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悪いことは言わない、葬儀場には泊まるな

祖父が亡くなったんですよ、3月に。

ちょっとその時の話をします。

さい‐じょう〔‐ヂヤウ〕【斎場】 の解説
1 神仏を祭るために、特別に設けられた清浄な場所。いつきのにわ。斎場所。祭場。

2 葬儀を行う場所・会場。火葬場を兼ねていること多い。

3 大嘗祭 (だいじょうさい) のとき、供物を調えるために設ける建物。斎場所。
https://dictionary.goo.ne.jp/word/斎場_%28さいじょう%29/







①葬儀ってこんな忙しいんだ


いわゆる「葬儀を行う」側になったのは人生で初めてでした



もう20代後半になりましたけど、良くしてもらった近い親族が亡くなる経験がないままここまで来たんです



我ながら幸運ですね



3月も中旬にさしかかって間もない深夜、いきなり実家にいる母親から「おじいちゃんが亡くなった、明日帰ってこれる?」とLINEが送られてきて



翌日の朝には電車に乗って即座に帰りました



死因は老衰、医師の方からは「苦しまずに亡くなったと思いますよ」と言われたようで



家族とは寂しがりつつ「まあでも大往生だよねぇ」なんて笑顔で喋りました



すごく下品な言い方をすると、もっと悲しい気持ちになるんだろうなと思っていたんですが



正直亡くなってからが目まぐるしすぎてそれどころではない



来客の方も多かったですし、葬儀は2、3日以内には執り行なければならない状況



孫というほぼ部外者みたいな立場の僕ですら感じたんですから、もっと近い立場の親族、祖母や母は尚更そうだったと思います



全てあっと言う間に決まっていき、翌日に通夜を残すのみとなりました



準備に追われつつも、悲壮感あふれるムードという訳でもないので




祖父の弟さん(だと後で判明する)と親戚でお酒を飲んだりしてました



その中で母親に言われます




②「あんたお酒も飲んだしここ泊まるでしょ」


はい?



なんで?



いや、確かに「方言が強すぎて、何を言ってるんだが本当に全くわからないおじいさん」に死ぬほど飲まされたけども。おじいちゃんにとってどの立場の人なのかもまともにわからない人でしたけども。....ああ、あの人弟なんだ。



「はいはい、いいからいいから!泊まりなさい!」



いや自分ビビりなのよ、知ってるじゃないすか....
金切り声あげるタイプのビビりじゃん...葬儀場に泊まれる訳ないべ...



「知ってる知ってる!けどね?朝食バイキングあるらしいよ!」



おぉ?



③(朝食バイキングってあの...?)

あの?


あの朝食バイキング?


えぇ?マジで?




人間、朝食バイキングで心が躍らない訳がない。



一瞬「マジで!?じゃあ泊まるわ!」と言いかける、単細胞なので



しかしその刹那、脳内を駆け巡る一つの思考




④「いや葬儀場よここ?」


自分に学が1ミクロンもないので断定はできないんですけど



葬儀場に朝食バイキングなんかあんの....?



絶対におかしいっしょ....と思いました



だって大中小サイズの様々な葬儀会場しかなかったよ?祭壇にでもおかず並べんの?



そしたら母親が言うんです、



「係の人が『本当は出したくなかったんですけど...』みたいな感じで勿体ぶりつつチケットくれたよ」




見たら「朝食バイキング 7:00〜8:00」って本当に書いてある



あ、そうなの....じゃああるんだろうな



頭に?マーク浮かべながらも、叔父と2人でその日は葬儀場に泊まりました



叔父のいびきが猛吹雪ぐらいうるさくて3時過ぎまで寝れないなんてお茶目な一幕もありながら翌朝を迎えます





⑤「朝食バイキング、8:00までとなっておりますが大丈夫ですか?」


叔父と誰かが玄関先で会話する声で目が覚める



どうやら朝食バイキング担当の人がわざわざ控室まで来て起こしに来たらしい、マジか




叔父と朝食どうする?なんて話した後、クッソ眠たいけど折角だし食べに行くか、という結論になった




寝れなかったイライラも相まってかこの時点で自分の期待値はもう爆上がり




「何食べよっかな〜♪朝食バイキングは和食派なんだよな〜、白ごはん軸で焼き魚メイン、脇をサラダで固めたいよなあ!」
なんて思う訳ですよ!ウキウキで部屋の外に出る!






⑥未知との遭遇


信じられないぐらい人がいない。声も聞こえない。




僕は、映画「ミスト」の世界に迷い込んだのか?



ちょ...朝食バイキングは???どこの部屋でやってるんだ?



そうすると、先程起こしに来ていただいた係の方が「こちらですよ!」と誘導してくれた



え?そこはただの参列者の交流スペースでは?どこに朝食バイキングがあるの?



あ...ドリンクバーの機械がある...本当にここなんだ





「使用禁止」と張り紙がされているけど。ここと言うからにはここなんだろう。



周囲を見渡してみる。様々なおかずが並べられたバイキングらしい光景は間違いなく見当たらない。




でもバイキングらしい様々な皿を一度に持ち運びするためのデカいトレーはちゃんと積み重ねてある。




飲み物は...テーブルの上に水差しとポットがあるな、で脇にあるお茶のパック、なるほど水とお茶しかねえんだな。



でもってデカいジャーはある。米はなぜかたらふくある。



その上いくつか並べられた器...レトルトの味噌汁が既に入ってるんだな。
ポットとのコンボをキメて味噌汁にしろと。なるほどなるほど。




⑦そうして仕上がったのがコイツ


ゴキゲンな朝食


「なーんだ、おかずはあったんじゃん」



いや、違うんだよ。



右下は既にこの状態だったんだよ。



逆三種の神器と呼びたい



皿の上に既に3つが盛られた状態でテーブルの上にいっぱい並んでた。おかずはこれのみ。他のおかずはない。何ならこれら3つを自由に取れるわけでもない。1個だけ食べたいとしても他の2つが自動的に付いてくる。



「いやお前お望みの焼き魚あるじゃん」



違うんですよ...自分の言う焼き魚は「朝食バイキングという、数多の参加者がいる激戦トーナメントを頭の中で繰り広げた末、見事に勝ち進んだ優勝者」の焼き魚なんですよ





こんなん昨日の夜食べた仕出し弁当の余り物丸出しやんけ!!!昨日見たぞお前!!!
卵焼き!!!パスタサラダ!!!お前らにも言ってんだぞ!!



で1番すげーと思ったのはですよ




その日朝食バイキングに参加していたのは僕、叔父、そして別部屋で葬儀を執り行うのであろう老夫婦2人の計4人。




テーブルには7皿ぐらい並んでる。




え?1人2皿ぐらいおかわりすると思ってる?





何が困るって「絶妙に不味くない」んですよ。「絶妙に美味しくない」んじゃない。
全てが困る。そりゃハードル勝手に上げた自分が悪いよ。



でも朝食バイキングって名乗るのはズルいじゃん!!!!





なんてその場で吠えられる訳も無いですから....




水と共にその場で色々な感情を胃へと流し込みました。大人になったと実感した瞬間でした。




⑧って言いつつも、後日結局喋る


色々落ち着いて親族みんなでご飯食べてる時に、言いましたよそりゃ



喋りながら怒りを思い出してきてねぇ...熱もこもってくる!我ながらノってくるのがわかる!



聞いてた叔母は同情しつつ爆笑してくれました



が、そこで言われる






「でもね、あれ300円らしいよ。そう考えると妥当な内容なんだよ笑」



なーるほど。






完全に自分が悪いなぁ〜!!






大人への道は思った以上に遠い。

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