行き当たりばったりはもうできないな。

大学生のころ、初めてお付き合いした彼女と、彼女の故郷の北海道に遊びに来た。大学生、お金があるわけではないので、フェリーで小樽港まで。
朝の10時に出発する船は、早朝5時に小樽に付く。
生憎の冬の日本海。船は揺れる。ゆっくり本を読めやしない。
だらっとテレビを見ているだけ。
びっくりした。船の中は物価が高い。夕飯を食べるだけで大惨事だ。
帰りの船は食べ物買って持ち込もう。
船に大浴場があるのは、発見だった。揺れもなんのその気持ちよく浸かった。

真冬の小樽港、朝5時は真っ暗だ。バスも走っていない。どこに行けばいいのやら。二人で待合のベンチで眠った。あとから知ったけれど、小樽築港駅は歩いていける距離にあった。

夜が明けて、バスが走った。南小樽駅に向かう車内。一面の雪景色に北海道にきたという実感があった。

当時は小樽築港駅の開発直後。マイカルの複合施設が賑わっていた。
札幌に行く前に時間をつぶそうと、映画を見た。何を見たか覚えていない。
夕方札幌に来た。

彼女のお姉さん夫婦のおうちにお世話になった。
優しい人たちで、観光に連れて行ってくれたり、ご飯を食べさせてくれたり、もてなしていただいた。

全部お支払いいただいたので、申し訳なく。
最後に「最後は自分たちで払います」って勇気を出していったけれど。
あしらわれた。

大人だった。
圧倒的な大人だった。

あの頃、思い付きと勢いだけで生きていた。
思いやりも配慮もできない僕の、勝手な旅。
ちゃんと考えていなかった旅。

あの優しかった人たちとはもう会えない。
それはヒステリックにエゴ丸出しだった自分の恥ずかしい過去。
あのどうしようもない自分が、いま少しはまともになれたのかな。

思い出せばひりひり痛む優しさ。
応えられなかった。
もらうだけもらってなんも返さなくて。

あんな行き当たりばったりはもうしないだろう。
でも、いつか行き当たりばったりの若者にであったら、
がんばれって見守ってあげれたらいいな。

#わたしの旅行記

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