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Rの軌跡 第一話「赤いギター」

中学2年生の僕にとって大阪で最もごちゃごちゃしている街。第一位は日本橋だけど、第二位の心斎橋が今回の舞台。

その人の多さと喧騒は「むしろ孤独を、、」と言ってしまいそうなぐらい中二病をくすぐるもので、毎週休みになっては西中島から地下鉄に乗っていそいそと出かけて行ったものだ。

心斎橋には多くの楽器店があり、なかでも御堂筋商店街にはヤマハ、ミヤコ、三木の3店舗があった。

難波まで乗ってそこから歩いて心斎橋を目指し、順に楽器店へ入っていく。店員さんと懇意になることは一つのステータスで、顔見知りになりたくてギターを試奏させてもらったり、流行りの曲のフレーズはどうやって弾けばいいのかと質問したりしながら音楽の知識を蓄えていった。

そしてついにその日がやってきた。

ギター(エレキ)を買う。

これで僕もミュージシャンの仲間入りだ。

でも不安がある。少し前におじさんにアコースティックギターを貸してもらったのだが、チューニングだけで1時間以上かかった。指は割れそうだし、手首は痛いしで心が折れそうになった。

だがこんなことで挫けていては「僕のギターにはいつもHeavy gauge」を歌う長渕さんに笑われてしまうと思いなおし、またチューニング。結局その日はチューニングだけで終わってしまった。

そんな僕がギター(エレキ)を買う。ついに、あの、楽器店に飾ってあるギター(エレキ)を買う日が来たのだ。

楽器店に入る僕はいつもとは違う。今日は堂々とお金を払うのだ(といっても父に買ってもらうので偉そうにしていいのは父なのだが)

何本か試奏させてもらって、真っ赤なギター(エレキ)を買うことにした。メーカーもよくわからないストラトタイプのやつだった。

お会計を済ませギターケースを背負い店の外に出る。

そこは今までとは全く別の世界だった。

Rの軌跡_1-1

全てがキラキラしている。みんなが僕を見ているように思う。ちょっとしたひそひそ話も「みて、あの人ギター弾けるのかしら、かっこいいわ」って絶対に言っていると思える。

僕はにやにやが止まらなかった。こんなに楽しいことがあるなんて人生捨てたもんじゃない。心からそう思えた。

僕の周りでは中学2年生からギターを始めるのは早い方だった。もちろん早く始めたからうまくなるわけではないのだけど、優越感が半端ない。ユニコーンやBOΦWY、ジュンスカ、ジッタリンジンの曲に合わせて練習しながら早くバンドが組みたいなと考えていた。

そのためにはメンバーが必要だ。さて誰から声をかけよう。

小学校から付き合いのあるN君(イケメン)はどうだろう。彼はピアノも習っていたし音楽は嫌いではないと思うのだけど、人前に出るのは違うかもしれない。だが僕はなぜかN君(イケメン)を誘わず、別のクラスメイトに声をかけることにした。


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