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〈ケアデザインサミット2023〉第三部くらしとまちづくり―アーストラベル水戸 尾崎精彦さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。
福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。ぜひ、お楽しみください。

レジリエンス(resilience):困難をしなやかに乗り越え回復する力(精神的回復力)
「回復力」「復元力」「耐久力」「再起力」「弾力」などと訳される。
この言葉、近年、ビジネスの現場でも注目を集めている。

ケアデザインサミットの最後の話者である尾崎精彦さんの話を聞いたとき、「レジリエンス」が思い浮かんだ。
こんな前置きをしたのだから、あえて書いておこう。このお話、困難に次ぐ困難からスタートします……。


困難その1「コロナ禍での旅行会社代表就任」


「こんにちは。アーストラベル水戸株式会社の尾崎精彦と申します。2021年、コロナ禍で株を買い取り会社の代表に就任しました。はい……ちょっと変わってますかね」

ご自分で宣言しているのだから、ツッコまないでおこう……。

「就任当時は、毎日の電話とメールが全部キャンセルの連絡。1週間ぐらいで、一気に売り上げがなくなって、これからどうしようって青くなってました」


困難その2「2040年の壁」


「2040年、世界の人口はめちゃめちゃ増えるんです。世界人口は現在80億人で、2030年に10億増えて90億人に。2040年には、さらに増えて92億人になるといわれています。世界のパワーバランスが変わっていきます」

アジアにアメリカの人口分がのっかって、アフリカにはヨーロッパの人口分が増えていく計算だ。
「最も特徴的なのは、アフリカのナイジェリア。いまの平均年齢が18歳なんですよ。……もうびっくりでしょ。18歳でありながら、すでにアフリカで第一位のGDP(国内総生産・国の経済活動状況)をもつ国になっているんです」

ナイジェリアでは現在、通信衛星を上げ、国内どこでもインターネットが使える状態になっている。また、中国から輸出されたスマートフォンが手に入る環境だという。
「日本がいま躍起になってDX(デジタルによる変革)を叫んでいますけど、18歳の国にあっという間に追い抜かれるんじゃないか、なんていうことも言われています」

ナイジェリアと同じように、平均年齢が低いのがベトナム。日本に技能実習生として働きにやってきている平均年齢32歳の彼ら彼女らは、その技術を自国に持って帰って発展をしていく、なんていう話もあるそうだ。

「一方の日本はというと、2040年までに生産年齢人口(働く人)が1000万人減っていくという……。これまたとんでもないことが起きてくるんです。そうすると、いまの1.5倍から2倍ぐらいの生産性で働かないと、おそらく日本がもたないぞといわれています」

いまも結構がんばっているのに……2倍も。正直つらい。


困難その3「46.5位」


「これ、なんだかわかりますか?」
尾崎さんは会場に向かって数字を見せた。

46.5

「魅力度ですかね」
会場から声が上がる。
「おお、早い。そうなんです。茨城県の魅力度ランキングの平均値。7年連続最下位って、もう悲しいを通り越して、やばいですよね……」

「僕は、そんな魅力度ランキング最下位の茨城県に、修学旅行に来てくれって活動してるんです」

……尾崎さんの声にすこし力が入った気がした。困難に次ぐ困難にだいぶ打ちのめされていたわたしはそろそろ光を見たくなっていた。尾崎さん、頼みます……。


コロナ禍での代表就任→チャンス?


「毎日毎日かかってくる電話にはいい話が全くなくて、半分、旅行会社の仕事はなくなってしまうのかなと思ってました。もう半分は、チャンスだって純粋に思えたんです。
これまでの旅の概念や常識がリセットされる。同じ努力をしていても、同じような規模の会社やちょっと上の会社に追いつけなかった。だけど、コロナでどこの旅行会社もストップしている状態。あ、他社も止まってる間に僕らがちょっと進めば差が詰まるんじゃないかなと思ったんです」

……いいぞ! やっと出てきたんじゃないの? ……希望の光!

尾崎さんは、旅の定義が変わると言う。
「これまでは、海外旅行とか国内でも遠くに行くことに価値があった。だけど、近場で楽しいこと、家族や友達とできないことをつくれば、売れるんじゃないかなと。
茨城の魅力を発掘することが、我々の生きる道になるんじゃないかと思いついて、茨城中を毎日歩き回って面白いことを探しまくりました」

多くの旅行会社が、茨城の人を県外に出す、他の地域に連れて行くということをしていたなかで、それとは違う目の向け方をした尾崎さん。県外から、首都圏から、さらには海外からお客さんを茨城に呼びたいと語った。形勢逆転へのチャレンジはまだまだ続く……!


日本の科学技術に光を!


「日本の子どもたちの数学や科学の点数ってすごくいいんです。先進国の中でもトップクラス。ここを活かしていきたいなと思っています。
ただ、『科学者になりたい』という子が日本では少ない現実があります。そこには、我らが科学技術都市・つくばがあります……! 最先端の科学技術に触れて、『科学って面白いじゃん!』とか『あの人(科学者)みたいになりたいぞ!』と感じてもらえるようなエッセンスを、旅に込めるようにしてます」

2040年の壁は高いけれど、これまでに日本が培ってきた科学技術がなくなってしまうわけではない……! いまあるものに光をあてて、教育というカタチでさらなる知識が積み重っていくといいですね!

「課題だらけの日本で、いまの子どもたちに一番心配なところがあって……」

え、まだあるの?……困難。

「内閣府の調査によると、『自分で国や社会を変えられると思う』という子どもが18%しかいない。めっちゃ少ないんですよね。私たちとしては、子どもたちのこの気持ちも、旅を通して変えていきたいなと思っているんです」


「1マイル4分の壁」を破る人が続出。……一体なぜ?


逆転、そしてさらなる猛攻か……? と思いながら聞いていると、突然尾崎さんは思いがけない話を始めた。

1954年5月6日、陸上選手のロジャー・バニスター氏は、前人未踏の偉業を成し遂げました。医師や科学者らが「人間の能力では到底不可能」としていた1マイル(1600メートル)の走行タイム、4分を切ることに成功したのです。
タイムは、3分59秒4。
イギリスの名門・オックスフォード大学医学部の学生でもあったロジャー氏。「人間のもつ筋力や肺機能では無理」とされていた1マイル4分の壁を自らを実験台として見事に破り、31年ぶりの世界記録を樹立しました。
そして記録樹立のわずか46日後、あらたな世界記録が誕生します。
さらに一年後、なんと300人もの人が世界記録を次々と更新する事態になりました。

ロジャー・バニスター氏は、2000年『ライフ』誌が選出した「この1000年で最も重要な100人」に選ばれました。
「人間の能力を決める最大の臓器は、心です」というロジャー氏の言葉が残されている。

「……すごくないですか? このロジャーさんが現れる前は、陸上のプロの人たちは、毎日練習に励みながらも、『医師や科学者が不可能と言うなら無理だ』って思っていたわけですよね。ところが、『ロジャーがやったんなら自分もできるんじゃないか』っていう気持ちになった。
人間誰でも、始めるときにはダメなんじゃないかとか、できないんじゃないかっていう気持ちになるじゃないですか。だけどここで「1マイル4分の壁」を最初に破ったロジャーさんのことを意識すれば、なんでもできるんじゃないかなって……ね」

人が想像できることは、必ず人が実現できる

ジュール・ヴェルヌ


「最後にもう一つ引用させてください。僕が尊敬するフランスのSF作家の言葉です。
茨城で修学旅行なんか来てくれるわけねえじゃん、46.5位なのに――。でも、説得しに行ったら来てくれるんです。
そんなふうに想像や妄想ができれば、行動すればいい。するとそれは実現すると思います」

尾崎さんは現在、都内屈指の名門高校から修学旅行の受け入れを毎年していて、2022年度の決算はコロナが明ける前にも関わらず、過去最高の売上となったという。

なんという逆転ストーリーだろうか……! ものすごくいい試合を観戦し終えたときのような充足感が会場を包み、惜しみない拍手が送られた。
ああ、スカッとした〜!


▼アーストラベル水戸
https://earthtravel2019.com
▼note
https://note.com/earthtravel_mito
▼尾崎精彦さんのリンクツリー
https://linktr.ee/kiyooza



text & photo by Azusa Yamamoto


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