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【映観】『PERFECT DAYS』(2023)

『PERFECT DAYS』(2023)

監督・脚本: ヴィム・ヴェンダース
出演: 役所広司、柄本時生、石川さゆり、三浦友和

月曜日は映画が1300円になる。それで今年の初映画館。
僕よりも10以上年配の方々で賑わっており、たぶん主人公・平山を演じた役所広司に近い頃合だろう。
時間帯は午前10時半スタート、それ一回きりの上映なので地方で映画を観るのは大変だ。
124分という上映、至福の時間を過ごしました。
最初に言っておこう、まさにタイトル通りパーフェクトな作品だ。
余韻に浸りたいから当分この上から刷り込みたくないがために、映画断ちしたいくらい。
ここ最近のヴェンダース作品では一番良いのではないだろうか。
僕くらいの年代だと「パリ、テキサス('84)」にヤラれ、「ベルリン・天使の詩('87)」で決定打だろう。
さらに「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ('99)」では音楽ドキュメントの高みを極めた。
いつでも音楽(サウンドトラック)が素晴らしく、今作でも間違いない選曲である。

さてどこを切り取っても、ぜんぶが一連の写真であり、彼が敬愛する小津安二郎・風でもあった。
起床、布団を畳み、歯を磨き顔を洗う、育てている植物に水をやり、質素な長屋から表へ出ると空を仰ぎみる。
笑ってるような泣いてるような、毎日同じような所作を繰り返し車で仕事へ向かう。
車の中で聴くカセットテープが本編に色をつけていき、背後には東京スカイツリーがそびえ立つ。
僕は東京タワー派なので、あのスカイツリーてのがどうも気に喰わないのだけれど、どうだろう、ようやく10年以上経てなんとなくだが東京に馴染んできてるような貫禄が出てきてる。
彼の仕事はトイレ清掃人、様々な公園にある公衆便所を日々磨き続ける。
事件、と呼べなくもないが、ほんの些細な違いがその恒常的とも思える一日に色を落としていく。
いつも昼飯(コンビニのサンドイッチ)を食べるとこは、代々木八幡宮じゃなかろうか?
あそこの神社好きで僕もよく立ち寄ってた。
彼は木から漏れる陽光を、安物のフィルムカメラで撮っている。
仕事がハネると、銭湯でひとっ風呂、浅草の地下街にある居酒屋で一杯、これが平山ルーティーン。
布団で文庫本読み眠くなると卓上ライトを消し、瞼を閉じれば、その日の情景が滲んでいく。
この夢の映像がヴェンダースらしさだ。

休日の過ごし方もいい。
一週間分の洗濯をコインランドリーで、カメラ屋でフィルムの現像と購入(ここの店主、柴田元幸さんだってさ)
古本屋で百円の文庫本を買ってそこのオバさんのウンチクを一言、
立ち寄る小料理屋のママは石川さゆり、あがた森魚のギターで歌うはアニマルズ「朝日のあたる家」日本語詞、
素敵すぎる休日だ。

そんなような小さいけれど、果てしなく広大な余地を残した平山の頭ん中で、めまぐるしく世界が揺れる。
誰にも理解されなくてもいい、平山の寡黙さが、律儀で几帳面な暮らし向きが、琴線にふれて響いてくる。
あゝ、そうだ、僕にも似たようなところがある。
こうやって映像で平山を追うコトで、すれ違っただけでは判らない人物像が浮かび上がってきて、
まるで近しい友を見てるような親しみと、共通項が見えてきた。
誰にも理解されないコトを望んでいるが、他者と袖が触れ合うコトで、少しだけ自身と世界を繋ぐラインがみえてくるんだ。
住んでるとこは違っても、人の数だけ別々の世界があっても、僕らはこの社会で生きていくしかないんだ。

悠長に流れる平山の生活に、都市を離れた僕も、住んでる場所は違えど同じように共鳴した。
もうあの喧騒の東京へと舞い戻る気はしないけれど、平山は其処で生きていけばいい。
カセットテープの音楽、トイレ掃除と少しばかりのお酒、写真と育てている植物、木漏れ陽が彼を救う。
パーフェクト・デイとは、平山の日常のこと。
ルー・リードの歌が沁みる、佳い映画でした。


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