行き、私には話す人もいない。
電話は静かだ。
本はへやを、私の空白を食べている。欠ける月の様に。それでも私の空白は膨張してゆき、私の頭は狂う。
浴室に溶ける人魚の尾は、彼の脚をも溶かして、夜に消える。
私は夢を見ている。汚濁を忘れる為に、私の眼から それをとってしまう。
妖しい海の女の遣りかたで。
床の上の毛足の長いマットは、気分の悪い私を支えている。
消えてゆく星の群れ、消えてゆく眼の奥の感覚、消えてゆく心の・・・・・・
私は遊べず、虚ろに寝転がる。眠りは訪れないまま、この不思議な感覚の中に閉じこもる。
私は深海で、青さも失くすほど潜り、それでも何も見つけられない、盲目の。
私の手の中にいない方がいい。
私は――その、大切な、あなたの器を――
ずっとここで――未来の変化も知らず、永遠を――短い永遠を――神が紡いだ時の糸の奥へ隠れて――
私はグラスを落とす。
魚は床の上を泳ぎ廻り・・・・・・
私の口の中へ入った。
そうか。脚が鱗に変わるのね。
私は安堵して睡った
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