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【映観】『ドント・ルック・アップ』(2021)

『ドント・ルック・アップ(Don't Look Up)』(2021)

監督: アダム・マッケイ
出演: レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、
ロブ・モーガン、メリル・ストリープ、アリアナ・グランデ、ロン・パールマン

心が弱ってる時、ふらりと吸い込まれるように映画を見てしまうコトがある。
予備知識もなく、ふらりとだから、それは呑み屋に入るのと似てるのかも知れない。
ただ酩酊して正体を無くしたいのだから、その店の看板メニューやらオススメなんて知ったこっちゃない。
この映画はそんな時にちょーどよい湯加減だった。
コメディという括りも分からなかったので、途中まで少し苛立った。
だってさ、地球に彗星が落ちてきてあと数日で滅亡するって言ってるんだよ、天文学者が!
大統領は侮蔑的な笑みで、一刻の猶予もないのに、自身の政治スキャンダルや人気のコトばかり考えてる。
政府に相手にされないからテレビ番組やSNSで拡散して、だんだん深刻さが増していく。

よく見たら今どきのスターが総出演ぢゃないですか。
とりあえずディカプリオが出てたら最近ならハズレない。
「タイタニック」でどうしようかと思ったけど、「ブラッド・ダイヤモンド」くらいから敢えて汚れ役をこなしていき
クリストファー・ノーランやタランティーノ監督と組み、スコセッシ「ウルフ・オブ・ウォールストリート」はぶっトんでたし、
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」もヤバかったので、そのギリギリなラインでやり続けて欲しい。

天文学者にレオ様、彗星を発見したのはJ.ローレンス嬢、「ハンガーゲーム」「レッド・スパロー」とメリル・ストリープの再来じゃないかと謳われておりますが、今回の役は鼻ピアスしてるような小娘で最初はまるで気付かなかった。

大統領に、その本物 M.ストリープさま、もはやイカれた魔女役ばかりのような気がするが、とにかくこの人は間違いなく名優なのでどんどん好き勝手に突き進んでください。

あとレオ様と不倫関係になるテレビ司会者、K.ブランシェット、
もうこの方はいつも圧巻すぎてどの映画見ても惚れ惚れいたします。
個性の強さがぜんぶに滲み出てるんだね。

この映画は「渚にて」ではある。
人類が滅びていく猶予期間を、笑い飛ばす系の映画だ。
そんなものなのかも知れない。
自分自身がみている幻想の中、それぞれの物語でその役割を演じ続け、世界が崩壊したってその幻想に住んでいれば、他人事にしか思えないような狂った現実から回避できる。
そんな悪ふざけな現実を、SNSは助長してくれる。
"死"の実感を限りなく避け、非現実の領域に落とし込んで、他人事のフリして傍観できる。
どこまで風刺なのかもう分からなくなってしまう、
これは笑うというより案外リアルな現実なのかも知れぬ。
みな、ふんわりと、呆気なく、自身が死んだことにすら気付かず、
あっち側にぶっ飛ばされちゃうのかもね。

そしてタイトル通り、ドント・ルック・アップ(Don't Look Up)ていうコトなのです。
彗星が地球に突っ込んでくることからから目をそらして上を見ないコト。
上を向いて歩くのは坂本九、下を向き歩くのは小銭を探す貧乏人、
なんとかなるさ、と他力本願に笑い飛ばしちゃうのが、現代人なのです。

最後のオチはなかなかエゲツなくて笑った。

「私は、映画を、ばかにしているのかも知れない。
芸術だとは思っていない。
おしるこだと思っている。
けれども人は、芸術よりも、おしるこに感謝したい時がある。
そんな時は、ずいぶん多い。」

弱者の糧 - 太宰治

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