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【大卒の価値はどう変わっていくか】

2020年現在、日本の大学進学率は50%を超えています。教育がより多くの人に渡っているという点では、大学進学率が高まることは喜ばしいと思います。しかし、昨今話題になっている大学を卒業しても職がない、あるいは多額の学生ローンを背負ってしまったが、それを返済するだけの職につけないという課題もあります。これはどういうことなのでしょうか?

日本の景気が悪いからでしょうか?それも一つの理由となると思います。しかし、理由は景気だけではないようです。大卒が高い価値を生み出しているという評価がされていないのです。

産業のニーズと大学教育のアンマッチ

以前より課題となっていた産業のニーズと大学教育のアンマッチがあります。2013年の資料ですが、このようなものがあります。

(文系)企業の期待と大学が注力していることの差が大きい点

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(理系)企業の期待と大学が注力していることの差が大きい点

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出典「第7期大学分科会の審議事項に係る関連資料・データ」(6)大学教育への社会の評価等 人材育成面での企業の期待と大学・大学院の取組について   文部科学省の内容を元に、筆者が編集

文系について、大学では、「専門分野の知識をしっかり身に付けさせる」や「専門に関連する他領域の基礎知識も身に付けさせる」に注力している一方で、企業はその点について高く期待していないようです。これに対して、企業は、「チームで特定の課題に取り組む経験をさせる」や「理論に加えて,実社会とのつながりを意識した教育を行う」を期待していますが、大学の取り組みとの差があります。

理系について、文系と異なるのは、「専門分野の知識をしっかり身に付けさせる」部分について、企業の期待は文系よりも大きいと言えます。「ディベートやプレゼンテーションの訓練」は、大学でも注力しているとは言えませんが、企業はさらに重視していないと言えるでしょう。


アンマッチは世界のあちらこちらで発生

しかし、この大卒と産業のアンマッチは、日本に限った話ではありません。欧米諸国でも起きているのです。人々が大卒を求めて学校に通う一方で、そもそも大卒の知識を必要としている職がない、あるいは大学の教育とのアンマッチがあります。

なぜ、大卒でも高い給料が得られないのか、その構造的な部分を例えばこのような記事が紹介しています。日本の低成長時代に、高い学歴を必要とする仕事が増えないという指摘です。
無理して大学進学しても報われないわけ ハテナブログ Chikirinの日記


一部の日本人が強く憧れる北欧でも、職のアンマッチが起きているという指摘があります。

"こうした若年失業とミスマッチの因果関係は、スウェーデン社会においても同様に広く認識されている。スウェーデン政府も、「積極的労働市場政策」において、カウンセリングを通したマッチングプロセスに力をいれることで、雇用における需給のミスマッチを調整し、さらには、国内全体の経済・産業の発展に寄与することを目的としている。"

ストックホルム大学日本研究学部助教授 小川 晃弘 「スウェーデンの若年者失業問題」
https://www.nira.or.jp/pdf/0801ogawa.pdf
(2020年8月21日抽出)
 


アメリカでも大卒の評価が下がっているという指摘があります。

高等教育を肯定的にとらえる割合が最も顕著に減少していたのが若者世代で、低下幅は33ポイントに上った。高等教育が「非常に重要」だと考えている人は18~29歳の成人でわずか41%だったのに対し、30~48歳では51%、50~64歳では55%、65歳以上では55%だった。

この記事で興味深いのは、学歴が非常に重要と思うのはどのような人かも調査していることです。学歴と職が結びついていただろう世代では、非常に重要と考えられていますが、若い層ではその比率が少なくなっています。この世代は、高騰する学費に加えて、ITバブル崩壊、リーマンショックと10年おき程度に発生する危機と共に育ってきた人たちです。この記事のアンケートの時(2019年6月3~30日)にはまだわからなかった新型コロナも発生しました。


大卒資格不要!企業が必要な人材を直接教育し始める

大卒であっても十分に評価されない、あるいは職がアンマッチになるという指摘がされている中、大卒の価値はどう変化していくでしょうか?

既に大卒資格を不要としている企業があります。例えば、GoogleやAppleです。

Googleは、独自で教育プログラムGoogle Career Certificatesを提供し、そこで職が得やすいスキルの提供をしています。

世の中の不確実性に対して、大学教育を受けるまでに要する時間は膨大です。そこまで時間とお金をかけたにも関わらず、職がアンマッチであるという結果、それならば企業側が教育を提供しようというのは自然な流れでしょう。

とはいえ、どこまで企業が教育をカバーできるのかというと、それも未知数です。急にその企業の事業がダウンするということも大いにあり得ます。では、どうしたら良いかというと、学び続けることだと思います。


学び続けることはもっとも基礎的なスキルである

大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company, Inc.)は、もっとも基礎的なスキルとしてIntentional Learning(意図的学習)をあげています。

ここでは、これまでの生涯に渡って職があるという時代は消えつつあり、スキルを新しくする必要があること、また学ぶということ自体がスキルであると述べています。そして、効果的な学習者になるためには、そういったマインドセットを持つことが重要だと指摘しています。(ここの詳細については、また別の記事でご紹介したいと思います)

では、どうやって学び続けたら良いのか?何を学べば良いのか?という疑問があると思います。これまでの学校教育では何を学ぶかが重視され、どう学ぶかは教えられませんでした。ここは、学びたければ学校に行けば良いということもあるかもしれません。しかし、大学では提供できるものとそうでないものがあり、ただ学校に行けば安泰というわけではないことは、先に上げたことで明らかです。以前は大学という選択肢が大きな範囲を占めていたのかもしれませんが、その割合が減ってくるであろうと予想できます。


大学はより専門性を高めていく

就職に大卒資格が必要だから大学に行っていた人たちが大学に行かなくなり、アカデミックを追求したい、研究に専念したいという人が行く場所になるかもしれません。これは、研究に専念したい教授陣にはありがたいことだと思いますが、それだと大学の経営的には厳しくなると思います。なぜなら、多くの人が職のために大学に行く現状があるのですから、これから職の大卒条件が減ったら、大学に行かなくなる人が出ます。

そうなると、大学はより専門的な分野での専門知識を得る場所に変わっていくでしょう。多数が通う場所ではなくなるのです。それを察知したと思われる大学があります。マサチューセッツ工科大学(MIT)です。この大学では、学歴を問わず、MITが提供する科目を受講して合格すれば、大学院入学資格が得られるというものです。

大学院ではより高度で専門的な知識が身につくと期待されています。日本において大学院はまだ馴染みはないかもしれませんが、国によっては学歴が昇進条件になるほど重視されているところもあり、グローバルの中では知識労働者といわれる人たちの大学院進学率は高いです。


学歴の価値は社会によって異なる

日本では理系は大学院進学をほとんどするのですが、文系において大学院の価値はあまり見出されていないようです。社会人になってから大学院進学をし、その後転職するというのが日本の雇用の慣習ですとブランクとなってしまうからです。さらに、大学院卒は頭でっかちで使いにくいイメージを持っているようです。

どの社会でどのキャリアで進むのかによって、学歴が有利に働く時とそうでない時があるでしょう。

大卒も、必要な職もあれば、そうでないところもあります。特に変わりやすいプログラミング職は、若いうちに企業の教育プログラムに参加した方が覚えも早いでしょう。エリートを必要とする職、例えば国際機関で働くなどであれば、大学院卒で専門を身に付けることはもちろんのこと、どの大学院を卒業するのかも重視されます。


学ぶ本人の主体性が重要

このように、大学は不必要の二元論では語れませんし、価値も変わると思います。しかし、ただ大学に進めば良いというのではなく、大学に進学したことが価値となる学びやキャリアを考える必要があります。そのためには、とりあえず受験まで頑張り、とにかく偏差値の高いところを目指すという教育ではなく、学ぶ本人が主体性を持って自分の教育をデザインしていくことが、ますます重要になっているといえます。そして、大人も学びをアップデートし続けることが必要です。

学びについて関心のある方向けにはこちらのマガジンもあります。




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