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Agile Japan 2022参加レポート

こんにちは、IBMの牛込です。
2022年11月5日・6日に、Social Impact(ソーシャルインパクト)をテーマとして開催されたAgile Japan 2022を聴講する機会を頂き、いくつかのセッションに参加させて頂きました。
その中から印象に残った2セッションをピックアップして、その内容と聞いていて感じたことをコメントしていきたいと思います。

今回のagile japanのテーマ


今回のテーマは「Social Impact Agile(社会課題解決におけるアジャイル)」で、ソフトウェア開発から対象を広げ、事業展開・組織運営・プロジェクト運営など複雑な課題に対するアジャイルのアプローチの適用がテーマでした。

・タイムテーブル
Day1:https://2022.agilejapan.jp/timetable_day1/
Day2:https://2022.agilejapan.jp/timetable_day2/

1.基調講演:SiAgile: ソーシャルインパクトのアジャイル宣言(ロシオ・ブリセーニョ・ロペス)


SiAgile(ソーシャル・インパクト・アジャイル)の共同設立者のロシオ・ブリセーニョ・ロペスさんによる、社会課題に対するアジャイルの適用についてのセッションです。ロシオさんはコスタリカの2022-2026年選挙で副大統領候補者として立候補もしています。

・セッションのポイント
 アジャイルの対象領域の拡大 
 ソーシャルインパクトアジャイルの5つの約束(コミットメント)
 日本とコスタリカの共通の課題

アジャイルの対象領域の拡大

アジャイルマニフェストが発表されて約20年が経過しした現在では、アジャイルの考えはソフトウェア開発に留まらず、更に広い領域を対象とするようになってきている。特に社会課題解決(Social Impactやsocial development)の領域ではアジャイルの手法が必要とされており、適用する余地がある。政府や国際的な組織が抱える課題も一般的な企業が抱える課題と同じであり、アジャイルの知識を持つ人は善良な市民としてサポートすべきである。

ソーシャルインパクトアジャイルの5つの約束(コミットメント)

社会変革を目的としたアジャイルプロジェクトに取り組む際には、以下の5つの約束を遵守すべきである。
- 目的を明瞭にして共有する
- 恩恵を受ける人を積極的に巻き込む(現場に出ていく)
- チームがより良い社会に向けて情熱を持つ
- 高い透明性を保つこと
- 頻繁に結果を見える化する

チリにおける貧困解消のために先住民の起業のサポートの事例では、先住民・政府機関・出資者など立場の異なるステークホルダーを一箇所に集め、実際に対面で議論して課題を見える化し、参加者全員が共通の目的にコミットできるような場を作り出したことで取り組みを成功に導いた。このプラクティスは、企業だけでなく政府やあらゆる場所でも有効な方法である。

日本とコスタリカの共通の課題

日本社会は、経済的・文化的な豊かさ、イノベーティブな土壌などの強みがある一方で、多様性の乏しさ、労働環境、複雑な法・税制度など弱みがある。逆に、コスタリカ(ロシオ氏の母国)はその逆の状況である。どちらも、共にDX推進に関して問題を抱えており、下記の様な課題が存在している。
 ・DXの透明性:入国管理・税制管理・教育システム・予約システム等のシステムに関わる透明性
 ・セキュリティーの課題:サイバー攻撃などへの対応
この様な問題に対し、ソーシャルインパクトアジャイル宣言の手法を活用して、より良い社会システムを目指すことがアジャイルの知識を持つ人にとっての責務である。

ソーシャルインパクトアジャイル宣言の内容はどの様なプロジェクト活動においても重要なポイントなのでわざわざアジャイルと名前を付けなくても良いのかもしれませんが、このようなエッセンスを組織が取り入れ、いつの間にかアジャイルな形になっていたという形が望ましいのだなと思います。
IPA発行の「なぜ今アジャイルか」という日本語の資料がありますので、お時間がある方は参考までに読んでみて下さい。
参考:IPA なぜ今アジャイルか 2020年2月 (https://www.ipa.go.jp/files/000073019.pdf)

2.アジャイルを小さいままで組織に広める(小田中育生)

ナビタイムジャパン小田中育生さんによるセッションです。小田中さんは経路探索の研究開発部門責任者であり、VPoEとしてアジャイル開発の導入推進・支援も行っておられます。20分ほどの短いセッションですっかり小田中さんファンになってしまったのでご紹介したいと思います。
・発表資料:リンク

・セッションのポイント
 ナビタイムでのアジャイル推進の背景
 アジャイルを推進するフォース・抑制するフォース
 自走できるチームを目指す支援

ナビタイムでのアジャイル推進の背景

ナビタイムジャパンにとってのソーシャルインパクトは「経路探索エンジンの技術で産業に奉仕する」ことであり、乗り換え案内などのtoCサービスを幅広く展開している。顧客のフィードバックを受けて改善を繰り返し変化する要望に応え続ける手法が浸透してきている背景から、アジャイルに対する期待が社内でも高まっていた。会社の価値観(全社一丸・顧客目線・成長し続ける)はアジャイルマニフェストにも通じるところがあり、経営層からも期待は高まっている一方で、アジャイルは社内に十分に浸透していなかった。

アジャイルを推進するフォース・抑制するフォース

組織へのアジャイル導入に当たって、経営層からの期待も高まっていることからトップダウンでアジャイルを浸透させる方法を検討したが、ナビタイムジャパンではボトムアップ的な手法(小さいアジャイル)の方がより推進力を高めやすいと考えて後者の方法を選択した。

<アジャイルを推進するフォース・抑制するフォース>
「推進するフォース」: アジャイルに取り組みたい現場の声、導入を支援するワークグループ、社内での成功事例、元々の組織文化
「抑制するフォース」:自己流アジャイルが招くアンチパターン、惰性で取り組む「ながら」アジャイル、「うちのチームには向いていない」、ビジネス慣行

自走支援の取り組みと支援後の課題

アジャイル導入に対する抑制フォースを取り除くため、まずは知識・経験を身に付け、「Why」を共有し、成功体験を得られるように支援を始めた。各チームが独立自走してアジャイルを実践できるよう支援を行った結果、アジャイルを実践するチームの割合が上昇し、全くアジャイルでないチームについては0になった。更に、支援後に社員同士での自発的な学びの場が生まれるようになった。
<支援の内容>
 ・社内向けにカスタマイズしたガイドライン
 ・アジャイルの基本を抑える座学講習
 ・小さく繰り返し的に作ることを体感する演習
 ・実践を支援するワークグループ
一方で、支援を終了した後に「サブカルチャー」(製品・チームなどに細分化して醸成される下位文化)によって揺り戻しが起こり、従来のやり方に戻ってしまうチームが出てきた。無理やり再度アジャイルを導入しようとすると文化を壊してしまう可能性があるため、現在は変革の主体を現場に移行するよう各自の内発的な動機を高める取り組みを行なっている。

アジャイル的な手法に乗り気でない・反対する人にとって、なぜアジャイルの考えが受け入れられないかに対する答えを探していた私にとっては、今回セッションで紹介された小田中さんの支援の仕方や考えは非常に腑に落ちるものがありました。小田中さんの実績や話し方の上手さによる所が大きいとは思うものの、アジャイルに対して抵抗感がある人に対してアジャイルの素晴らしさを滔々と説明するより、あなたは実はもうアジャイルを実践しているんですよ、と相手の中に気づきを起こすことで心理的な抵抗を下げる方法には感銘を受け、何となく自分も周りの人を説得できそうな気がしてきました。

またセッション後に、著書『いちばんやさしいアジャイル開発の教本』(インプレス社)を読んだのですが、セッションでは詳しく触れられなかったアジャイルの具体的な実践方法からチームが停滞して上手く行かない場合の改善方法まで紹介されており、アジャイルを今まで試したことのない方から既に実践している方の振り返り、あるいはアジャイルを組織に広めようと苦戦している方まで役に立つ内容でおすすめです。

今回は兼ねてより関心のあるソーシャルインパクトというテーマで数多くのセッションを聴講させて頂き、多くの学びがありました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。


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