『漱石俳句集』坪内稔典編
漱石が子規に師事して俳句を詠んでいたことは有名だけれど、まだ作家として活動する以前、子規によって期待される俳人として取り上げられていたそうで、漱石は作家ではなく俳人としてまずは文壇デビューしたことになる。漱石にとって俳句は小説執筆の余技ではなくて、創作の原点だった。
初期作品の『猫』における諧謔や、『草枕』における趣味的世界は、俳句の世界から出発した漱石においては必然だったわけだ。
作家としての名前の大きさに比して、残念ながら俳人としてはその成果も名声もフェード・アウトしていくのだけれど、こうして時系列に編まれてみると、確かに漱石の俳句はあまり作風に変化を遂げずに続いていたことがわかる。
言い換えれば深化も飛躍もなかったということで、次第に深みと凄味を増していった作家としての漱石の軌跡とは、対象的とも言える。
子規も評価していた、力の抜け具合やちょっとクセのある世界観など、読んでいて面白くもあり苦笑させられたりもして、気軽な読み物として楽しめた一冊。
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