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【猥談】 ソープで思い出したのは

やけにペンキ臭い部屋。
そこにあるのは浴槽とベットだけ。
壁面は黄色みのある白で,
ベットの脇だけがわざとらしく鏡張りだ。
まさしくそのための部屋で
これから行われるそれ以外には
一切の関心がないことを示している。

いわゆる社会勉強のために来たのだが
どうにも自分の性分的にこういう所は慣れない。
あえて慣れたいとも思わない。

誰かに身体をこうやって触られるのは
久しぶりで興奮よりも緊張が勝つ。
いやきっとボクの場合には
変にお堅い倫理観がこの状況で興奮することを
よしとしていないのだろう。

外的刺激によってボクの準備は完了したものの
いざそれが始まると全く昂らない。
目の前の人に対して失礼だと感じながらも
ボクの体はいたって正直でみるみる萎んでいく。
そんなもんだから飽きてしまって
残り時間を見るとあと30分もある。
せっかくそこそこの金額を払ったのだし
男としてももう少し楽しみたい。

夢にまで見た大きさのものは
いざ目の前にしてみると
確かに感動を覚えるものだが,
なぜだかびっくりするほど興が乗らない。

どうにもこうにも頑張れども頑張れども
目の前にある裸体に興味を持てなくて
ひたすらに萎んでいく一方だ。
終いにはなぜ今自分がここにいるのか疑問だ。

なんとかその気にさせてくれようと
甲斐甲斐しく手や口を動かすこの人が
ただ不憫でならない。
あとで仲間内で笑い話にでもしてほしい。

何とか使い物慣れる程度になったもので
どうにか腰を動かしながら
もういつ見たかも忘れてしまった彼女の体を
ボクは思い出してしまっている。

均整の取れたその体は
悩ましい起伏を持っていて
それはおおよそ男性では得られない曲線美だ。
確かな大きさがありながらも
腰にかけてのくびれは柔らかく窪んでいて
またそこから続く線は膨らんでいる。
肌はありきたりの表現でいえば
シルクのように滑らかで指触りが良い。

最後に見た日はあやふやで覚えていないのに
その輪郭ははっきりと脳裏に刻まれていて,
幾許の時を交わったのだろうか。

普段のツンとした態度とは打って変わって
ボクを強く求めるようなその目や,
ボクが抱きしめる以上に
離さまいとするその手から伝わる熱を
きっと忘れることはできないのだろう。

もうどうにもしようがないほどに
彼女はボクの中にあって,
その肢体の描く曲線美や肌の柔さ滑らかさは
彼女の真面目な性格を表していることに
今になって気がついた。
きっとそこもボクは好いていた。
だからあんなにも昂って
それ以外考えられないほどに彼女を求め,
そして記憶された。

ソープで思い出したのならそれは愛と呼べるか。
それともこれは執着なのだろうか。
これを形容する言葉をボクは知らない。

気づけばもう退出の時間で,
目の前の人はそそくさとその準備をしている。
残りの時間は生い立ちやら1日の過ごし方について
話してくれていた気がするが内容は確かでない。

指名したけれど名前もあやふやな人は
さながら機械のように淡々と仕事をこなす。
体を交えてもわずかな情も湧かなくて
それは欲情すらもそうだ。

1週間限定だというその人は
また来てねと言いボクもぜひと返すが
おそらくそれはない。

そのためだけの部屋を出る。
あれだけ入るのに緊張した建物も
今になってはただのコンクリートの塊で
時期相応の夜風が少し体温を下げる。
ひどく扇情的な看板の前に立ち
互いに互いだけを求めあった
あの頃の彼女とボクを愛しく思った。


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