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国立新美術館で考えた、余白のある展示

国立新美術館で開催されている「話しているのは誰?現代美術に潜む文学」という展示会を見てきた。

参加アーティストは6名で、文学の要素を反映する作品作りが特徴。文学というタイトル通り、作品単体で見る面白さだけで無く、作品同士の結びつきの中から大きな物語が見えてくるような展示のされ方をしていた。


中でも小林エリカさんの展示がとても印象に残っている。作品のテーマは戦争、核。

核燃料のウランで作ったドルの模型、1940年に開催される予定だった東京オリンピックの聖火の軌跡、「彼女たちは待っていた」という言葉など、作品単体で見ると意味がよく分からないものも多い。ただ、それらが一つの部屋に集められて、その空間で一つ一つの作品を見ていくなかで、戦争の虚しさや、そこで犠牲になった人たちの悲しさが伝わってくるような構成となっている。

作品同士の文脈から戦争の悲惨さを読み取れる一方で、じゃあ今戦争が起こったら国はどう動いて、私はどうなるかなど、今の自分や社会のことに目を向けさせる導線の役割を果たしているようにも感じられた。

この展示では、作品同士を結びつける全体的なテーマや、各作品の行間にある描かれていないメッセージを、鑑賞者に想像させるような空間づくりがされている。その展示手法のおかげで、作品やテーマとより親密になれた気がした。まるで本を読んで、自分の心を深くえぐられるのと同じように。

今までアート作品を見るときは、作品自体はその作家が作り出した一つの「解」としてしか捕らえられていなかった。そのため、作家の個性や主張に対して身構えて、テレビ番組を見るような、作品はあくまで自分の外側の物事だと思う、一種の距離感を作ってしまっていた気がする。けれど今後は、小説を読むときと同じくらい、その世界に入り込んで、その作品をきっかけに、自分やそれ以外のものを見る新しい視点を持ったり、思考を深めたり、自分の問いへの解決策としたり、さらには新しい問いを立てる手助けにできればいいと思った。

また、そんなモチベーションをもった鑑賞者を受け入れる余白のある展示会が、今後も増えればいいと思う。

#国立新美術館 #話しているのは誰#アート #アートの見方 #小林エリカ


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