「ジェネレーター」という考え方の元の言葉が生まれたときの「はじまりの物語」

いま「ジェネレーター」と呼んでいる概念は、もともとは僕らが「Generative Participant」という言い方で呼んでいたものだ。

2011年春に、慶応SFC(湘南藤沢キャンパス)の認知科学者 今井むつみさんの紹介で、僕(井庭崇)と市川力さんは出会い、出会った瞬間から意気投合して、その1週間後には共同研究・探究がスタートした。

市川さんが当時関わっていた東京コミュニティスクール(TCS)での市川さん自身の教育実践のパターン・ランゲージをつくろう(経験則・コツの言語化をしよう)ということになったのだ。

その当時、井庭研では、創造的な学びのパターン・ランゲージ「ラーニング・パターン」だけがあり(2008年作成、2009年発表)、2作目の「プレゼンテーション・パターン」をつくり始める直前だった。

つまり、今ではたくさんのパターン・ランゲージをつくっている僕らも、このころは、まだ1つしかつくってない段階だったが、市川さんとやってみようと盛り上がり、スタートしたわけだ。

市川さんは当時、小学生たちと6週間で1つの探究プロジェクトを回していた

その実践におけるコツを言語化して共有しようという試みだった。

まず最初に、僕の研究室で、市川さんの取り組みとそこでの考えを聞くことから始まった。

僕の大学での実践の経験やコツも重ね、混ぜ合わせつつ、共通項・本質に迫ろうとお互い熱く語り合った。

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なんと、この日、結果として、二人で11時間ぶっ通しで語り合った。

今井さんに紹介された初対面の次の時にである!

そのくらい僕らは最初から意気投合していた。

二人とも、そのときから「ジェネレーター気質」が高かったのだろう、相互に盛り上げあって、あっという間に時間が過ぎて行った。

ものすごい実践知がたくさん抽出された。

そして、このとき語られたものをベースに、後日、井庭研の学生たちも交え、内容を深めながら、パターン・ランゲージの形式でまとめていった。

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こうして、できたのが、論文「Pedagogical Patterns for Creative Learning」(2011)である。

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この論文(PDF)は、こちらで見ることができる。

この論文では、「Discovery-Driven Expanding」「Challenging Mission」「Generative Participant」という3つのパターンを紹介した。

この「Generative Participant」というのが「ジェネレーター」の話である。

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論文では、このパターンに紐づいて市川さんのTCSでの実践例も紹介されている。

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この論文は、米国オレゴン州ポートランドで開催されたパターン・ランゲージの国際学会 PLoP2011(18th Conference on Pattern Languages of Programs)で発表した。

このとき僕は初ポートランドで、もちろん、その8年後に僕がサバティカルで1年間住むことになるとは思っていない。

そのポートランドに、市川さんと一緒に乗り込んでの発表だった。

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ちなみに、3つのパターンのうちの1つの「Discovery-Driven Expanding」は、「まずMy Discoveryを大切にし、次にお互いのYour Discoveryを認め合い面白合いがり、最終的にOur Discoveryを見出す、というステップを踏む」ことが大切だというパターンであり、いまでも僕らが重視してよく語っているものだ。

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「Challenging Mission」も合わせ、これらの3つのパターンは、市川さんと僕が普段教育の現場で行っていることの本質的な核であると言える。

まとめると、市川さんと僕は、創造的な学び(Creative Learning)における教師は、ティーチャーやファシリテーターではなく、教えファシリテートしながら自ら「参加」する人であることを重視していた。

そこで、そのことを「Generative Participant」(生成的な参加者)と名づけた。

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生徒や学生とフラットになり、同じレベルになろう、ということではない。

あくまでも、非対称な部分は実際あるし、仮に抜こうと思っても残る。

そうやって無理に自分を同じレベルにするのではなく、違うレベルではあるが、本気で参加する、ここにポイントがある。

自らコミュニケーションも発見も進めながら、みんなのコミュニケーションや発見も促す --- それが、「生成的な参加者」(Generative Participant)だ。

そんなわけで、この論文以降しばらくは、僕らは会話のなかで「ジェネレーティブ・パーティシパント」とか「GP」と言っていた。

でも、あるとき、「teacher」「facilitator」と並べたときに、「Generative Participant」って長いよね、ということになり、もっと「○○-er」というような短い言い方の方がよいね、ということになり、短くして「generator」と呼ぶようになった

2年後くらいのことだと思う。

こうして、僕らが最初「Generative Participant」と呼んでいた概念は「generator」という言葉に集約されることになった。

ちょっとした歴史的な経緯というか、「はじまりの物語」でした。


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