『アリスとテレスのまぼろし工場』に涙を禁じ得なかった理由 [週一で書く(ことを目標にしている……)アニメコラム]

アニメ映画『アリスとテレスのまぼろし工場』が今年9月に公開となる。ちょっとした御縁から本作のプレビューにお誘いいただき、先んじて試聴させてもらった。
本来であれば(仕事を兼ねて行っているので)各所ご挨拶をするべきだったのだけど、僕は上映終了後、そそくさと劇場を後にした。涙を堪えるのに必死で、まともに人と話すのが困難だったのだ。
本作は、いわゆる“泣ける映画”ではないと思う。強引に涙を誘うように物語が展開するわけではない。それでも僕は、本作の物語に涙を堪えずにはいられなかった。なぜ僕は本作にそんなにも心を奪われたのか、今回はそんな話。

(ここから先、かなりのネタバレを含みます)

本作の舞台となるのは、私たちが生きる世界と非常に酷似した世界。時折空にヒビが入り、それを修復するために定期的に製鉄所から煙が上がる。それ以外は一見、どこにでもある田舎町。しかし、物語が進むにつれ、この世界にはいいしれぬ違和感が散りばめられていく。そんな世界で出会うのが、主人公・正宗と、容姿に対して幼い心を持つ少女・五実だ。

ある日、正宗は自身が生きる世界の成り立ちを知ることになる。正宗が生きる世界は、同じ時間をひたすら繰り返す、“視聴者が住む世界”のパラレルワールドだということが明らかになるのだ。そして、五実は“視聴者が住む世界”から“正宗の住む世界”に迷い込んだ、正宗の娘だということが判明する。正宗は五実を元の世界に返すべく行動を開始する。

本作で描かれていたのは、娘の成長を願う父親の姿だったと思う。
同じ時間を繰り返す“正宗の住む世界”で、五実は身体だけが成長し、心は幼いまま。この状況に対し正宗は、五実を、その心をも成長させる“視聴者が住む世界”へ帰そうと奮闘する。帰ってしまえば、もう二度と会えないと知りながら。

自身の娘との別れは、正宗にとってこの上なく辛いことだろう。それでも正宗は、五実を元の世界に帰す決意を揺るがさない。自分の身を危険に晒してでも、娘を帰すために全力を尽くす。その原動力はなんだろうか? それは、子供に成長を続けてほしいと願う、親の愛情だったと思う。

私事だけども、僕にも年末に娘が生まれてくる。だからこそ、正宗に感情移入せずにはいられなかった。親というものは、子供の成長のためなら、身を切るような決断だってするんだ。それを痛感させられ、気付いたら涙が込み上げてきた。
結果、僕は泣くのを堪えながら本作を最後まで見届けることのなったのだった。

『アリスとテレスのまぼろし工場』、2023年9月15日公開。是非とも劇場に足をお運びください。とても面白かったです。

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