教科書の電子書籍化のデメリット

1. はじめに

小学生が重そうなランドセルをしょっているのを見ると、教科書は全部電子書籍化してi-padを全員に配ればいいのに、と思ってしまう。おそらく、いろいろな利害関係があってそのようなことは難しいのだろうが。

一方、教科書の電子化は海外の大学のテキストにおいて進んでいる。必ずと言っていいほどハードコピーのほかにe-textbookが用意されている。

では、そんな教科書の電子書籍化について、学生の学習に紙の教科書とどの程度の差異があるのかについて研究した論文を紹介する。

論文は以下のものである。

Daniel, D. B., & Woody, W. D. (2013) E-textbooks at what cost? Performance and use of electronic v. print texts, Computers & Education, 62, 18-23.

2. 紙媒体のテキストと電子書籍版のテキストは学習面でどのような違いがあるのか?

Daniel らの研究は、いわゆる電子書籍版のテキストを使った学生と紙媒体のテキストを使った学生との間で、学生のパフォーマンスにどのような差が生じるのかについて明らかにしている。

実験は298名の学生を対象に行われており、社会心理学のテキストの1章分を学生に読んでもらい、その後質問に答えてもらう、という方法をとっている。

実験の条件付けは大まかに以下の通りである。

a) 実験室実験(条件を一定に保ち、被験者にテキストを読んでもらい、その後質問へ回答)
b) 自宅(被験者は自宅でテキストを読み、その2日後に質問へ回答)

3. 電子書籍版のテキストの方が読むのに時間がかかる

実験の大まかな結果は以下の通り。

a) テキストが電子書籍か紙媒体のものかは質問票で出題されたクイズの正答率に影響を与えていなかった。 
b) 電子書籍のテキストを読んだ学生の方が紙媒体のテキストを読んだ学生よりも統計的に有意に読書時間が長かった。
c) 自宅でテキストを読んだ学生の方が紙媒体のテキストを読んだ学生よりも統計的に有意に読書時間が長かった。

とりわけb) に関して、実験結果では電子書籍のテキストを読んだ学生のテキスト読解時間はおよそ7%ほど長かったことが明らかになっている。

実験の詳細結果は以下の通り。

実験室(カッコ内は標準偏差)
紙テキスト平均読解時間 -> 33:55 (6:09)
電子書籍版テキスト平均読解時間 -> 36:22 (6:23)
平均読解時間 -> 34:47 (6:19)
自宅(カッコ内は標準偏差)
紙テキスト平均読解時間 -> 1:03:31 (26:18)
電子書籍版テキスト平均読解時間 -> 1:17:14 (50:37)
平均読解時間 -> 1:09:37 (39:26)

4.電子書籍のテキストを使う際の注意点

電子書籍はデバイスさえあればいつでもどこでも気軽に書籍を読むことができるので便利である。

実験の結果から、紙のテキストであろうと電子書籍のテキストであろうと、内容の理解を調べるクイズの正答率に差はなかった。なので、学力に差が出ることはないと今回の研究では結論づけている。

一方、例えば記述型の回答など、単なる選択肢を選ぶような問題以外の場合は結果が異なるかもしれない。

また、学生は電子書籍の場合より多くの時間を読解に費やすことになる。これは、読むのに慣れていない、ということもあるかもしれないが、著者らはとりわけマルチタスクの可能性を指摘していた。

つまり、電子書籍のテキストの場合、他の機能(例えばSNSなど)を見ながらテキストを読むことができてしまう。実際に事後のアンケート調査ではマルチタスクをしている学生が多かったようだ。

この傾向は自宅でテキストを読んだ場合に顕著だという。自宅のテキストの読解時間は平均で実験室実験の倍程度であった。

よって、電子書籍のテキストを使う場合はマルチタスクを抑制するような機能を備えたデバイスを使うか、環境をマルチタスクが困難な状況に置く必要があるといえる。



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