見出し画像

「日本一わかりやすい介護講座」を体験!

ビギナーズトレーニングvol.02
1日目「自立を促すトランスファー&原理原則に基づく褥瘡予防」


この日は2人の講師が「トランスファー」と「褥瘡予防」を教えてくれるという。

トランスファーのプロ・黒木勝紀さん。
トランスファーとは、移動とか乗り換えという意味で、医療介護の世界では「移乗」と呼ばれる。
この言葉を、数年前まで知らなかった。
ベッドから車椅子へ。車椅子からトイレへ。車椅子から浴室へ。
日々当たり前にこなしている動作だ。

ナースで褥瘡ケアのスペシャリストの大山瞳さん。
「褥瘡」という言葉も、知らなかった。
床ずれやねごし(方言)と言われる、寝たきりや身体の不自由なひとには深刻な症状だ。
靴ずれのひどいものと言われ、それは痛い……と納得した。

移乗も褥瘡も、実は他人事ではない。高齢になったり、障がいをもったら、一様にサポートが必要になる。
今回は、そのケアのお話。

いばふく「ビギナーズトレーニング」は、日本一わかりやすい介護講座と題している。いつもの講義と違い、介護福祉の専門性に特化したものだ。
いつも、業界の外の目線で「へえ〜」とか「ふむふむ」と話を聞いているわたしは、すこしばかり腰がひけていた。

いばふくのメンバーは、こんな想いでこの講義を企画したそうだ。
「利用者の立場を体験をしてほしい」

それならいっちょ、利用者として講義に参加してみようじゃないか。

黒木さんの講義。
昨年の「FUKUSHI BEANS'23」に参加したことがある。が、あれはものすごく忙しく(時間がなかったのね)、自分たちでやってみるというターンはなかった。

▼昨年の「FUKUSHI BEANS'23」についてはこちら

今回は、じっくり2時間、自分たちで身体の動きを観察しながらやってみようということで、ベッドが9つ置かれた介護実習室での実習が行われた。

グループで一緒になったのは、ベトナムから来た2人と、介護歴20年の女性・モミジさん(仮名)。
みな、同じ老健で働いているそうだ(参加者みんなで生年月日順にならんで、A〜Fまで順番に言ってチーム分けをしたのに、同じ職場のチームに。もはや奇跡のチームだった)。

早速ベッドに横になり、起こしてもらう。

黒木さんに言われたとおりにやっていても、やっぱりわたしは身体を動かし、彼女たちが動きやすいようにポーズをとってしまう。

このときにまったく身体が動かなかったらどうなるんだろう? わたしみたいに、気を配って利用者さんも身体を動かしているんじゃないだろうか?

黒木さんの話を聞くと、それでいいみたいだ。
「利用者さんの力と介助者の力を合わせることが大事」

たしかに、ちょっとだけお尻や腰を浮かせることで、ものすごくフィット感のある移乗になった実感があった。それには、お互いのタイミングを合わせる必要がある。

利用者さんの返事を待つ。その方のテンポをつかむ。
ご利用者のなかには、言葉は伝わっているものの、理解して返答が出るまでに時間がかかることもある。それぞれのペースがある。

コミュニケーションができて、お互いを知ることができる。そして、身体を預けることができる。
自分におきかえてみてもどうだろう? 「身体を預ける」ってけっこう信頼してないとできないよなあ……。
相手のことを知ろうとする。相手の反応をあせらずに待つ。これは、人と人との関係のつくり方のことを言っているのではないだろうか。


***

心に残ったのは、一緒のグループになったベトナム人の2人。スイさん(仮名)は老健3年目で、モーさん(仮名)は今年入ったばかりの新人だという。
黒木さんの実演を間近でじっくりと観察し、すぐに実践する。
「◯◯さんの場合は、カラダが大きいから、一人でもできるのかな?」
と、自分の看ている利用者さんのことを想像したり
「起きますよ。痛くないですか?」
と、わたしの反応をつぶさに見て、声かけをしてくれた。

介護福祉の勉強は多岐にわたる(介護福祉士の友人から聞くところによると)。ベトナムの2人は、そのうえで、日本語を学びながらの実習になる。

……この学びとろうとする力。乾いたスポンジのようにぐんぐんと吸収していく。彼女たちはきっと、国に帰ったら社長にでもなんでもなれるだろう。

わたしは海外からやってきたこのスペシャリストたちに羨望の眼差しを向けた。

黒木さんのスペシャルな技は、YOUTUBEでも観ることができます。けれどなによりも、直接体験することが理解への近道だと思う!

▼黒木勝紀さんのトランス実践動画はこちら


拍手喝采!? 大山さんの褥瘡予防の講義


大山瞳さんは、今回の講義でも歌っていた。
え、歌? と思う方は、過去のいばふく「ケアデザインサミット2023」で詳細をご確認いただければ。

▼「ケアデザインサミット2023」はこちらから

それよりも驚いたのが、ベッドの上げ下げ体験。

ケアデザインサミットのときは持ち時間が短く、実際にやっているところの映像を観たのみだったのだが、本当にその通りだったのだ……!

朝。寝床でむにゃむにゃと、まどろんでいる。
看護師さんが入ってくる。
「おはようございます。起きましょうね〜」
ベッドを上げる。
ぐ、ぐぐぐ……。
ベッドが上がり、腰から上が徐々に起き上がってくる。カラダはたしかに起き上がっているが、居心地が悪い。
ベッドの角度が15センチ(45度)ほど起き上がったときには、お腹が圧迫されていて腰が重い……。なぜか、息ができない。
そのうえ、わたしは思うように口がきけないでいる。「……く、苦しいです」の一言が、笑顔で接してくれている看護師さんに伝えられない。

朝食が運ばれてきた。地獄の姿勢のまま、食べ物が口に運ばれてくる。
「無理……!」
わたしは叫びたかったが、声が出ない。言葉にならない。

がっかりした様子の看護師さんがリモコンを持ち、今度はベッドを下げる。
またもゆっくりと規則的な動きでもって、ベッドの背もたれが沈んでいく。
あれ? まだいくの? もういいよ。下げすぎ!
「こわい……! やめて!」

「〈ケアデザインサミット2023〉第一部 くらしと福祉―看護師・大山 瞳さん」レポートより


これ、ほんとうにする側とされる側の印象が全く違う。
・最後まで下げるボタンを押し続けるのがフラットになると信じている、ベッドを下げる人。
・15度くらいで、もうフラットになっている気持ちになる、ベッドに寝ている人。

こんなにも差があることにショックを受ける。

大山さんの褥瘡講座。
褥瘡の原因は圧力がかかり、摩擦がかかることによって起こる。大山さんの褥瘡ケアはシンプルだ。

「(リジャストグローブで)除圧をする」

これまで話を聞いてきたプロの介護職員の人たちには、どよめきが起こった。

「2時間ごとの体位変換、やめてもらってます」
→そもそも、褥瘡はずれ圧迫ででぎんだからそれが少なぐなればいいんだ(資料にこうやって書いてあるの、ほんとに)。
※除圧しようねってことです

「褥瘡ケアにガーゼはNG」
→ずれと圧迫を助長し、患部の乾燥と浸軟(角層がふやけて白く見える)をしてしまっていいことなし! 必要なのはモイストフィーリング(適度な湿潤環境)。貼るなら「ハイドロサイト」を貼りましょう。
※わたしも靴ずれしたら、キズパワーパッドを貼るけど、それと同じこと?

「毎日ケアする必要なし」
→感染兆候がなければ、毎日継続しなくてもいい事例がほとんど。入浴時やシャワー時に処置すればOK(週に1、2度)。
※わたしもキズパワーパッド貼ったら治るまで放っておくもんな〜。

もちろん、それぞれに理由があるわけだが、どれも介護現場では“当たり前”とされていて、日々処置が行われてきた。
それを捨てられるのか……?

内心、ドキドキしながら話を聞いていた。
話を聞いていたひとのなかに
「ガーゼ、やめてみっか……」
と言う人がいた。

え、と思った。
これまで信じてやってきたケアを変える。みんな利用者さんをよくしたいと思ってやってきたことだったのに、それはあまり効果がなかった。それは皆わかっていたようだ。

まわるまわるよ、時代はまわる。
だからこそ、これまでのやりかたに固執せずに、新しいやりかたを取り入れてみる。
そういった介護福祉の現場スタッフの方のかろやかさを感じた瞬間だった。

一緒のグループのモミジさん(介護歴20年)も言っていた。
「今日ここに来なければ、自分がやってきたケアが違うということにも気づけなかった。衝撃でした。黒木さんのトランスも、ご利用者の人数が多いので、毎朝起こす時にどんどん移乗してしまっていた。正直、すぐに全員に理想のトランスはできないと思う。だけど、1人や2人から、ここで教わった移乗方法をするところからはじめたい」

後日、いばふくには「肌の乾燥を進めるので石鹸はたくさん使わない、そして保湿クリームをたっぷり使う」という大山さんの言葉を実践すべく、現場にとりいれようとしているという話が届いた。

なんていう柔軟……。
時代は変わる。
そのことを受けいれて、対応していく。
みんな、そうなんだ。
仕事のことや生活のこと。いつまでも古いやり方にこだわらずに新しい方法を模索してもいいんだ。

刺激をもらった、いい1日となった。

text by Azusa Yamamoto
photo by Nobuhiko kobayashi
Nazuki hosokawa


▼「いばふくの舞台裏」開催中!
いばふくの裏側をお伝えする新企画「いばふくの舞台裏」。今回も盛り上がっています。ぜひ当日のいばふくの空気感を体感してみてください!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?