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僕的ジャンル別ペンギンSFアンソロ感想

円城塔のつぶやきをきっかけとして企画されたペンギンSFアンソロジー。そもそもその存在がSF的であるペンギン。SFとの親和性は折り紙付きだが、実際に読んでみるとどのお話もおもしろくてやばかったので、感想をここにまとめてみたよ。

※これから読んだものも適宜追加していく予定です
※でも全部は読めなさそうです(半分くらいは読みたい予定)
※ジャンルは適宜修正中です




1.日常にひそむ謎と非日常、そしてペンギン

僕たちが生きるこの日常と地続きながら、ふとした瞬間にひらく、ちょっと奇妙な、ちょっとミステリな、謎と非日常。その入り口にはペンギンがいる。ペンギンSFへの入り口としても素敵なお話たち。僕の憧れのジャンルでもある。


このゆびとまれ(入間しゅか)

部室すら謎のサークル『かくれんぼの会』、そして謎の大学生「ペンギン」。青春の匂いと「ペンギン」のスコシフシギと、読み口のよい日常ミステリでおもしろかった。メフィスト賞系とかでありそうな感じ。

キャラクターや情景がとにかく映像的にイメージしやすく、キャッチーで、けれども過不足なく描写されていたのがすごい。このように瞬時に映像的イメージを浮かび上がらせるのは、すごいこと。連作短編シリーズになってもおかしくなさそうなキャラクターの魅力・牽引力を感じた。エンタメ小説を目指す自分としては、目指したい指針となる一作となった。


ペンギン的思考(palomino4th)

駅で外国人を案内する、というまあ日常的なシチュエーション。そこで話はペンギンに及ぶが、よくよく読めば、外人の様子がどこかおかしい。主人公が自身の英語力を疑うことで、結末を曖昧なままにする仕掛けはなるほど。非常に純度の高い不気味さ、不穏さが、ほど良いキレ味の掌編にまとめられていておもしろかった。


ペンギンループ(惣山沙樹)

マンションに暮らす兄弟がペンギンを拾ったことから3時間をループする話。事象解明や脱出方法の仮説検証、その中で起こる人間ドラマ、といったループモノのおもしろさが描かれる。弟はバイトしてるのでそれなりの年齢(思春期以降)と思われるが、そんな弟を腕枕する兄というのはなかなかの仲の良さ‥‥。その二人が閉鎖環境でケンカもしつつ、という関係性がひとつの主題かな。ペンギンの鳴き声がなかなかの迫力で好き。


ペンギン・マンデイ(かんな)

満員電車に乗っていたらペンギンが、という「絵」はワンダー。そこから非日常にいざなう殿下は、イマジナリーフレンド的でもあり、忘れていた大切な何かを思い出させてくれるような趣もあり、ちょっと世界の裏道で羽を休めさせてくれるようなお話。


2.超越される時空とペンギン

ペンギンはペンギンなので、時空も超える。例えば歴史モノは最高に好きなジャンルだけれど、現代から過去を見つめ直したとき、そこに認められるペンギンの影は、歴史にどんな足跡を残すのか。あるいは並行宇宙が描かれるとき、そこでペンギンは――


コンスタンティノープルのドンペンコーデ(萬朶維基)

これは……。知人が推してたので読んでみたら大当たりすぎたお話。まずは地雷系少女を主人公にすえ、軽快な筆致で語られるのが読みやすいが、『ドン・キホーテ』に重ねた歴史改変の物語はそのディテールが重厚。物語の必然に合わせて必要最小限の、しかし知的好奇心もくすぐるイベントを原典からピックアップする手腕がすごいというか、相当読み込まなきゃできないはずだし、あるいは『ドン・キホーテ』のエピソードが先にあってそこからこの話を組み立てたとしたら、それもそれですごすぎる。その緻密なシナリオが、けれども先に述べた通り軽快に読みやすく面白おかしく語られるのが楽しすぎてまたすごい。

そんな完成度の高いこのお話の白眉はラストシーン。歴史改変モノの醍醐味であるバタフライ・エフェクト的イベントを、視覚的に印象付けるワンカットで読者にイメージさせ、理解させ、かつ、遠大な時間感覚や連鎖感を想起させてぞくっとさせる。その爽快すぎる読後感がねえ、なんと、ペンギンなんですわ。おもしろかったー!


世界の終わりとペンギンたち(筒井透子)

終末が予告された世界での、主人公とある女性との出会い、あるいはすれ違いの話。プラトニックが二人の行く末がどうなるのか、それだけでも読んでておもしろかったけど、そこに「並行世界」をめぐる決断があり、それはSF的世界設定を借りた決断ながら、普遍的なものでもあった。


3.ペンギンが護るものは卵か、それとも…

ペンギンの生態をモチーフにしたお話もいくつかあって、特に印象的なのは、極寒のなか卵を抱いて伴侶の帰りを待つペンギンの姿を描いたもの。だけど物語で登場人物たちが抱くのは、卵だけではないかもしれない。


飛べないペンギン、空を飛ぶ!(冬寂ましろ)

小学高高学年の描写の解像度がとにかく高く、ノスタルジックな前半。小学生たちの、決して単純ではない動的な人間関係、日ごとにまた違った展開を見せる日常は手放しに楽しい。小学生の日々って密度あったよな、、、。可読性も高かった。

それでいて話は飛躍し、ペンギンの過酷な生態に重ねられるも、現れた大西に思わず目が潤んでしまった。

ペン子がSF的な(非現実的な)存在であってその仕掛けが明らかになる……という物語かと思いきやそうではなく、主人公の葛藤や痛み、そして人間としてのペン子もまた真正面から描かれていて驚くとともに、ゆえに胸に染みるものがあった。


サザンライツの奇跡(猿田夕記子)

こういうふうにストレートに愛情を伝えられるの、いいなあと思いながらほっこり読めた。SF設定はそこにうまく障害として機能して、ゆえに驚きもありつつ、どうなるのかと思いつつ、それでも主人公のモノローグは怯まない。後編どうなるかなーと思いつつも、素敵なラストだった。


みつかいのしまへ(山崎朝日)

終末的な世界の描写が不穏な感じで、この雰囲気が素敵だった。そこで「聖書」の一節が語られ、この世界における神話の光が注ぐのも雰囲気が出ていた。一方で物語の主軸には「子孫を繋ぐ」ということがあり、そのことが過去の歴史との接続としての壮大さを感じさせる。


コウテイペンギンのヒナはまだ海を知らない(坂水)

家族の在り方、未来の国家、星征、パペットAI、歪む時空、そしてペンギン……。様々なモチーフが織り込まれ複雑な絵を作りつつ、けれどもきちんと1枚の絵として完成されていた。断片的メッセージの連続という形式や、主観の意図的な揺れ、時間の前後は、一読では全体像を理解できないものの、それは設計されたものであり、読み込むほどに奥行きが広がる様はクリストファー・ノーラン的。いったい何が起きてるんだろう、というわかりそうで頭を使うもどかしさの気持ちよさ。その上で、扱われる価値観的テーマもペンギンの生態にしっかり重ねられ、ペンギンSFでなければならない必然性も担保されていた。あと、SF的世界観とか、ワンズペディア(ペンディア)みたいなガジェット的小ネタも好物で楽しめた。

メタ的物語構造のおもしろさももちろんありつつ、「ペンギン」というお題に対して様々な主題と仕掛けとを畳み込む手腕は、見習わなければならない。


4.宇宙に進出したペンギンたち

ペンギンはペンギンなので、当然ながら宇宙にも進出している。そんな宇宙ペンギンたちの生態を描いたSFたち。それらは興味深く、また、そのような生態を作り出した環境と、そこに暮らす人間、訪れる人間にも強く惹かれる。


さよならスイートピー(あぼがど)

火星で発見されたペンギンをめぐるお話。ジャイアントペンギンの視覚的描写とか、生態なんかも読んでて楽しいのだけど、中盤以降できっちりSF的な仕掛けによる飛躍がなされ(そう、ジャイアントペンギンの意外な「謎」が提示され、そこから文字通りに「飛躍」する)、そうだよSFってこうだよ! こういうSFが読みたかったんだよ! と嘆息させられた。絵的にも、空間が一気に広がり、かつ世界図が繋がるような感覚もあって、すごくよかった。

というか、自作執筆途中でこれ読んでしまって萎えかけた。


NHPドキュメンタリー『スペースペンギン 〜光らない流れ星〜』(子鹿白介)

これも間違いなく僕が読みたかった僕のためのSF!! ありがとうございました。マスドライバー大好きなのでもうそのモチーフに鼻血が出るけど、スペースペンギンたちに重ねられた世界観がまたおもしろく、かつ何よりディテールの細やかさがツボを刺激する。めちゃしっかり考えられてるんだよね。そうして、宇宙の果てで奮闘するペンギンたちの生態がまさに目が浮かび、けれどもそれら営みが宇宙スケールで織りなされるのが爽快すぎた。こうした景色をみてしまうと、やっぱり環境保護って大事と思う。守りたい、宇宙。


ペンギン星を中心とした朝貢システムと貿易の実態(辰井圭斗)

朝貢貿易ってめちゃロマンあるじゃないですか。それを星間で、しかもペンギンで、というのは「先に書かれてしまったー!」と悔しくなったアイディア。また、論文形式も大好きなジャンルなので楽しめた。
読んだのが最初期だったのでちょっとうろ覚えになっていて、読み返そうとしたら作品が消えてしまっていて残念。また復活してほしい。


講義-ペンギン学史序論-(瘴気領域)

いまや飛べることが判明したペンギンについての議論。超存在としてのペンギンは、いやしかしペンギンだったらそういうこともあり得るのかも、と思させるあたりがとても楽しい。


ほの明るい空の下で(蒼桐大紀)

木星・衛星でのガニメデペンギンとのお話。ガニメデペンギン、というのがまず良い。そして宇宙世界の設定が細かく練られ、外連味のある描写で語られる様は、自分的どストライクSFだった。単語だけでご飯おかわりなやつ。と思いきや、オチの浮遊感も心地よくて好きなSFだった。


エウロパの人鳥匠(八州左右基)

氷結衛星大好き僕、いちばんはエンケラドゥスだけど、エウロパもロマンがいっぱいでたまらない。そこに固有種としてのペンギンがいる。「エウロパペンギン」という種族名にはワンダーしかない。で、いざ読み進めてみると、水の惑星のディテールが旅の情緒がとても丁寧に描かれていて、異星探訪を追体験させてくれるような楽しさがよかった。


5.近未来から遠未来へ

近未来の世界で、火星で、月で、人類の歩みとともに、ペンギンたちは変わらず、あるいはどこか形を変えて、なおも身近に存在している。それとも形を変えるのは、人類、そして世界の様相かもしれない。


ペンギンは火星で眠る(図科乃カズ)

火星に遺跡、という舞台設定にロマンがある。1万人程度のコロニーというのも近未来にありそうな情景で、地球から隔絶されたその環境は、南極基地の置かれた極地も髣髴させる。そこで起こる宇宙規模の事象について、全ては明らかにされないけれど、それもまたロマン。


月の鳥(化野夕陽)

月面ドーム都市でパイプ清掃に従事する主人公たち。そこには亜人種がおり、そして亜人種にもそれぞれの事情があって……というのが全編を通して丁寧に描かれ、それは読者にとっても重なる何かがあるかもしれない。亜人種の在り方や月面都市のディテールが丁寧だったのも印象的。


ジーランディアの使者(嶌田あき)

「気象介入課」という職業はちょっと魅力的で、この人たちのお仕事小説があればそれはそれで読みたくなった。そこで明らかになる古代の秘密と、なにより「失われた大陸」のロマンが素敵だった。


人鳥ゲームリプレイ(葉月氷菓)

恒星間移民、そしてその背景となる重力崩壊の様相が、丁寧かつリアリティをもって描かれていて読まされた。こういう設定が上手いやつ、大好物。また、その結果として精神が実態から乖離する設定も秀逸。読んでいくとこれらは本編の状況を作るための設定であることに気付かされるが、この設定だけでも中編いけちゃうんじゃないか、というくらい魅力的な世界観だった。

で、肝心の本編だけど、なんと鳥類たちの推理ゲームが展開される。5体の語り手の正体は誰なのか、そこにペンギンはいるのか、いるとすれば誰が……。というなぞ解きをしながら読むのもおもしろかったし、叙述トリックも仕掛けられていたり、なにより趣向としておもしろい。

そうして物語はまた壮大なる宇宙に戻るが、帰結として描かれるのは鳥類たちの暮らした空と海を起点とする宇宙論、という世界の広がりと、そして希望だったりして、読後感も爽やかだった。


6.遠未来へ、その先へ

時間軸をさらに未来に延ばすと、人間とペンギンとの関係は、いまよりちょっと変わったものになるかもしれない。ペンギンたちの姿もまた、僕たちが見慣れたものとはちょっと違うかもしれないし、やっぱりペンギンかもしれない。


ニンゲン、大地を跳ぶ(刻露清秀)

マッチングアプリを使うペンギンたち、という状況がおもしろく、しかし描かれる状況はどこか現代社会も映すようで、悩める主人公は決して他人事にはみえない。価値観や丁寧な描写にリアリティがあり読まされた。というか、マッチングでやってきたオスのコレジャナイ感描写がとても絶妙で笑ってしまった(主人公には切実だけど)。
陸族園の「展示対象」の描写も異種からの視点としておもしろく、また、ほどよくキモチワルかった。そして終盤にて物語が一気に展開するのも、文明というものを考えさせられおもしろかった。


【考察】かつてこの星にいた「ペンギン」なる生物についての考察(どくどく)

未来人の視点から、地球の支配者が誰だったのかが語られる。様々な証拠が微妙に誤解され、ペンギンが支配者だったと結論付けられる様子がコメディタッチでおもしろい。


ファーストペンギン(TYPE33)

白原病なる、よくあるとされる病の告知から考古学者の物語が始まる。それから謎の像が現れ、示された暗号を辿りセカイの秘密が明かされていく様は謎解きのようで楽しい。考古学ロマンていいよねー。タイトル回収となる「ファーストペンギン」をこう持ってきたか、というのはなるほどだった。そうして、ラストシーンでは僕たち読者にとってお馴染みの光景が描かれ、叙述トリック的な仕掛けが「絵」として解けるのが気持ちいい。


7.哲学・文学系ペンギン

遠くへ行くための方法は、時間を未来に延ばすだけではない。哲学的な思考実験、あるいは文学的レトリックにより、僕たちを思わぬ場所に連れ出してくれる。


僕はペンギンを見たことがない(武石勝義)

ペンギンがテーマの企画でペンギンを出さない、というのは天邪鬼的に思えるが、その不在の輪郭を縁取ることでかえって強くペンギンを感じさせる、ザ・ペンギンSF。哲学的というか、存在ということを考えさせられつつ、でもペンギンというモチーフゆえに可笑しさも帯びる。普通に読みやすくておもしろいのもプロのお仕事。


海が消えた日(九頭見灯火)

子どもの思い出話が比喩的描写を交えてほのぼの語られ……と思いきや、ゆっくりとSF的に離陸し、それからしっかり加速してスケールアウトしていく、凄みのあるお話。中盤の対話が気持ちよく、また、「気持ちよい」としか形容できない読書体験。この密度感、酩酊感がたった二千字であることにも驚く。

同時に、九頭見氏はこっちの方向性(うまく形容できないけど、叙述というかコトバの羅列にも見出されるSF)に進まれるんだな、とも思った。


『クレイジー小西』(古賀裕人)

つい読まされちゃって、クソーまた読まされちまったぜー、というお話。話の変遷が一見取り留めないが、夢を見ているような、そしていつまでもその夢を見続けたいと思わせる文体はさすが。話がどこに向かうか予想できない、というのは間違いなく魅力。こういうのが書けたら一番いいよなー。


海獣の日々(げんなり)

こちらもめまぐるしく文章が展開し、めまいがするような酩酊感を楽しめるお話。お話なのか? 正直なところ何が起きたのか判然としないところはあったが、文それぞれに独特のリズムがあり、一体何が起きているのか確かめたくなる、何度も読み返してみたくなる、歯応えのあるお話。


8.ペンギン陰謀説

ペンギンはかわいい。が、ただかわいいだけではないかもしれない。明るくポップでかわいらしい世界、の背後から突如湧き出る不穏な空気や隠された陰謀……。だけど、それでもペンギンのかわいらしさが失われないのが、やっぱりペンギン。


ペンギンはなぜ空を見上げるか(木口まこと)

おもしろかった。過疎に喘ぐ東北の寒村・那須花で地上絵をでっちあげるという、肩の力を抜いて読めるドタバタ町おこしペンギンギャグ。町おこしのプロセスのディテールや、いちいちコミカルな人物の振る舞いが面白くて、ピンチを描かずとも一文一文の楽しさで読者を牽引できることは学びとなった。センスなところも大きそうだが、いずれにせよ第二幕前半あたりの書き方として勉強になる。

ペンギンと著者が対話しちゃったり、「鳥か!」「飛行機か!」「いやあれは……」の定番ギャグを挟んだり、中盤以降も最後まで飽きさせないが、ペンギンの倒し方はまさかの脱力系で(これもおもしろかった)、そしてきちんと、これもお約束的だが洒脱の聞いたオチがついているのもまた素晴らしい。完成度が高かった。

地域おこしのために伝承をゆがめる、でっちあげる、というのは実は最近実際に問題視されている話のはずで、そうした現実への接地もよく考えられていると思った。


ペンギン・ボックス・パラドックス(紫陽凛)

三次元動物クリエイターの主人公が、空間設計師とともに仮想動物園のバグに対処する話。現実において仮想空間はずいぶん身近になったが、ともすればゲーム的な陳腐さが出てしまいがちなところ、本作は架空の職業や、近未来の仮想世界の在り方をリアリティを持って描いていて、描写の仕方として大変参考になったし、おもしろかった。大好物。そうした世界でバグがあり、現実にも異変が起きて……というストーリーにもワクワクしたし、人間関係も楽しめた。

アンソロジー的には、この続きに冬野こおろぎ『ペンギンを知るということ』をつい編みたくなる。


ペンギンを知るということ(冬野こおろぎ)

あれっ、間違えて「近況ノート」のほう開いちゃったかな? と戸惑いつつも読み進めると、読者と地続きからゆっくり作品世界に惹きこまれていく。が、よく読めばそこは僕たちの知る世界とはひとつだけ違うところがある。失われた記憶系のお話の、ちょっと不穏な空気感、ズレたい世界観がすごくよかった。

そしてなにより、エラーペンギンとかいう存在がズルすぎた……! かわいいが過ぎる……! 過労には気を付けてほしいけど、でもまあペンギンってすごくタフだし、大丈夫なのかな。ラストシーンに残る「痕跡」にもニヤニヤ。よい短編だった。


ペンギン・プロジェクト(レニィ)

ペンギンの飼育係の会話がまずは楽しく、そこで解説されるペンギン蘊蓄も知的好奇心を刺激され、勉強になって楽しい。語るならばこの「深さ」だよな、と再確認。そして、そんな日常と並列して語られる黒幕たちの物語にはSF的壮大さがあり、この距離感のギャップにまたワクワクさせられる。「Ping」がコンピュータ通信における探信と、黒幕たちの探査計画と、そしてペンギンとに三重に掛かっているのが秀逸で、かつ、異星探索という物語のテーマにも掛かっていて、うまいなぁと思った。


人鳥たちの星(藍﨑藍)

科学史からの導入が自分的にツボでワクワク。人類ペンギン論なるSF的嘘への人々・社会の様々な反応描写も楽しかった。こういうのを旨く&バリエーション描くのは地味にセンスがいる。そして後半への遷移はホラータッチだったが、でもまそれはそれでちょっと許せちゃうのは、ペンギンSFの醍醐味か。


ペンギンの国(秋待諷月)

小さな手乗りペンギンたちが人に懐く、ほのぼの ”風” のお話。「風」としたのは、共感や愛情をもたらすセロトニンが同時に、その愛情の圏外にある他者への攻撃性をもたらす(共同体外の者を排除したくなる)、という近年の研究を思い出したから。あと天敵いるのか気になった。


9.人生の傍らに、旅とペンギン

ペンギンはときに、僕たちの旅にもより沿ってくれる。それは道すがらの出会いかもしれないし、あるいは、人生という大きな道筋の中で、僕たちを導き、ときに僕たちを迷わせる。旅情と非日常に深みのあるお話たち。


希望と僕(黒石廉)

これぞジャーニー。南米から大陸縦断旅というバックパッカー的冒険をペンギンと一緒に、という、一度は夢に思い描くシチュエーション。賄賂のシーンとか好きだった(必要以上に取られなかったのでガイドの誠実さもうかがえた)。と、思っているとSF的仕掛けが発動し、やがて物語がペンギンの習性と主人公の過去とに巧みに重なる。ペンギンの再会シーンで、ペンギンたちがさっぱりした形で喜び合っていたのが嬉しかった。


愛はすべてのとおり君でした(只嶋どれみ)

「最後まで読むように」との念押し付きで紹介されていたので気になって読んだらおもしろかった。「ペンギンをいじめる主人公」「一方的に思える片思いの一人称語り」というちょっと厳しめなシチュエーションから物語は導入されるが、とにかくその砕けた文体が読みやすく面白く、一万字があっという間に経過する。そのなかで物語も展開して、そして最後の一文、冒頭のある文章のリフレインで、思わず涙が出てしまう。
絶対にまねできない文体なので自分の参考にはしにくいが、オチの設計については大いに参考になった。おもしろかった。


夢見るペンギンと夢見る人間たちのハネムーン(新星緒)

機械学習技術の発達により、鳥やクジラなどいくつかの動物が言語を持つことが近年知られるが、この物語もそのペンギンへの応用から始まる。が、タダ喋るだけではなくて、Save the cat的な語りから笑いを作り、かつ素の顔にはギャップもあるペン太のキャラクターはよくできていて愛おしい。リョウスケお兄さんの人物像も好きだった。と、物語のトーンが整ったかと思いきや、中盤でどんでん返しがあり、さらに終盤でも捻られ、短編のスピード感が心地よい。

さり気なく登場した「殺されて」の文言は重く、人間ではないものの魂との向き合い方を考えさせられる。


Welcome to PENGUIN LAND!(七名菜々)

夢の国でありつつ、不可逆であることの怖さもあり、『世にも奇妙な物語』じゃないけど、後味の残るお話だった。主人公アカリ主観ではまさに「夢」のようなのだけど、そうした無邪気な遊園地感を描きつつ、「3年経ってなお娘を探し続けている母親」で締めてくるかあ、と。特に親目線だと、色々と考えさせられるものがある。


男爵ペンギンの言うことには。(小椿清夏)

ぬいぐるみのペンギン「男爵」がしゃべりだすお話。イマジナリーフレンドとの現実化・対話は叶ってほしい永遠の夢のひとつであり、主人公を羨ましく思ってしまった。そんな主人公の取り巻く状況はしかしちょっとオトナな感じで、その対比もおもしろい。


合否前夜(押田桧凪)

中学受験にて予想外に戸惑う主人公の逡巡のお話。説明を求められるものが未知であるとき、未知とは何か、それを知りたい自分とは何か、という、より普遍的な問いに昇華して向き合う様子が迷いも残したまま描かれる。考えさせられる、気付かされる短編。


ペンギン先生の講義(みらいつりびと)

文系大学生の視点から、不思議な「ペンギン」先生の魅力が語られる。教壇に立つ先生のどこかひたむきな姿は愛らしく、そうした先生を取り巻く生徒たちや、そして主人公との交流には、青春的な胸の熱さを感じずにはいられない。

冷静に考えれば極めてシュールでツッコミどころ満載のシチュエーションを、淡々と文学譚的に描く語り口の手腕がまた魅力。心に残るものがあった。


10.ペンギンたちにも冒険を!

ペンギンだって冒険をする。その舞台は彼らの日常かもしれないし、変わってしまった世界、あるいは僕たちが小学生のころノートの裏に描いて夢想したような、めくるめく冒険世界かもしれない。


ペンギンよあれが巴里の灯だ(上原友里)

これはものすごい爆走活劇! 描かれる物語はとにかくメチャクチャなんだけど、最後まで飽きさせず、まさに読者をも並走させ続ける筆力には圧倒される。チャールズ視点の冒険譚にもワクワクしたが、これを「動」としたとき、遍銀寺で修行に励む息子が「静」の好対比に見え、心が涼やかになった。というか寺の名前がツボだった。爽快な読後感を楽しめたお話。


ペンギンマンニンゲンラン(鳥野辺九)

ネクタイを締めた憎まれ口のアデリーペンギンとドライブしながら、地球の氷河期化が描かれる。彼らは逃避行のさなかにあり、ちょっとハードボイルドテイストの語り口と、ロードムービー的な雰囲気、だけどペンギン! な絵面が楽しい。


可愛いペンギンには旅をさせよ。そして、舌を肥えさせよ。(ドルチェ)

冒険小説として面白かった。「PEN銀」「PENチアム」みたいなガジェット・用語のおもしろさ、垣間見える管理社会的ディストピア感、けどペンギンたちの掛け合いはあくまでコミカルで終始楽しくて、そうしたディテールが未来の食をもテーマに、「行って帰ってくる」話として構成されていて、安心して楽しめた。あと世界観の広がりも感じさせられたのもよかった。言ってみたい気持ちになる。


空の果てをめざしたペンギンと竜のはなし(エンプティ・オーブン)

これぞ、僕の原風景のペンギン冒険モノ。ペンギンと、騎士と、ロボットとタヌキと、そうした唐突にも思えるキャラクターたちが織り成す会話は、一見不条理にもみえて、確かにかつて僕のこころの中に存在した世界だったりした。そうした原石の輝きを損なわれずに描かれている。

主人公が失くしたものを求めて、協力して旅立ちを助けるストーリーにもワクワク。あと僕が大気件突破/突入シーン好きということもあり、クライマックスのシーンは本当に手に汗握るというか、胸が熱くなった。


11.ペンギンたちの日常


ペンギンのパン屋(佐久ユウ)

ペンギンのパン屋さん、という楽し気な話題が、夫婦の「夫婦ってこんな感じよねぇ」という絶妙な空気感で描かれ楽しい。主人公がんばれ…! そして中盤では叙述トリック的に物語世界が明らかにされ、終盤にかけてはほのぼのと、すてきな読後感をもたらしてくれる。


可愛い世界の神様たち(猫隼)

不思議な水没世界と機械船都市、そこにつたわる神話的な伝説、という世界観のモチーフが楽しいお話。異世界の世界モデルって楽しい。そこで過去に一体何があったのか、が解きほぐされるのはロマン。


イワシが落ちる(やすき)

人間をそのまま動物に置き換えたような世界で、いわゆる鳥ペンギンコンテストに挑むティーンの話。登場人物たちが協力して何かを制作する、というタイプの話は大好きで、本作も飛行機の制作過程がディテールしっかり描かれていて楽しめた。

かと思いきや、用意される「事件」に驚かされる。まあ確かに妨害はダメなんだけどそういう対処かー、とか微妙に突っ込みたくなるのも面白さだがそれはおくとして、そのうえで主人公がとった行動は王道ながらもやっぱりグッとくるし、そしてこのシーンは絶対に「ペンギンでなければダメ」で、物語の「絵」が完成する感じがあってすごくよかった。からの、ラストシーンもほっこり来つつタイトル回収。おもしろかった。


12.拙作

大気圏流氷に暮らすナギサペンギンたちがかわいい理由

最後に拙作も紹介させてね……。
ナギサペンギンたちを乗せて大気圏を漂う流氷が、量子糸で編まれた塔にぶつかりそうになるお話。全4話完結です。自分が描写したかった情景を描けたこと、なによりペンギンを描けたので大満足。企画に参加できてよかったです。


おわり

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