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UC Berkeley Business Schoolからの手紙⑬(解雇の原則)

今回は、日本で起こると大ニュースになってしまう「解雇」について。ご存じの方も多いかと思いますが、アメリカは日本よりも解雇が一般的です。コロナウイルスの影響で1週間で330万人の失業保険申請者が発生したとのこと。日本で働く人々らすると「他人事」のように聞こえるかもしれません。ただ、全く関係ないことではないのです。

https://www.bbc.com/japanese/52059756

今回は、解雇というものが、どのような考え方で正当化されるのか、逆に不当とされるのか、その点について触れていきたいと思います。ちなみに、日本で法的に認められている解雇は3種類あります。ご存じでしょうか?(答えは最下部に)

1. 「解雇」に関する原則(アメリカ版)

解雇について、2つの事をまず教わります。それは、「①At Will(意思のもと)と②Exemption(免除・例外)」です。夫々の詳細は以下の通りです。

(1)At will(意思のもと)~カリフォルニア労働法セクション2922~
当事者間の合意がない場合、カリフォルニア州のすべての従業員は「意思のもと」とみなされます。これは、従業員または雇用主の双方が、理由の有無にかかわらず、通知の有無にかかわらず、いつでも雇用関係を終了できることを意味します。
(2)「意志のもと」の仮定に対する契約上の例外
「意志のもと」の仮定は、当事者間の合意形成という証拠によって反論される可能性がある。契約は大きく3つの種類に分かれ、明示的、暗示的、または組合せによって行うことができます。
・明示的契約
・暗示的契約
・統合契約

従って、「労働契約」というものはとても重要であり、有事の際のロジックとなるためアメリカではこの内容が非常に重要視されています。

2. 各契約の定義

アメリカでの「契約」に対するイメージとして、「無期雇用というものがなく、全て期間が明示されているもので統一されている」と思っていました。しかし、そのような「明示的な契約」以外にも2つの契約種類がある、という事が学びです。その詳細をご説明します。

(1)明示的契約
従業員と雇用主は、書面でも口頭でも、「自由意志」ではない契約に同意することができます。

例:
①期間契約:
特定の期間、雇用を継続するための合意

②原因解消のための契約:
雇用関係を終了させる「原因」がない限り、雇用関係を継続するという合意。「営業秘密の盗難(漏洩)のような従業員の不正行為」などが原因の一例。

(2)暗示的契約
明示的な合意がない場合、裁判所は時には当事者の行為に基づいて契約条件の存在を示唆します。これらの暗示された用語は、「意志のもと」という仮定を覆すことができる。暗示的契約は、企業の慣行、方針、声明の形で行うことができます。

(3)統合協定
「黙示契約」とは反対に、雇用者は、統合協定が雇用時における当事者間の唯一の合意である(合意は意味していない)という統合契約を使用することができ(この契約は当事者間の事前の合意に優先する事前の陳述書または契約書は保持されません)、将来の改訂は書面で行わなければなりません。

良心かつ公正な対応が暗示された契約であることが前提となります。すべての契約に良心と公正な取引の約束が暗示されています。これは、一方の当事者が他方の当事者に契約上の利益を意図的に否定することができないことを意味しており、例えば、雇用主は、従業員を契約の下でその従業員に恩恵(例えば、ボーナス支払い)を拒否するために単に解雇することはできないのです。あくまでもFairであることを前提にしているということですね。

3. 「意志のもと」という前提に対する公共政策的例外

とはいえ、解雇が乱用されてしまっては社会的に安定しません。なので、不適切な理由で解雇が発生しないよう別のルールを敷いており、差別を禁止することを明示しています。

・雇用者は、従業員を処罰または解雇することによって、性別、年齢、人種、宗教、国籍、性的指向、または障害の有無に基づいて従業員を差別することはできません
・雇用主は、雇用者の行動、慣習、または従業員が合理的に差別的であるとポリシーに異議を唱えた従業員に対して報復することはできません
・雇用主は、Hostile environment=敵対的な労働環境(セクシャルハラスメントなど)の発生を防止するための措置を講ずる義務を負っています。
・雇用主は、従業員が自分の仕事を、または場合によってはその仕事の本質的な機能を引き続き実行できるようにするための合理的な調整を従業員に与える義務を負っています。この義務は、障害のある従業員、妊婦、麻薬やアルコールのリハビリを受ける従業員、従業員の宗教的信念にまで及びます。

また、その経営者は従業員の主張に対して報復することはできず、再発防止義務を負っています。非常にセンシティブな内容ですが、Uberの問題、Weworkの問題は一大ニュースになりましたし、それ以外にもサンフランシスコでは副業に関するデモ、Googleでもジェンダーギャップに関するデモンストレーションなどは盛んに行われています。

4. 合理的な人物(Reasonable Person)という考え方

さらに判断が非常に難しい場合では、客観的な判断によって解雇が正当化されることもあります。

従業員が、耐えられない雇用者の行動や雇用条件に直面していると考えている場合には、「契約中止」(建設的退職)になる可能性があり、契約中止の合理的な代替案はありません。違法(または不当)であるためには、建設的な解雇は差別のような違法な理由によるものでなければなりません。建設的な解雇の基準は客観的なものであり、”合理的な人物(Reasonable Person)”が同じ行動や条件に直面しても、それ以外の合理的な選択肢はない場合、建設的な解雇の対象となります。

とはいえ、私たちは互いに同じ人間であり、誰しもが解雇はしたがりません。Netflixの元最高人事責任者のParry McCordは以下のように述べています。

図1

徹底的に正直になる。同僚や上司、経営陣に対して、時機を逃さず、できれば面と向かって、ありのままを話す。

従って、今回のような緊急事態は特例ですが、スタンスとしては法の抜け道を探すのではなく、常にオープンで正直になることが大切であると述べています。

5. さて、日本は?

日本の労働環境においても、一般的に問題(複雑)になるのは「普通解雇」で、さらに、こちらの場合30日前の事前告知が法律で求められています。一方、大手企業が業績不振のために行うのは「整理解雇」で、それに際してもいくつかの条件があります。

日本とアメリカにおいて、「会社に対するロイヤルティやイメージ」が最も異なる部分ではないでしょうか?解雇の発生率は日本に比べれば圧倒的に高いアメリカは、働く人も解雇に対する耐性を身につける必要があります(もちろん、解雇されることはみんな嫌です)。

そういった背景からも、「会社を信じ過ぎない、自分や周りの大切な人を信じる」というのがいわゆる一般的な価値観になり、不当な解雇があればきちんと申し立てますし、強いてはストライキなどにもつなげます。(また、SNSがその動きをさらに強化している背景もあり、集団的な行動が国を変えるパワーを持つこともあります。)総じて、アメリカはIndividual(個として生きること)の意識が強く、自分の価値観や判断基準を強く持つことが大事とされているように感じます

<クイズの答え>
日本で認められている解雇は、大きく3つの種類があります。詳しく把握されたい方はぜひこちらをご覧ください。とても勉強になります。
① 普通解雇: 労働基準法と労働契約法に基づいて解雇をする方法です。解雇理由には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要になります。
② 懲戒解雇: 社内の秩序を著しく乱した労働者に対して、ペナルティとして行われる解雇のことです。
③ 整理解雇: 会社の事業継続を図るために従業員を解雇する方法で、いわゆるリストラのことです。

日本では解雇しずらいイメージがあるかと思いますが、その上でも法的に認められていることもありますので日本のHRとしては覚えておくべき内容かと思います。

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました。もし共感してくださったら、いいね、シェアなどをして頂けると嬉しいです。

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