ボイストレーニングおけるネガティブ•ケイパビリティ

今回は前回予告した通り、ボイストレーニングにおけるネガティブ•ケイパビリティについて書きます。
ネガティブ•ケイパビリティは、分からない事を分からないと認識して誤った結論を出さないように常に得た情報に対して疑問を持ち、真相を解き明かそうとする構えの事を言います。
※ネガティブ•ケイパビリティについての詳しい解説は前回の記事を読んでみてください。

他の記事でも書いている通り、僕は数年前から歌唱時機能性発声障害というものになっており、今もまだ治っていません。
声帯には異変がないにも関わらず、狙った声に反した声が出てしまう状態で以前と比べて声をろくにコントロールできない状態にあります。
この体験を踏まえながらボイストレーニングにおけるネガティブ•ケイパビリティの大切さについて書いていきます。
※歌唱時機能性発声障害についてはこちらの記事で解説しています。

現在ボイストレーニング業界には様々な派閥や団体やメソッドなどが存在しています。
「発声を良くする」という同じ目的でありながら、その手法は多岐に渡ります。
その中で残念ながら間違った知識を人に伝えたり、生徒の声を悪くさせるようなボイストレーナーも沢山います。
心の底から生徒の声を良くしたいと思っていながらも生徒の声を悪くさせるという事案もかなりあるのが現状でしょう。

それはボイストレーニングにおいてまだ分かっていない事が沢山ある事が原因として大きいでしょう。
発声に関わる要素というのは無数にあって1人の人間がその知識を全て網羅する事は困難です。
特に固定のメソッドの中だけでレッスンを行うトレーナーはかなり危険だと僕は考えています。
そのメソッド内の情報にしかアクセス出来ないという事で見逃している情報があるんじゃないかと感じています。

僕はボイストレーニング始めたての頃はSpeech Level Singing(通称:SLS)などを主体にしたボイストレーニングをずっと習っていました。
SLS系のボイトレは一言で言うなら、喉や声帯に着目したボイストレーニングです。
現在の発声状態をトレーナーが聞き分けた上でより良い発声になるように特定の子音や母音を使った発声練習で誘導していくようなトレーニングとして認識しています。

SLS系のボイストレーニングは当時の僕にとっては画期的でした。
みるみるうちに歌唱の幅が広がるのを感じましたし、急速に発声が良くなっていきました。
しかしながらその中で何年経っても解決しない発声の悩みなどもありました。
そしてその後、声帯を酷使した事が原因で声帯炎や声帯結節などになったり声にトラブルを抱える事が増えました。
また同時期に潰瘍性大腸炎を発症して、そもそもボイストレーニングどころじゃない時期もありました。

僕の声に本格的に異変が出たのは、潰瘍性大腸炎の入院治療が終わって声帯結節も完治させた後でした。
当たり前のように出せるはずの音程で声がひっくり返ってコントロール不能になる現象が起き始めたのです。
これが前述した歌唱時機能性発声障害の症状でした。
そこから様々なボイストレーナーを渡り歩いて今の先生にたどり着いたという感じです。

歌唱時機能性発声障害を改善するために今現在僕が習っているボイストレーニングは解剖学やスポーツ科学や東洋医学的な要素が強いボイストレーニングです。
正しい身体の使い方や呼吸法を身に付けたり、歌唱に必要な筋力を付ける事を重視しています。

おそらく僕が歌唱時機能性発声障害になった原因は、もともと運動を全くしてこなかった事や潰瘍性大腸炎になって大腸の働きが鈍くなる事によって歌において重要である呼吸筋をうまく扱えなくなって筋力が低下した事が大きいでしょう。
また、投薬の副作用で激しい倦怠感や脱力感が出て身体をうまく動かせなくなった事が原因として大きいでしょう。

僕が以前習っていたSLSなどのボイストレーニングは着目しているのが喉や声帯で呼吸や身体の使い方には言及しない傾向にあります。
身体機能が整っている人間であればそれでも問題はあまりないのかもしれませんが、そうでない人にとっては限界があると感じています。

声に関わる要素は多岐に渡ります。
その要素を可能な限り網羅するために、僕の尊敬するボイストレーナーの先生は、理学療法、整体師、言語聴覚士、パーソナルトレーナーなど様々な治療家の先生と協力して声を良くする方法を日々研究しています。
それはあまりにも膨大な情報量で素人には到底把握しきれるレベルではありません。
僕自身も分からない事だらけです。

しかしこれだけは言えます。
発声についてはまだまだ研究段階で分かっていない事が沢山あって今ある情報が全てであると考えるのは非常に危険であるという事です。
ボイストレーニングを習いたての素人や一つのメソッドしか知らない人間が発声について分かった気になって人に教えようとしていたりするのを見るとかなり危険だなと感じます。
研究熱心なプロのボイストレーナーでさえ生徒の声を壊したり生徒の声を改善させられない事があるくらい難しい分野であるにも関わらず、知った気になって人に発声の指導をするというのはネガティブ•ケイパビリティ的な構えがまるで足りていないと言わざるを得ません。

以前書いた歌唱時機能性発声障害の記事と被る内容が多くはなりましたが、ネガティブ•ケイパビリティの記事を書いた時にネガティブ•ケイパビリティの話はボイストレーニングと関連づけられそうだなという気持ちからこんな記事を書いてみました。
ボイストレーニングの指導をする人や習っている人に読んでいただけたら幸いです。

気に入ってくれた方はサポートお願いします。