『日本名城伝』海音寺潮五郎
再読ですが、いつもの伝で内容はさっぱり覚えてない。初読時はあんまり楽しめなかった印象だったけど、それはきっと建築としてのお城についての記述の少なさに起因するのだと思う。あとがきで海音寺さんも、建築的な観点では書けない、と宣言しておられるので、そういうものを期待して読むほうが悪い。
ということで今回は飽くまで城にまつわるエピソード集だと分かって読んだので、失望することなく楽しめた。
取り上げられているお城は
熊本城
高知城
姫路城
大阪城
岐阜城
名古屋城
富山城
小田原城
江戸城
会津若松城
仙台城
五稜郭
の12城。現存天守にこだわらず、城の個性が感じられるエピソードが集まったものを取り上げている。
やはり地元姫路城の章が気になるけれど、あまり良いエピソードは採られてなくて、少し残念。
全体に、戦国から江戸期の城主一族や城にまつわるエピソードを寄せ集めているので、面白味はあるけれど、大味なのは否めない。
そんな中で、仙台城の章は支倉常長らの数奇な人生を辿って、人と政治と宗教の複雑な絡み合いの哀しみが感じられて読み応えありました。(学生時代仙台に住んでいたというのもあるのかもしれないけれど)
会津若松城の章で触れられる、薩長への怨念めいた感情がまだ会津には残っている、だとか、五稜郭の章での榎本武揚の絶望など、後半のほうが文学的興趣が濃く出ているように思う。海音寺潮五郎の小説は読んだことがないけれど。
ちなみに海音寺潮五郎は司馬遼太郎を高く評価し、池波正太郎は酷評していたそう。司馬が直木賞を取った時は選考委員の海音寺の引きが大きな力となったようで、その次の回に池波が受賞した時、海音寺は「俺は認めない」と直木賞選考委員を辞している。だからどうということはないけれど。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?