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ペルー アマゾン 一人旅 5      貨物船マドレセルバ



「アマゾンの河を5日かけて貨物船で下る」というフレーズに魅かれて計画し始めた旅。
その旅を経験した人たちに聞き取りをすると、泥棒だらけでハンモックまで盗まれた。毎日同じ景色で退屈で死にそうになる。」「食べるものがない。あってもきたなくてまずい。やせてしまった。ベッドはダニだらけ。」
きわめつきは「アンタ何考えてんの。身も心もボロボロになるよ。」
最後の人が「でも、やってみー。」と言ったので決心した。

ペルー側アマゾン プカルパ→イキトス間を
貨物船「マドレセルバ」に乗って五日間で行く船旅の始まり。

船着き場に数日通い、近々出航しそうな、見た目がそこそこの船を探す。
船で働く人たちに、何日後に出航するかと聞いても、
テキトーな答えしか返ってこない。
やっと船長っぽい貫禄のおじさんをみつけ、近々出航する船を聞き出す。

翌日メルカードで航海中の食料のパンや果物、水、サンダル、帽子等の買い出しをする。ハンモックは高いので迷った末 買わなかった。ところが同乗の見知らぬ家族がポンと貸してくれた。ハンモックなかったら死んでた。


エルネスト・チェ・ゲバラの「モーターサイクルダイアリー」の映画のシーンとほとんど同じ風景。というか撮影場所はこの港なのではないだろうか。 
貨物船と言っても、さほど大きくもない船のデッキには、鈴なりの乗客がいる。この人たちと少なくとも5日間はせまい船上で運命をともにするのか。  少し気がめいる。

大河は流れがどちらに向かっているのか見た目でわからない。地図を見れば、というか地理に明るければ簡単にわかるのだが。 

自分はこれから5日間大河を下るのか上るのかすら把握していない。
下っているのか上っているのかさえわからない雄大さ。巨大な湖のようだ。


ハンモック


広い広い水の平面。波もなく流れもゆったり。
水の上である事を忘れてしまう。
透明感は全くなく、コーヒー牛乳の上。
そして我々の船が進んで来た灰色がかった不透明な灰褐色の河と、
もう一本の透明なブラックコーヒー色の河が合流するところに来た。

ウカヤリ河とマラニョン河(たぶん)。
全くそりがあわないこの二種の水は、
どこまでいっても混じり合おうとしない。
温度?成分?性質?なにかがお互いを拒絶しあっているようだ。
液体どうしでこんなにはっきり分離している様をあまり見たことがない。
後で知ったのだが、コーヒー牛乳色の水よりブラックコーヒーみたいな水の方が、腐葉土の養分がとけ込んでいて栄養があるそうだ。  
だから、水面下でも、生物の棲み方が全く異なっているのだろう。
 

甲板から見える景色は雄大で感動的である。。。

と言えたのもはじめだけで
ずーっと続く同じ景色に嫌気がさす。
少しの変化もない。 グレーの濁った川の水と、向こう岸のジャングルの濃い緑の蔭、船の航跡、
たまに、岸辺でワニが昼寝している。私もハンモックで昼寝。
白サギが水面すれすれをかすめて行く。
インコのような派手な鳥が、岸に群れている。

船の中も同じだ。
同じ顔ぶれが暇を持て余している。
もうおしゃべりのネタもつきた。
顔をあわすことすら鬱陶しい。
乗船したての頃は昼も夜もポーカーで盛り上がっていた男たちも、
後半はそれすら面倒そうにぐたっとしている。
演説好きだった青年も寡黙になった。

昔 大海を渡った船乗りたちは
この鬱陶しさをどうやりすごしたのだろうか。
大声を出して暴れたくなる感じ。

昼間は暑すぎて本すら読めず。
天井じゅうにぶらさげられたハンモックに横たわり
灰色の天井をボケーっと ホントにぼけーっと見ている。
正真正銘 何も考えられない。
ああ、脳がとけていく。

私の船室

                        私の船室

数十人がハンモックに横たわって、口を半開きにして何も考えていない風景は
人間ではなく 物が吊り下げられているように見えてくる。
一度 船が浅瀬に衝突し、その衝撃でハンモックで寝ている人たちが皆天井にぶつかりそうになった。 唯一 緊張感があった瞬間だった。

私は個室の船室もとってあったのだが、エンジンに近く、うるさい上に強烈に暑い。
シャワーとトイレだけ個室のを使って、寝るのは船上のハンモックで寝ていた。

船上の限られた空間から出られない閉塞感。
買い物も散歩もできない。
陸上の病院に入院していた時は、絶対安静で、もっと不自由だったはずなのに
それと比較にならないくらい船上の暇感には精神的に危機を感じた。
陸では何もすることがない状態はむしろ好きだったのに。なぜだろう。


河を渡る風もなく 見える景色はまったく同じ。
エンジン音も同じ。移動していることすら感じられなくなる。
お互いに見るのも飽きた顔ぶれが、限られたスペースにじーっとしている。
何もされていないのに、小さな憎しみがわいてくる。

 日が落ちてから夜だけが、暑さから解放される時間。
船員や乗客とピスコを飲みながらおしゃべりをしたり、後部甲板に座って月あかりに消える航跡を夜中までながめたり。

無数の流れ星、稲妻を見ていた。
満月前後だったので、船はほぼ無灯火で進む。
時々ライトで岸を確認している。

たまに、大きな魚が飛び込んでくる。

  。。。つづく。。。




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