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「普通」を少し外れてみたら

私はいわゆる「普通」の人生を送っている人間だ。
普通の人生を歩めるということは、実はきっと難しく、幸せなことだと思っているし
どちらかといえば、普通より少し良い人生かもしれない。

首都圏に住む両親の元に生まれ、母は専業主婦でいつも帰りを待っていてくれて、たくさんの愛情を注いでくれた。
両親の仲は悪いけれど、まあそれもよくある夫婦といった感じで。
私は健康にすくすくと育ち、それなりに遊び、それなりに勉強をし、公立の中学、高校を卒業して四年制の大学に通った。

就職活動を始めたとき、やはり私の志望する企業は、誰もが名前を聞いたことがあるような大企業たち。人並みに苦労しながらも、そのうちの一社の内定を勝ち取った。

だが、就職活動を終えた大学4年生の夏、ふと、物悲しくなった。

それなりに良い四年制の大学に入学し、それなりに良い企業に就職したのは、夢というものを持っていないからだった。

やりたいことがないなら、選択肢を広くしておく方が良いと思ったから。

就職したら、きっと気軽に路線変更することはできない。
私が憧れて、諦めていたことをあと半年のうちにやろう。

そう思った私は
『メイド喫茶 オープニングスタッフ募集!』
の応募ボタンをクリックしていた。


思えば私は、昔からキラキラした世界に憧れていた。
引っ込み思案で、いわゆる陰キャだったけど、クラスの人気者や芸能人に憧れた。
大学に入学し、バイトを探しているときに見つけたメイド喫茶という選択肢。
かわいい服を着て、かわいいと言われる場所。
「でも、私なんか…」と思い何もしてこなかった。
勢いで応募したものの、どうせ無理だと思っていた。応募のメールに顔写真の添付が必要だと知ったときは、さすがに後悔した。

なのになぜか受かってしまったのだ。

そこには、私の知らない世界が広がっていた。

あまりにも短いスカート、いわゆる地雷メイク、ホストみたいな見た目のオーナー、自分と同い年の店長、キラキラと光るシャンパンの空瓶、推しメイドのために通うお客さん、チラシ配りという仕事、高卒の女の子、国を追われた外国人の女の子、ハイブランドの指輪、オムライスの落書き、私のブロマイド、私を推してくれる人

すべてが初めてで、すべてが輝いていて、すべてが普通じゃなくて、すべてが楽しかった。

大学4年の8月から、入社するまでの約7ヶ月、私は普通から外れてみた。

その生活を続けることもできたかもしれないが、私は普通に戻ることに決めた。

普通に戻ったけれど、きっと前とは違う私だ。
ちょっと寄り道するのも悪くない。

この大切な半年間については、どこかでもっと詳しく書きたいと思う。

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