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全ては気持ち次第だという話

ハノイで出会った人達の中でも、一際強い存在感でもって私の心の中に残り続けている人がいる。
佐竹くん(仮名)。同い年の商社マンで、ハノイには長期研修の形で1年間だけ来ていた。

私はそれまで、いわゆる"商社マン"という人種(表現合ってるかな?)に会った事がなかった。
第一印象……はて、佐竹くんに初めて会ったのはいつだったか。確か同年会だったと思う。実の所よく覚えていなくて、でも、気がつけば既に仲良くなっていた気がする。300$の1泊2日ハロン湾クルーズとか、ハノイ郊外のキャンプ場に一緒に行ったのが懐かしい。

私は佐竹くんとは会う度に色々な話をするのだけれど、後になって「一体何の話で盛り上がったんだっけ……?」と、振り返っても思い出せないことが度々ある。ただ彼と一緒にいて楽しかった感情だけが、いつも心の中を満たしてくれている。
『記憶のない飲み会は楽しかった証拠』と彼は口癖のように言う。きっとその通りだ、違いない。

佐竹くんは時々、長編小説に登場する名台詞みたいな言葉を言う。
そしてそうした言葉の数々は、私の心の中にしっかりと収まって、後から不意に飛び出してきたりするのだ。
特に印象に残っているのは『全ては気持ち次第』というフレーズだった。どういう訳か、彼はこの言葉を愛用していて、私も密かに気に入っている。

去年、色々な事が重なって気が滅入ってしまった頃。人との繋がりをことごとく絶っていた頃。思い出という思い出が全て煩わしくなって、封印ないし抹消したいと思っていた頃。佐竹くんのこの言葉が、ずっと付いて離れなかった。
「お前は本当にそれでいいのか。お前は、お前の意志に従っているのか」と、問い詰めるかのように。
今になって思えば、沼底に沈んだ心が何とか地上へ這い出ることができたのも、そのおかげなのかもしれない。
でも、だからこそ悔やんでいるのだ。
彼の送別会を企画するという約束を反故にし、別の誰かが立ち上げたであろう送別会のその情報さえもスルーし続けたことを。

今ならはっきりと分かる。
私は、ほんの些細なきっかけから佐竹くんのことを羨ましいと思ってしまったんだ。
自分との間にどこか埋めようの無い差を感じて彼のことを妬んでしまったんだ。
少なくとも私が知っている彼は、人との差を鼻にかけたり、見下したりなんて一切しないのに。
だからこそ、貴重な同性・同年の友人として今まで自然体で向き合えた筈なのに。

佐竹くんは私が持っていないものをたくさん持っている。
「そんなことないわ」と、彼は答えるかもしれないけれど、それでも私にとっての彼は「持ってる人」で。
そんな彼のことが今までも、そしてこれからもきっと大好きだ。人が人と繋がるのに、本来資格や条件なんて要らないのだから。

次はいつどこで会えるだろうか?
……いや、考えるまでもないか。全ては気持ち次第だ。そうだろ?

#記憶の記録 #海外生活 #ベトナム #ハノイ #全ては気持ち次第

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