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なおみの呪い(後編)

※こちらは続きなので、前編から先に読んでね!

https://note.com/iburigacco/n/n40056ad4d94a

〜かくして恐怖新聞と化す〜

・・・というわけで、その絵本はいつしか園児の間で
「なおみの本」と呼ばれることとなった。

ときどき男の子が唐突に
「なおみの本みようぜーーー!」
と思いだしたように口火を切り、先生に本を出してもらう。

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「キャアアーーー!いやーーーー!こわいーーーー!」
ページをめくるたび、まるでホラー漫画扱いで阿鼻叫喚の騒ぎとなり、逃げ惑う園児たち。

その後何度かこの遊びが繰り返され、やがて私は卒園を迎える。


なおみのその後の消息だが、記憶を遡ってみても、
卒園式のリハーサルでポールモーリアの「オリーブの首飾り」に乗せて入場行進の練習をしたこと以外、何にも覚えちゃいない...
(「このBGMって卒園式にしてはちょっとあれよね」って園長先生と担任の先生が言っていたが、結局セトリが変更されることはなかった…)


しかし、その園はまだそこにある。

もしかしたら、なおみの本も、今もそこにあるのかも知れない...
(何年も前に入り口まで遊びにいってブランコに乗ったけど、妙齢になると
自分の子供の入園相談だと思われてるのか不審者扱いされなくてよかったなあ、と心底思う)


〜まんじりともしない気分をあなたにもあげるよ〜
(ドラゴンボールのED風に)

今回この話を書いたのも、あの頃を思い出すと、ときどき脳裏に浮かんでくるからである。そう、なおみが。

何十年を経ても時々、あれってなんだったんだろう…?というまんじりともしない余韻が私に語りかける。
学区が違った関係で、全然違う小学校に進んだ、今はあの頃の同級生に確かめる術もない...


〜繰り返される命題〜(売れると思った)

「なんで絵本にしたの?」「なんで売れると思ったの…?」
(しかし現に一冊は売れている)

市松人形って子供に人気ないって気づかなかったの?
ピエロと同じくらい、そりゃあ子供から人気ないんだよ...?

まるで人類が創造された起源、意味を問うように私の頭の中で繰り返される終わりなき問答…


〜そして東京大学物語の村上くんの妄想力が乗り移る〜

当のなおみも災難である。
人間に作られ、勝手に絵本の主人公にされ、挙句に園児たちから怖がられる。

さすれば、エッヘン!おでこのめがねで、デコデコ、デコリ~ン!で、なおみの気持ちをイタコするぜ!


(こっから妄想)
なおみはただ可愛く作られたお人形。
人間の愛玩具として作られたお人形。


「人間は神に似せて造られたと」と言われているが、
そんな人間が神の真似をして、人間自身の姿を映して作られたお人形。

子供の健やかな成長を祈り、依代にされ、時に子供の遊び相手となりその生き様を全うし、時にはホラー漫画の題材にもされる。
そして今度は人間の都合で薄暗い洋館に連れてこられて写真を撮られる人形の運命。ただのいい迷惑である。
人間の思惑に左右される、そんなあたいはいつでも気怠いエンジェルうふふ。(妄想終わり)


底知れぬ、つかみきれぬ心情を持て余したまま時は過ぎたが、今回振り返って、新たに分かったことがある。

私が怖かったのは人形じゃない。
自分が喜びもしないものを良かれと思って、(大人という)他者が与えてくる、自分の理解できない世界が広がっている、そのことが底知れず怖かったのだなあ。

それが、あの白い洋館がたたずむ、暗い緑の木々に象徴されていたのであろう。そしてそのことに意識の光をあて、気づけたことは幸いである。


〜結局、呪いの本質とは〜


何十年物ものを経て、私の脳裏にたびたび浮かんでくる「なおみ」。
それはもう呪いと言っても良いだろう。

現に前後編にわたり、なおみを連呼し一生分を使い果たしたし、私自身、気付かぬうちにフリー素材サイトで取り憑かれたように市松人形の画像を検索しまくる、という怪異が巻き起こっていた。(ただ無料プランのDL制限で時間かかってただけや...)

私にはシックスセンスはないし、超常現象との遭遇体験もない。
きっと私自身の想念が開放してもらいたくて、出てきたのであろう。
そして呪いは私自身による理解によって癒されたのである。(よし、こじつけられたぞ)

つまり呪いとは恐るるべきものではなく、単に、まだ解放されていないエネルギーであるのだ。

 この文章を通じて、子供時代にはあの絵本の作者のセンスを理解できなくて、もし誰か園児の保護者が寄付してくれたんだったら、キワモノ扱いしていてごめんね、という私の悔恨と懺悔を共に綴ることとした。

昨今の状況のもと、日本人形が売れなくてと困っている人形業界の人々の生活が守られ、日本の美しき伝統と職人技が守られることを祈りたい。

ちょっとモヤっとした皆さんは、コロナ禍でも完全武装の防護服を華麗に着こなしているナオミキャンベルさんの画像を検索してなごんで欲しいと思う。それだけが筆者の願いである。

そして一番驚いたのは、余計なことを書いちゃったせいで、コロナウィルスに関する注意書きが付いちゃったけど、締まらないままこのまま終わろうと思う。


〜fin〜


【注釈】

・東京大学物語の村上君・・・「BE FREE!」、「まじかる☆タルるートくん」などで知られる天才漫画家江川達也先生の代表作の一つ。若い頃は理解できないまま途中までしか読んでないが、村上君のうざい思考力はあながち他人事じゃないと思い始める。

・売れると思った・・・作品名を忘れてしまったが、かつてがっこちゃん家が親しんだ4コマ漫画からの引用。猫のために身を持ち崩す成人男性が、懲りずに「売れると思った」と新しい商品を開発する様が非常に面白おかしく、何度もセリフを真似してはご家庭が爆笑に包まれた背景がある。

・ドラゴンボールのED・・・永遠に続くかのように思えるドラゴンボールシリーズのアニメエンディングテーマのうち、ここでは「ロマンティックあげるよ」を指す。筆者にはサビ部分の歌詞「ロマンティックあげるよ」が「ロマンティックはゲールよ」と聞こえ、きっとこれからゲールという登場人物が出てくるのかも知れない、いやもしかしてアニメオリジナルキャラ?などと無駄な妄想が膨らんだことは記憶に新しい。

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