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『映画:フィッシュマンズ』を見た

フィッシュマンズを聴き始めたのは、ここ1年くらい。弟に教えてもらったのがきっかけだった。ひとりの部屋で、ベッドに横になって聴いていると、夜の海にぽっかりと浮かんでいるような感じがした。心がざわざわと波だっていても、フィッシュマンズの音に身をゆだねていると、しん、と静かになった。このすばらしい音楽を誰かに伝えたいと思っても、表現する言葉がわからなかった。説明をした瞬間に、陳腐に聞こえてしまう気がして。

映画は、メンバーや関係者へのインタビューと、過去の映像で構成されていた。ボーカルの佐藤伸治さんは、99年に33歳で急逝している。バンドの歴史のほとんどは、わたしが生まれる前の出来事。87年の結成から、99年にそうなるまでの、時系列の回想。音楽性が高まり続けるにつれて、減ってゆくメンバー。さまざまな葛藤。でも、映像の中の過去の彼らは、ひたすらに楽しそうだった。そしてどきりとするほど幼く見えた。純粋に音楽に向き合い続けた男の子たち。

古い音楽だと思ったことは一度もない。知らない音ばかりで、なのに不思議なほどしっくりくる。心の中の風景にぴったりとはまる。佐藤さんの詩は、みじかくて、シンプルだけれど、無限のひろがりを感じる。ただの歌詞ではなく、”詩”なのだ。文学だと思う。ほんとうは話したいことがいっぱいあって、伝えたいことが、心の叫びが、あふれていて、でも口に出そうとすると全然思ってなかったことを言っちゃうような、そんな人がストイックにほんとうの言葉と向き合い、そぎ落としながら完成させていった詩、というような感じがする。

ぼんやりしてればいいことありそうな
気もするし気もしないしわからないけど
さみしい時に泣ければいい
だれかにだけやさしけりゃいい
明日に頼らず暮らせればいい
だれかにだけしか見せない
そんな笑顔があればいいのさ
(POKKA POKKA)

映画を見ながらわたしはずっと泣いていました。こんなに心ふるえる音楽が存在することがうれしい。時代もなにもかも先を行き過ぎて、研ぎ澄まされすぎて、その過程でいのちをちぢめてしまったのだな、と思うと、厳粛な気持ちになる。

フィッシュマンズを聴くと、自分の心の中の、ここだけは誰にも触れられたくない、みたいな部分がいつのまにか顔を出す。でも心乱されることはない。ただ、静かになるのだ。孤独も、悲しみも、さみしさも、全部そのままにさせてくれる音楽。この部屋から一歩も動かずに、どこまでも遠くに行けそうになる音楽。

フィッシュマンズばかり聴いていた季節が過ぎ去ったとしても、人生のふとした瞬間にこの音楽がよみがえってくるのだろうな、という予感がする。



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