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〈ケアデザインサミット2023〉第一部くらしと福祉―たすけあい 田中れいかさん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。
ぜひ、お楽しみください。

「埼玉から来ました!お昼前でお腹がすいてきた頃だと思うので、お土産の埼玉銘菓をつまみながら、話を聞いていただけたら、と思います」
そう言って、お菓子を配りながら登場した田中れいかさん。すらっとした美人さんだーと見とれながら、お菓子を受け取る。……甘いものが嬉しい。

田中れいかさんは、モデルであり、児童養護施設で暮らした経験を伝える伝道師でもある。
2018年「ミス・ユニバース」という国際的なミス・コンテストで、茨城県大会の準グランプリを受賞している。
そんなモデルを目指して活動していた田中さんが、現在「児童養護施設」やそれに関する情報を発信しているのはどうしてなんだろう……?

「私自身、児童養護施設で育った経験があり、施設を出た後に、施設出身者=社会的弱者とレッテルを貼られ、すごく苦しかったんです。なぜ自分で望んで入ったわけではないのに、社会は、大人は、私のことを“弱い存在”と決めつけるんだろうって。そこに抗おうともしました。『施設出身の私だけでない私を見て!』という想いが、モデルを目指すきっかけになったんだと思います。

20歳の時です。私はコーチングを受けていました。コーチについてもらって週一度、半年間、将来自分はどんな自分になりたいのか、どんなモデルになりたいのか、モデルという手段を使って、社会に向けてどんな発信をしていきたいのか……こんなことをコーチと徹底的に話していくんです。コーチングの中で、初めて『実は施設で育ったんです』とぽろっと打ち明けたんですね。そうしたらコーチが『すごい特別な経験じゃん!』って言ってくれたんです。コーチのこの一言があったおかげで、私の今があります」

児童養護施設出身者という特別な経験を活かして、施設にいる子たちを励ますような、そんなメッセージを発信できるモデルになろう!
こうして田中れいかさんは、親元を離れて暮らす「社会的養護」への理解を広げるための活動をしている。


社会的養護とは?


グラフを見せながら説明をする田中さん。
……ニュースでも見ることが少なくない虐待のケース。日本全国で、児童虐待の相談対応件数は1年間で20万件以上と言われている。
「この虐待について、厚労省は4つに分類しています。①身体的虐待、②ネグレクトと呼ばれる育児放棄、③性的虐待、④心理的虐待。
最近は宗教の問題もここに該当するんじゃないかという議論や、きょうだい間による差別的扱いというのも、心理的虐待に入るようになりました」

こういった虐待に対する相談が寄せられる場所が児童相談所。当事者である子どもが通う学校や幼稚園・保育園、近所の人や警察などから相談(通告)が寄せられる。
通告によって、児童相談所が『子どもが家にいることが適当ではない』と判断した場合、児童相談所の中にある一時保護所という環境で、最大2か月過ごすことができる。さらに、家に帰ることができないという判断がされたら、児童養護施設などで暮らすということになる。
「児童相談所に通告があるのは年間で20万件。そのうち一時保護されるのは2.7万件、10分の1です。さらに施設などで暮らす子にしぼると4000件と、もっと少なくなります」

児童相談所で働く「児童福祉司」という職につく人材不足も、問題になっていると田中さんは言う。
「現在、児童福祉司さんは1人あたり155件のケースを受け持っていて、そのうち虐待の相談のケースというのは49.2件とされています。
その体制で、大切な子どもたちの複雑な現状を支えること、できないですよね……。この業界も人材不足は深刻な問題です」

家庭で暮らすことが適当ではないと判断された子どもたちが行く領域や仕組みのことを「社会的養護」と言う。
「簡単に言うと、親元を離れて暮らす子どもたちを社会が変わって養育する仕組みのことです。現在は里親家庭を増やすために里親制度普及を頑張っていますが、8割が施設養育ということでまだまだ施設で暮らす子どもたちが多いのが現状です」


児童養護施設はこわくない


「せっかくなので、施設の中ご紹介していきたいと思います」
モニターには、田中さんが育った児童養護施設の動画が映し出された。

「私の施設には、同じ敷地内に保育園も併設しています。こちらが正面玄関です。中は、何度も改修工事をしていて、帰るたびに『あれ、ここ新しくなってる』とか『仕切りが増えてる』というスピードで変わっています。なるべく家庭に近い環境にしようと、試行錯誤のあとが見られます。
全体的なつくりとしては、保育園のイメージに近いかな。テレビは観る時間が決まっていて、代わりばんこに観ます。これは今、個室の様子が写っていますね。1人1部屋で暮らすことができます。
グランドピアノまであるんですよ。ご寄贈くださった方がいたそうです。私はすでに施設を出ていたのでちょっとうらやましかったです。地域の方をはじめ、たくさんの方の支援で、この施設はがんばって運営しています」

今後は、この場所を地域に開放していくために、キッチンを整備して場所貸しをする予定なんだとか。

決して閉ざされているわけでない。
児童福祉施設に住む子どもたちの体温のようなものを、感じる。これからは、もっと意識して感じたい。


▼田中れいか オフィシャルHP
https://tanakareika.jimdofree.com

▼YOUTUBE「社会的養護専門 たすけあいch/田中れいか」
https://www.youtube.com/@tasukeai-ch


text & photo by Azusa Yamamoto
photo by Nobuhiko Kobayashi


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