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鳥の声が届き、うす墨色の空をお散歩する日記。

このあいだ、ホトトギスの聞きなし(鳴き声の音に文字をあてたもの)『てっぺんかけたか』は、漢字だと『天辺翔けたか』になりますよとフォロワーさんから教えていただきました。

天辺翔けたか。
その字面があまりにも美しくて、私はずっと、その美しい漢字、言葉のイメージの世界に浸っていました。
(あと……ツバメの聞きなしと、滴る、も今現在私の中に喜びを広げてくれている言葉です。
ちなみにまだ私は白亜紀にいます。気に入ったので。行ったり来たりしています。)

ホトトギス。
昼間の鳴き声、夜中の鳴き声。
特に、夜の静寂に響くホトトギスの声が好きです。響くのですが同時に、届く、と捉えます。
私に届いてる感じがするの。夜のしじまから。
そうして私はこっそりと、小さく愛おしい気持ちになります。



夏至も過ぎ最近はホトトギスの鳴き声が少なくなってきました。私は少し寂しくてその姿が見たくなり画像を検索しました。
ホトトギスの、青い頭やしましまのお腹、黄色に縁取られたまんまるな目のイラストを見ていたら、関連する俳句も出てきました。
そして、小林一茶の句を知りました。


うす墨を 流した空や 時鳥(ホトトギス)

という一句です。


なんて美しいの。

天辺を翔ける……と、
うす墨を流した空。時鳥。
が心の中で共存できる、心の仕組みが幸せです。


音、色、空間、言の葉、どんな感覚も内に無限に重ねられ広げることができるなんて、人の心はなんて自由で楽しいのでしょう。
そして同じように、同時に、無限に重なりあうこの世界は、なんて美しいの。



天辺に生えてる木。




この句から、うす墨という言葉を私は初めて知りました。
うす墨色という日本の伝統色があるのですね。
調べてみたらその言葉の通りの色でした。
淡く薄く柔らかな墨の色。
例えば掛け軸の中の、遠く静かな山陵のような。


うす墨色は、鼠色や灰色という色名が使われる以前から用いられていたそうです。とても古くからある言葉なのですね。
そして、うす墨色は平安時代、喪服の染色や訃報を知らせる手紙の墨に用いられ、あまりよい色ではありませんでした。とありました。
今が平安時代でなくて良かった。だって私は何にも知らないまっさらな心で、この色をただ美しいと思えるから。


今まで空を見上げ、灰色ではしっくりこないことが多かったのですが、うす墨色が私の心に染み込み空と一体になりました。


一茶の句からこの言葉を知ることができて良かったです。




羊雲と、雲に引っかかった星を採る人。



さあ質問です。突然の。
うす墨色を、あなたは今まで何と読んでいましたか?

うすすみいろ?うすずみいろ?
私は、うすすみと読むのかと思っていたのですが、うすずみでした。
なんとなく私の感覚だとうすすみの方が音がすべらかで心地良く感じるという、個人的な好みを発見しました。
体に流れる音は人それぞれなので、きっと好みやしっくりくる感覚がそれぞれにあるのかしら。あなたはいかがですか?
文字でそんなことを一緒に感じられるお楽しみです。もしすでに読み方を知っていたらごめんなさい。ふふふ。
イカ墨の読み方がいかずみだったら、ちょっと本気っぽさが増す気がします(イカの。)


新しく覚えた言葉が嬉しくて、心の中で何度もうすずみ色、と唱えていたら自然と今はうすずみ、と言う方が馴染みました。



そして素敵だなと思ったこともうひとつ。
ホトトギスのことを時鳥と漢字表記するのは、ホトトギスが田植えを始める時期を告げる鳥だからだそうです。
日本語には、田んぼや、田んぼの神様を由来とする言葉が色々あって(※)、こんなところにも表れてるのだなあと思いました。素敵な出会いと発見があり、嬉しくなりました。
(※まだそんなに知らないけど、私のお気に入りをあなたに。桜の語源は、さ=田んぼの神様、稲の精霊 くら=神様のいる座、降臨する場所 なのですって。)

ずっとずっと、日本に暮らす人々の中に田んぼがあって、感謝と敬意が言葉となり表れているように思います。
ひとつひとつの言葉や、先人の心を知るごとに、その豊かさ深さ美しさに心が幸せになります。
人生に幸せが増えてゆきます。
そして、放つ言葉に宿せる想いが増すの。
感謝も敬意も親しみも喜びもここに。
永遠に連なるオーロラの層みたい。





巻雲にのる天使




そうそして、そんな考えごとをおしまいにして、夜のお散歩をすることにしました。

夜のそれは深海に似ています。
何にもない闇に心と体を委ねて、気持ち良く揺蕩います。すると、しゅわしゅわゆるりと全てがほどけてゆくのです。
だから夜のお散歩も大好き。



……さてと玄関を開けると、夏の夕方のにおいと、外気の柔らかな潤いを感じました。
そして、はっと気付いたら一瞬で、体中がうす墨色の空気に取り巻かれていました。わずかに桃色も溶かし込まれています。
覚えたばかりの色に包まれとっても嬉しくなりました。
まだ、空気中に太陽の粒子が残っています。
私が腕を動かすとゆら、と纏うようについてきます。いちばん最後の夕空のかけら。
足にもお腹にも顔にも髪にも、淡い光を纏い歩きました。

川辺に着くまでのほんの数分のあいだでした。
歩いているうちにもう、一歩ずつどんどん、まわりの桃色は消えてゆきました。
空気の中に残っていた光のつぶも全部、消えてゆきました。


土手に登ると、私や道や木や人や建物、私たちみんなのことを空が包んでいました。
透明な闇が重なり合うようです。それはとても優しい。
ゆらり ゆるなみ やみよの みなも。
とぷん たぷんと。
一瞬が繋がる狭間から。
夜の滴りが細胞にゆっくりと満ち充ちてゆく。
見上げると、綺麗なうす墨色がどこまでも広がり、細い月が柔らかく微笑んでいました。






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