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倫理的意思決定

倫理的意思決定とは、正しい・間違っているという判断に関する意思決定である。例えば、ある営業マンは月のノルマを達成するために、顧客に誇張な表現をして商品を買わせよう、と思うかもしれない。このような意思決定のプロセスはどのようになされるのだろうか。

Jones (1991) の倫理的意思決定のプロセスでは、まず道徳的問題を認識する点から始まる (Recognizing Moral Issue)。次に道徳問題に対する判断を下す段階に移る (Moral Judgement)。すなわち、認識した道徳問題に対して義務論や目的論などの価値観に照らし合わせた評価がなされる。その後、道徳的意図 (Moral intent) が形成される。そして最後に、意図に基づいた行動が行われることになる (Moral Behavior)。

倫理的意思決定のモデル
1. 道徳問題の認識 → 2. 道徳的判断 → 3. 道徳的意図 → 4. 道徳的行動

上記のモデルに基づいた事例を考えよう。今、あなたは自動車を製造する企業の社長である。今、顧客からのクレームで自社の製造する車のブレーキに不具合がある可能性が指摘されている。ブレーキの不具合が発生すれば、車の所有者は事故を起こして怪我をしてしまう可能性があり、最悪死亡することも考えられる。この場合、自社が裁判で訴えられる可能性は十分考えられる。

あなたはこの現状を受け、1年間でどの程度事故が発生する可能性があるのか発生した場合の損害賠償金額の合計はどの程度なのかを部下に計算させた。

その結果、多く見積もってもリコール対象車が重傷事故を起こす件数は100件程度であり、死亡事故は50件と予測された。死亡事故の場合、企業は1件当たり2000万円の賠償金の費用が発生し、重傷事故の場合は損害賠償金として700万円の費用が発生すると予測された。すなわち、事故が発生した場合に予測される総賠償金額は(2000万円×50件)+(700万円×100件)=17億円となった。

一方、リコールをしてブレーキの不具合を直すコストが1万円であった。現在、リコール対象車が30万台あり、そのコストは30億円(1万円×30万台)と計算できる。ここであなたは、コストを考えるとリコールをしないほうが得策であると判断した。そして、実際にあなたはリコールを政府に届け出なかった

上記の例の場合、ブレーキの不具合を受けてリコールをすべきか否か、という問題にあなたは直面をした。これが、倫理的意思決定の第一段階である。

その後、部下にコストを計算させることで、リコールをするのとしないのとで、どちらがコストのかからない意思決定なのか、その判断材料を手に入れている。そして、リコールをしないほうがコストを抑えられる、ということを理解した。これが、第二の道徳問題に判断を下す段階である。

判断をした後は、第三の段階に移行する。すなわち、あなたはリコールをしたくない、あるいはリコールはすべきではない、という考えに至るのである。これが、道徳的意図が形成される段階である。最後に、あなたはリコールを届け出ない、という行動をしている。

上記の意思決定の仕方は功利主義的な考え方である。なぜなら、事故による総合的なコストを計算し、企業の利益を最大化するような意思決定を導こうとしているからである。

もしも義務論者であれば、上記のような損益分岐点分析をせずに、リコールをしないことが道徳的に正しいことなのかを問うであろう。

このように、倫理的意思決定は意思決定者がどのような規範に基づいているのかに大きく関わっている。さらに、こうした規範は個人の特性や個人の置かれている状況によって大きく変わってしまう可能性が示唆されている


Reference

Jones, T. M. (1991). Ethical decision making by individuals in organizations: An issue-contingent model. Academy of Management Review, 16(2), 366-395, doi:10.2307/258867.

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