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まずはメタ・アナリシスを探すことからはじめよ

1. はじめに

大学院の講義向けに論文を読み、資料作成をしている。

読んだ論文は Beugelsdijk et al. (2018) の文化的距離と企業の国際化に関するメタ・アナリシス。読んでみて改めてこの論文を1回目の輪読課題にしてよかったと思った。というのも、研究をする上で最初に学生にしてほしいのはこうしたメタ・アナリシスを見つけ、読むことだからである。

メタ・アナリシスは研究におけるもっとも信頼性の高い研究結果であり、「研究の研究」とも呼ばれる。メタ・アナリシスを読みこなすことができれば、研究をどのように進めたらよいのかが明確になる。

2. メタ・アナリシスとは

メタ・アナリシスとは「研究の研究」と呼ばれ、既存の研究結果から一般法則を定量的に導き出す手法といえる。

例えば、国の文化の違いが企業の国際化にどのように影響を及ぼすのかに関してはたくさんの研究がなされている。

そして、ある研究では多国籍企業が他の国に進出する際、自国と他国の文化的距離が遠いほど、進出をしなくなる、という結論を導き出している一方、他の研究では両者には有意差はない、という結論を導き出している。さらには、自国と他国の文化的距離が遠いほど、企業はその国に進出するようになる、という研究結果まであったりする。

要するに、研究によって同じ現象を検証しているにもかかわらず、それぞれ異なった結論が導き出されてしまっているのである。

こうした個別の結果を、「あの研究は著名な研究者が出した結論だから正しい、こっちの研究は間違っている」といった恣意的な方法で結論付けるのは間違っている。

また、一方の研究結果が多いという理由で、他方の研究結果が間違っていると否定するのもおかしい。科学は多数決ではない。

メタ・アナリシスでは、今までの個別の結果を集めてそれらを定量的な手法で再分析することにより、従来の研究結果の一般化を試みる。

例えば、今回読んだBeugelsdijk et al. (2018) においては156の既存研究をメタ・アナリシスの対象として分析している。

こうした既存の研究結果をデータとして用いることで、実際にどのような結論が導き出されるのかを検証するのである。

3. 何が分かっていて何が分かっていないのかがわかる

メタ・アナリシスによって、その研究分野において現在「何が分かっていて何が分かっていないのかがわかる」といえる。これは研究をする上で非常に重要である。というのも、研究をする上でわかっていることをこれ以上繰り返すのは科学への貢献という意味で小さくなるからである。

なので、研究を始める、論文を書こうとする人は、まず自分の興味ある分野に関してメタ・アナリシスがないか、検索すると良い。

幸運にもメタ・アナリシスが存在するのであれば、それを読むことで個別の既存研究をしらみつぶしに読まなくても大まかな研究の流れが把握できるだろう。

しかも、メタ・アナリシスはデータによる分析という意味で、科学的妥当性が非常に高い研究手法として認められている。

つまり、メタ・アナリシスによって導き出された結果は、科学的知見としてかなり信頼性が高いのである。

これがメタ・アナリシスではなく、著者の主観による意見や文献レビューの場合、科学的信頼性は大きく損なわれる。とりわけ、具体的に変数間の因果関係がどのようになっているのかを理解しようとするのならば、個別の意見や文献のレビューではなく、メタ・アナリシスを参考にすべきである。

4. おわりに

ここではメタ・アナリシスの紹介とそれがいかに重要な研究となっているのかについて簡単に説明してきた。

もちろん、メタ・アナリシスを行っている論文は通常の回帰分析等を行っている論文とは、結果の見方が違っていたりするので最初は苦労すると思う。

しかし、これを読みこなせるようになれば、自分の研究が一段階レベルアップするのは間違いない。

Reference

Beugelsdijk, S., Kostova, T., Kunst, V. E., Spadafora, E., & van Essen, M. (2018) Cultural distance and firm internationalization: A meta-analytical review and theoretical implications, Journal of Management, 44(1), 89-130.


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