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UC Berkeley Business Schoolからの手紙④(採用の原則)

1.日本と米国の違い(採用編)

今回は、採用について振り返っていきます。ご存知のように、日本と米国の採用環境は大きく異なります。基本的に、日本は新卒採用を中心に考える風習が今も強いですが、米国は経験者採用を中心にしています。また、日本で当然のように考えられている「総合職」という職種は存在しません。エンジニア職が営業職とは全く異なる職種であるように、「それぞれの職種に求められる経験や技術は全くもって異なるもの」という前提理解があり、アメリカはポジションありきの採用となります。

その比較や違いについては、在ドイツ日本国大使館(平成30年5月)にて纏められた資料を見ると非常にわかりやすいです。私の実体験上は、アメリカの考え方とドイツの考え方は非常に似ています。

前回のブログからの繰り返しになりますが、人事のMissionは“The right person at the right place do the right things(適切な人が適切な場所で適切なことを行う)”です。


上記を実現するためにも、”The right person(適切な人)”を採用する事は何よりも大事であるといわれます。

例えば、シリコンバレーでも“採用の重要性”は規模問わず多くのCEOに語られています。アマゾンCEOのジェフ・ベゾスは「高い基準での採用ポリシーとその実践はアマゾンが成功し続けるための“唯一の最重要要素”となる」と言及しています。言葉を変えれば、 “曖昧な採用”はビジネスに悪影響を及ぼすということです。

曖昧な採用の影響は、離職のみならずプロダクトやサービスのクオリティを下げ、開発スピードを遅くし、カスタマーエンゲージメントを下げてしまう、という事につながります。では、どんな原理原則を意識しておくべきなのか、詳細に入ってみましょう。

2.リクルーティング(採用)の原則

• 採用したいポジションの仕事(役割・目標)を具体化する
• 具体化した仕事内容に必要な「知識・技術・能力(KSAs)」を言語化する
• 高いレベルのKSAsを持つ集団を「ターゲット」として設定する(ターゲットしか集めないということではない)
• 母集団形成に最大限マッチするツールを使い、可能な限り最大の母集団を形成する(PR方法・選考方法)
• 募集と評価の各段階で応募者の質を高めていく
• 入社後にレビュー&フォローを行いつつ、最大限リテンションする
• “オンボーディング”にできる限りのリソースを割く。


さて、日本との違いにお気づきでしょうか。

具体的な違いは採用するポジションの仕事を具体化するプロセスに大きな違いがあります。例えば、「O*NET」と呼ばれるアメリカのWebサイトにはアメリカのほぼ全職種のJob Descriptionが記載されており、職種ごとにどんなタスクがあり、どんな知識が必要で、どんなスキルが必要、ということが具体化かつ共有されています。

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例えば、この「O*NET」を使って、「Human Resources Managers」という職種を見てみます。すると役割(Tasks)の一つにはこう書いてあります。

Serve as a link between management and employees by handling questions, interpreting and administering contracts and helping resolve work-related problems

マネジメントと従業員をつなぐ役割として、契約に関する質問やその実行を支援しながら雇用関係の問題解決を助けるhttps://www.onetonline.org/link/summary/11-3121.00

また、様々なスキルについて具体化されていることもお分かりかと思います。例えば以下のような項目が設けられています。

・Technology Skills(技術的なスキル)
・Knowledge(知識)
・Skills(スキル)
・Abilities(能力)

3.15カ月で辞めるアメリカの労働者

なぜ、このように具体化というものをしていくのか?という事については、「パフォーマンスというものに拘っているから」と言えるのではないでしょうか。

ご存じの通り、アメリカは日本よりも人材の流動性が高く、Glassdoorのレポートによれば、1社に勤める平均勤務期間は15か月(1年3カ月)となっています。従って、「早く辞めてしまうかもしれない」という暗黙知を持ちながら、「在籍期間中にきちんと成果を出してもらう」ことを重視した採用を行っています。

一方で、日本で採用担当は非常に長期的な目線を持ちながら「いつかマネジメントポジションに行ける人材を」というような想いで採用する事が多いかもしれません。考え方は良し悪しありますが、これだけ多くの情報と日本の市場に対する悲観的な見込みがある中で、今のままで良いのか?という疑問は頭から離れません。

4. 日本の今後の労働市場は?

では、日本の労働市場そしてあなたの就業価値観はどう変化しているのでしょうか?

現状、特定の業界のみならず、人材の流動性は日本でも高まりを見せています。以下のレポートには、およそ年間の転職人数は370万人。5年以内に会社を変えようと思っている新卒社員は1/3となっています。

この動きはさらに盛んになってくるのではないでしょうか。従って、たとえ大学を卒業したばかりの新入社員だとしても、「どのようなパフォーマンスを3年以内に出してもらう予定なのか」を明確にしなくては費用対効果が悪くなってきてしまう時代が来てしまいそうです。

出典:総務省「平成19年就業構造基本調査

ちなみに、独立行政法人経済産業研究所の調査曰く、経営視点で離職率を考えると、人材の流出がビジネスに与える影響は

日本的雇用慣行企業に近いタイプに類型される企業では中途採用のウエイトを高める形で雇用の流動化を進めると、利益率や労働生産性が上昇する傾向があることや、逆に、ブラック企業に近いタイプに類型される企業では中途採用のウエイトや離入職率を高めると、利益率や労働生産性の低下を招く可能性があることなどが明らかになった(引用元:
雇用の流動性は企業業績を高めるのか:企業パネルデータを用いた検証)。

離職率が高すぎてもダメ。低すぎてもダメ。適切な数値を保つことが重要。

という結果になっています。

採用は慣例的に一人当たり50万円から100万円(採用費)をかけている投資活動であり、入社後の賃金を加味すれば400万円~600万円(年収)が1名当たりにかかる投資です。従って、以下のビジネスインパクトをもたらすことができれば最低限OKとするべきです。

・1年目までにに500万円~700万円ほどのビジネスインパクト(粗利益orコスト削減)
・2年目までに900万円~1300万円ほどのビジネスインパクト(粗利益orコスト削減)
・3年目までに1300万円~1900万円ほどのビジネスインパクト(粗利益orコスト削減)

まとめ
・欧米の採用に「総合職」は存在せず、ポジション別の採用が一般的
・どのようなパフォーマンスを期待して採用するのかを明確にする事が重要であり、定量的、行動ベース、観察可能な目標設定が必要となる
・アメリカの平均勤続月数は15カ月
・日本の労働市場も流動的になる可能性が高く、やみくもに流動性を防ぐというよりは費用対効果で測定していく採用へマインド&モデルチェンジしていく事が望ましい

5.採用を考えるあなたへの質問

• なぜ採用するのか、「人がいないから」ということ以外に説明できますか?
• 採用するポジション(役割・目標)は明文化されていますか?
• そのポジションで必要な「知識・技術・能力(KSAs)」は言語化されていますか?
• 必要なKSAsを持っている人が、どこにいるか何をしているか知っていますか?
• どんなアピールの仕方が効果的か知っていますか?
• 応募者の質はフローの中で高められていますか?
• 採用した人の入社後のパフォーマンスを把握していますか?
• 入社後の機会提供を計画的に行っていますか?

次回以降のブログでは、もう少し踏み込んだ形で詳細に入っていきたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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