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結局女性のCEOや取締役は業績を改善するのか?

はじめに


ゼミで読んだ論文のまとめ。いわゆるメタ・アナリシスの論文

Jeong, S. H. & Harrison, D. A. (2017) Glass Breaking, Strategy Making, and Value Creating: Meta-Analytic Outcomes of Women as CEOs and TMT members Strategy, Academy of Management Journal, 60(4), pp. 1219-1252.

https://doi.org/10.5465/amj.2014.0716

メタ・アナリシスは最も信頼性の高いエビデンスを提示できる研究手法である。以下に記事に書いているので興味のある人は読んでみてほしい。

https://note.com/i_partners/n/nf7608c6a04a1

今回の論文では、結局女性のCEOや取締役会に女性がいることで企業業績は改善するのか否か、という点を明らかにしている。この論文が面白いのは、単純に企業業績が高くなるのか低くなるのか、という点だけでなく、そのメカニズムに関しても分析し、その関係性を明らかにしている点である。以下では分析結果についてまとめる

女性の取締役は長期的な企業業績を改善するが短期業績を悪化させる可能性がある


この論文では企業業績を二つの視点から分類している。一つは長期的な企業業績ROA, ROE, ROSといった会計ベースの業績指標のほか、Tobin's Q や株価純資産倍率といった市場ベースの業績指標である。

もう一つは、短期業績であり 株価に関するものである。具体的には累積異常収益 (CAR) を採用している。

この意味で、短期業績の指標との関係は女性のCEOや取締役に対する市場からの評価と言ってもいいかもしれない。株式市場が女性のCEOや取締役に対して企業業績に貢献すると考えるのであれば、短期業績の指標は期待から高まるはずであり、企業業績に対してネガティブなインパクトを持っていると評価すれば短期業績の指標は低くなるはずである。

結果から言えば、女性のCEOや取締役は長期的な企業業績と正の関係性を持っていた。つまり、企業の経営の効率性を高めたりする、という点で女性のCEOや取締役は貢献するということである。

一方、女性のCEOと短期業績の関係性は負の関係にあることが分析から明らかになった。一方、取締役のメンバーに女性がいることと短期業績との関係は明らかにされなかった。このことは、少なくとも株式市場は女性のCEOに対してはネガティブな捉え方をしているということである。

この点に関して、著者らは役割の不一致という点から投資家からの評価が得られないのではないか、ということを指摘している。とりわけ、女性がトップマネジメントの地位に就くと、投資家たちが持つ女性に対するステレオタイプ的な考え方と、トップとして持つべき資質に対する考え方との間に齟齬が発生してしまうことを既存研究を通じて論じている。

なぜ女性のCEOや取締役のメンバーは企業の長期的業績を改善するのか

この論文では、女性のCEOや取締役メンバーが長期的業績を改善する理由として、リスク・テイキングという視点をあげている。

男性と女性との間ではリスクの取り方が違う、という点は既存研究から指摘されてきた。とりわけ、この研究では女性が男性よりもリスク回避的であり、とりわけ取締役メンバーに女性がいることで意思決定の質を改善することができることを指摘している。

この論文では三つの指標でリスク・テイキングを測定している。一つは財務レバレッジ。もう一つは資本的支出。最後の一つは株式リターンのボラティリティである。いずれもリスク・テイキングの指標として広く用いられてきた指標である。

女性のCEOや取締役のメンバーはいずれのリスク・テイキングの指標と負の関係性を持っていた。そして、こうしたリスク・テイキングに対する影響が媒介要因となって長期的業績の改善に寄与していることがパス分析で明らかになっている。

おわりに

長期的な企業業績という観点から見て、結局ダイバーシティという観点はやはりポジティブな効果を持っている、ということがこの論文では明らかになったといえる。とりわけ、それは必要以上に高いリスクを負わなくなるから、といえるかもしれない。

男性ばかりのトップマネジメント、今まで男性しかCEOになっていない企業などは、もしかしたら将来性という点であまりよくないのかもしれない。

また、株式市場はやはりいい加減なものだ、というのをこの論文を読んで感じた。結局株式市場は短期的な視点を重視しており、ESG投資という言葉が流行しているものの、結局投資家は短期的な利益を追求し、あるいはそういった利益を追求するよう圧力をかけられているのかもしれない。



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