#24【服コラム】アメリカントラッドの手引き
1.アメリカントラッドの魅力
服装のカジュアル化が進み、ファッションが細分化された現代にアメリカントラッドのスタイルを身に着けることの魅力は何だろうか。その一つは時代を超越した圧倒的な「定番」であることだろう。誰が着ても、いつ着てもかっこよく着ることができる数少ないスタイルの1つがアメリカントラッドなのだ。
2.アメリカントラッドとは
アメリカントラッドと一口に言えど、具体的にどんなスタイルなのか分かりづらい部分は大いにあるだろう。今回は私なりのアメリカントラッドの解釈をお伝えしたい。現在のアメリカントラッドの源流の中で最も大きなものの1つは米東海岸の私立大学群、「アイビー・リーグ」の学生たちのスタイルだ。中~上流階級に属していた彼らのスタイルは階級の品格や大学の規則に則りながらも遊びのあるもので、アメリカントラッドのみならずその後のファッション全体にも大きな影響を及ぼした。
そしてそんな彼らが着用し、長くアメリカの人々に愛用されることとなったBrooks BrothersやJ.Pressといったブランドとそのファクトリーの製品がアメリカントラッドの主流として現在も愛されている。
具体的なアイテムとしてはオックスフォード生地のボタンダウンシャツ、右下がりのレジメンタルタイ、パッチポケットのついたボックスシルエットのネイビーブレザー、そしてチノパンにローファーといった今でも目にするようなものが上げられる。
ちなみに、現在アメリカントラッドやアイビーのブランドとしても知られるRalph Laurenは1970年台から本格的に登場したブランドであり、むしろアメリカントラッドやアイビーを模倣し、古き良きアメリカを想起させるようなアイテムでその価値を再発見したと言っても良いだろう。
3.アメリカントラッドのブランド・ショップ
・Brooks Brothers
Brooks Brothersこそアメリカントラッドの本家本元と言えるようなブランドだろう。アメリカで最初に既製服を販売したブランドであり、1818年創業という長い歴史をもっており、かのエイブラハム・リンカーンやセオドア・ルーズベルトなどの米国大統領や作家・スコット・フィッツジェラルドまでもがかつての顧客であったと言われている。ダーツのないボックスシルエットのジャケットやボタンダウンのオックスフォードシャツ、右下がりの縞のレジメンタルタイなどのアメリカントラッドを特徴づけるようなアイテムを作った偉大なブランドであり、現在でもベーシックで質の高いアイテムを取り揃えている。
・J.Press
J.Pressは1902年、アイビーリーグを形作る大学の1つであるイエール大学前に創業したブランドで、Brooks Brothersに比べてよりアイビー色が強いことが特徴と言えるだろう。基本的なジャケットの形やアイテムの傾向はBrooks Brothersと同じようなアメリカントラッドの王道と言えるが、アイビースタイルのブレザーによく見られるディティールであるフックベントや、片胸にフラップ付きポケットのついたボタンダウンシャツである“アービングシャツ”などの製品を世に送り出し、アメリカントラッドの源泉の1つと言える。
現在では日本のオンワードに買収されているが、日本のビジネスマン向けのいわゆる“紳士服”に限らず、アイコニックなアメリカンスタイルの製品を作り続けている。
・Polo Ralph Lauren
1968年にネクタイの販売からはじまったブランドで、上記の2つのブランドに比べて決して歴史が長いと言えるわけではないが、創業者でありデザイナーのラルフ・ローレンによる、それまでのアメリカントラッドに基づきつつもイギリス的な雰囲気を織り交ぜたような製品はそれまでのアメリカントラッドのアイテムと違ったスタイリッシュさを醸し出すこととなり、現在では逆輸入的にイギリス王室にも着用されるまでになった。アイコニックなポニーのマークやそのポニーがついたポロシャツは登場から半世紀以上が過ぎた現在でも色褪せない魅力を持っている。
・BEAMS PLUS
「AMERICAN LIFE SHOP」というコンセプトのもとに始まったセレクトショップであるBEAMSがその原点に帰るかのように「’45〜’65年のアメリカ」をコンセプトにして発足したレーベルがBEAMS PLUSである。もちろん日本人によってセレクトやディレクションがなされているため日本人の目を通したアメリカが体現されているアイテムが多く、逆に言えば日本人が着るには様々な意味で丁度いいものが取り揃えられている。どのアイテムも上記のようなブランドものに比べ価格帯も抑えられているためアメリカントラッドの入門にはうってつけであろう。
4.さいごに
そうは言っても文章だけでアメリカントラッドの魅力をお伝えするのは難しい。実際に上記のようなブランド・ショップに足を運び、実際のアイテムに触れ、できればそれを着用していただくことで、一過性のトレンドではないライフスタイルの一部としてのアメリカントラッドの良さを知っていただけるのではないだろうか。
筆者:吉本伊吹
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