『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』の生々しいブラック企業描写 [週一で書くアニメコラム]

今期、とても面白いと思いつつも、なかなか試聴が進まないアニメがある。それが『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』だ。

今作を見ていると、時々堪えきれない胸のザワザワに襲われる。時として手が震え、呼吸が荒くなる。なぜ僕はこうもこの作品に精神を揺さぶられるのだろうか? それはひとえに、本作のブラック企業の描写があまりにも生々しいからだ。

本作は、主人公・天道輝がブラック企業に入社するところから始まる。入社初日から徹夜勤務を強いられ、そのまま二日間家に帰ることなく仕事をし続けるという過酷な労働環境。それでも、輝は折角内定をもらえた会社だからと働き続け、精神的に追い込まれていく。まともな判断力を失ってい、ゾンビ映画を見ては「会社に比べれば天国だよな」なんてことをぼやくようになる。

新卒から1年半、ブラック企業で働いていた僕からすると、本作におけるブラック企業描写は実に生々しい。もちろんケレン味あふれる部分もあるけれど、そこで働く人たちの人間性には嘘がないリアルなものだと感じさせられる。
輝がホームドアを見て「これ邪魔だな、これがなければ明日会社行かなくてすむのに」と考えるシーン、出社準備をしながら「会社に行きたくない」と泣き叫ぶシーン、過去の自分を見ているようで「オェッ」となる。

輝の上司・小杉権蔵の描写も非常に生々しい。僕が働いていたブラック企業の社長もこんな感じだった。何かを話すたびに机を叩いて人を威嚇する姿などは、その社長の生写しのようにすら感じられる。
このキャラクターの描写が生々しさを増すのが第6-7話「キャンピングカー オブ ザ デッド」と「SA オブ ザ デッド」だ。世間にはゾンビが蔓延り、会社というしがらみから解放された輝。しかしながら、偶然にも小杉との再会し、口車に乗せられる形で配下で働くこととなる。
この時の小杉の言動は、ブラック企業出身の僕にはあまりに馴染み深かった。人の行動を細かく監視し、少しの落ち度に漬け込んで叱責、人格否定を繰り返すことで人の判断力を鈍らせる。その上で「自分だけはお前の味方だ」と時に優しさを見せ、人を自分の元に縛り付ける。そして、ある程度言いなりになった人間に重労働を押し付けてさらに判断力を奪って言いなりにしていく。実に生々しく、社会に出て早々に僕も喰らった手法、見ていると息が苦しくなる。

本作で、完全に判断力を失い、小杉の元で働き続けようとする輝を救ったのはヒロイン・三日月閑だった。
彼女は傀儡になっている輝に激励を加えて、小杉の元から引き離す。そして、「俺につとまる仕事なんて見つかる気がしない」とぼやく輝に「あなたは自分のやりたいことを楽しんで楽しんで、楽しみまくればいいのよ。いつかその中の一つが、あなたにしかできない仕事になる日が来るかもしれない。」とアドバイスするのだった。
企業に属し、そこで使えないというレッテルと貼られると、自分の居場所はどこにもないような錯覚に陥る。でも、決してそんなことはない。それを教えてくれる本作。非常に優しい作品だと思った。それと同時に、当時の僕にもあんなこと言ってくれる人がいたらな、なんてことを考えずにはいられなかったのだった。

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