『ソロモンの歌・一本の木』吉田秀和

音楽評論において大きな仕事を遺した吉田秀和の、彼の仕事の中では謂わば傍流とも言うべきジャンルのエッセイを編んだもの。

もちろん、テーマとしては傍流なんだけれども、質としては極上、吉田秀和を知らないままに読んだ当時、この本の素晴らしさに魅了された。

交流のあった文学者たちについて、好きな芸術家について、あるいは歩んできた自身の半生について、気軽に語るような素振りを見せながら、その実吉田秀和の言葉は、常に本質を志向する研ぎ澄まされた鋭い批評となっている。

長田弘『黙されたことば』の後書きで言及されているグレー論も収められている。

圧巻はやはり最後に収録されている荷風論で、いたるところに、今の日本社会について語っているのか?と思わされる文章があり、吉田の批評の射程距離の大きさに唸らされる。

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