ヨーロッパのCSRとアメリカのCSR

はじめに

企業の社会的責任(CSR)という考え方はだいぶ浸透してきたように思う。日本では2003年がCSR元年として位置づけられており、この時期から日本の大企業はCSR専門の部署をおくようになっている。

一方、こうしたCSRに関する企業の取り組みは国ごとに異なっていることが指摘されている。なぜこのような違いが生じるのか、についてMatten and Moon (2008)はフレームワークを提示している。

暗黙的CSRと明示的CSR

まず、Mattenらは二つのCSRを定義している。
一つめは暗黙的CSR (implicit CSR)である。これは、社会の利益や問題に対して広く公式的な制度および非公式的な制度のなかで定められる企業の役割、として定義されている。

具体的には社会的規範、価値観、原則などがこの暗黙的なCSRを形成することになる。暗黙的CSRを実践する場合、企業は社会が形成した規範等に対処する形で行う。受け身によるCSRの実践と呼んでも良いかもしれない。

一方、明示的CSR (explicit CSR) は社会的利益に関して、自分たちの企業が責任を負っていると仮定、明言している企業の政策と定義されている。例えば、自らのCSR活動の結果を大々的にステイクホルダーに伝えること、戦略的にCSRを実施することが明示的CSRと言える。

Matten and Moon (2008) はヨーロッパとアメリカの企業の違いをこの二つの概念でもって説明している。とりわけ、ヨーロッパの企業は主に暗黙的CSRを、アメリカの企業は主に明示的CSRを実践しているという。

暗黙的CSRから明示的CSRへ

ヨーロッパでは暗黙的CSRから明示的CSRへと移行する流れがあるという。つまり、よりアメリカ的なCSRを実践する企業が増えてきた、ということである。

日本のCSRに関する活動も、最初は暗黙的なものだったといえるかもしれない。実際には社会貢献活動を企業として行っていても、それを社会に発信していない企業が当初は多かったといえる。

しかし、近年では多くの上場企業が報告書という形でホームページ上で社会に発信するようになった。また、各企業がそれぞれ自分たちの判断でCSRを推進するようになってきている。

暗黙的CSRから明示的CSRという流れは、まさにCSRのトレンドと言えるかもしれない。

Reference

Matten, D., & Moon, J. (2008). "Implicit" and "Explicit" CSR: A Conceptual Framework for a Comparative Understanding of Corporate Social Responsibility, Academy of Management Review, 33(2), 404-424.

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