久乙矢(きゅう おとや)

冒険小説を書きます。 SF/六枚道場/さなコン2九頭見灯火賞(※非公式)

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最近の記事

月とボトルメッセージ

※本作は、お題にそって1時間以内に物語を書くイベント「古賀コン4」投稿作です。今回のお題は「記憶にございません」でした。 ※「側頭類」は「頭足類」の間違いではないかって? うるせぇ僕の宇宙じゃタコは側頭類って言うんだよ!

    • 日暮れの匂い、いつかふたりで

      本作のアガリ役は次の通りです: 小四季(一翻) …喜怒哀楽が1セット含まれている 情剧盃(一翻) …喜喜(喜劇)と哀哀(悲劇)の両者が含まれている 断片詩本作は #ブンゲイドンジャラ2 に参加した以下8篇の短文を編ませていただきました。 #ブンゲイドンジャラ2 とはブンゲイドンジャラは、140字内でつくられた短文(マイクロノベル)・俳句・短歌・短詩の公募作から8篇を選び、短文アンソロジーを編集する遊びです。日比野心労氏が主宰され、ブンゲイドンジャラ2では119篇が集め

      • オマージュと換骨奪胎、本歌取り

        僕の好きなパロディ作品に『髭を剃ったL.H.O.O.Q』がある。『泉』で有名なマルセル・デュシャンの作品で、名画モナ・リザのパロディである。 これに先立ち、デュシャンは『L.H.O.O.Q』という作品を作っていた。モナ・リザのポストカードにヒゲを書き足しただけの作品で、名画に対する揶揄の意図があったらしい。 問題はそのあとで、デュシャンは次に、ただのモナ・リザのカードを指し、『髭を剃ったL.H.O.O.Q』と名付けた。自身の作品『L.H.O.O.Q』のパロディである、とい

        • 水底の日曜市

          ※本作は、お題にそって1時間以内に物語を書くイベント「古賀コン3」投稿作です。今回のお題は「完璧な日曜日」でした。 ※イラストは1時間とは別に、そのあと書いたものです。

        月とボトルメッセージ

          2023年に読んだ本 Best10

          1年の振り返りを兼ね、2023年に読んだ本を整理した。今年読めたのは50冊。年初に立てた目標50冊をなんとか達成できた。 50冊にはおもしろかったもの、ふーんなもの、視野を広げてくれたもの、いろいろあった。せっかくなので、特に素敵だった10冊を選んで紹介したい。 まずは小説から5冊。 1.『六人の嘘つきな大学生』評判になっていたので読んでみたやつ。「6人の嘘つき」とやらがどんな造形で描かれているか、くらいの気持ちで手に取ったが、とてもそれどころではなく、何重にも起こる伏

          2023年に読んだ本 Best10

          イグBFC4の思い出

          イグBFC4というイベントに参加しました。 結局最後まで運営者の正体は明かされなかったけど、こうした有志イベントを企画いただくことは本当にありがたく、感謝の意味もこめて、参加の感想をここに残させていただきます。 特には運営関係者の小林猫太氏が、イグ初回からの道程も俯瞰した熱い閉会宣言を発されたので、こちらに対して思ったことを述べていきます。 以下、運営者さんへ、そしてイグに関わった人たちへ。 イグとは何かイグというイベントのおもしろさ、それはまさに「イグ」という価値基

          イグBFC4感想

          イグBFC4というイベントに参加したので、参加作品の感想をここにまとめます。 感想の記載方針/イグとは何かイグBFC4の募集要項ならびに参加作品リストはこちら。 イグBFC4は4回目となるイベントで、イグブンゲイのファイトクラブ。では「イグ」とは何かというと、今回の参加募集にあたっては「自分がアホであると思うもの」との定義づけがなされました。 ただ、何をもって「アホ」と思うか、何をもって「イグ」とするかは人それぞれだと思います。応募作を読むにあたっても、それが果たして「

          或る干渉

          本文原稿用紙6枚(タイトル除く) イグBFC4参加作

          『新潟SFアンソロジー』にみる四次元拡張された新潟

          2023年5月の文学フリマ東京にて上梓された『新潟SFアンソロジー ”the power of N”』は、新潟に由縁を持つ、あるいはあまり持たない著者15名によるアンソロジー。 いわゆる同人誌だが、その構成の見事さは土地としての新潟の仮想的拡張に成功している。SFの寄せ集めにとどまらず、編集著作物としてのSFの可能性を教えてくれる作品だった。 ので、ここに感想を残したい。 全体構成がとにかくすごい!読んでまず驚かされたのが、描れた物語の並びの完璧さ。「新潟」というテーマ

          『新潟SFアンソロジー』にみる四次元拡張された新潟

          さなコン3感想

          第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト(いわゆる「さなコン3」)参加作を読んだ感想です。全部はとても読めないので、フォローさん中心に読んでいます。 基本一言感想のつもりで書いてます。 作品によって感想の長さに違いがあるのはごめんなさい。 ……の前に、せっかくなので自作宣伝も。 軌道フックで作戦行動中の航空自衛隊・航天科エースパイロットの話(「月光」)と、世界を危機に陥れる三百人委員会の陰謀に抗う高校生の話(「陽光」)です。ペアなのでどっちから読んでもよいです。ガン

          袂島の忘れもの(『貝楼諸島より』)

           四隻、……五隻。  周期的な舟の揺れに身を乗せながら、望遠鏡のレンズの奥に目を凝らす。夜、沖合まで漕ぎ出れば、無遠慮な島々の灯は、海の水平線の底に沈む。  自分の眼だけが信じられる。  メタマテリアルの光学レンズは軽量ながら、透き通った星景を背にして並ぶ艦隊の姿を私に視せた。  風がぬるっと舟を煽って、視界が飛ぶ。私は望遠鏡を膝に置き、船べりのランプを点けた。それで、私ひとり載せた手漕ぎの舟はすべてが照らされてしまう。波がコーヒーゼリーみたいに黒々とうねる。  かばんからラ

          袂島の忘れもの(『貝楼諸島より』)

          FUNLETTERS『8月15日』のタイトル考察

          僕の大好きなバンドFUNLETTERSが1年8ヶ月ぶりに曲をリリースした。FUNLETTERSは、トラックメイカー&コンポーザーのNew Kと、ボーカルのChami.によるエレクトロポップユニットで、《あらゆる物事と人間性の肯定》を掲げる。 僕は透明に響くパーカッションのリズムと、そしてなにより詞が好きだ。『有名な曲かけてよ』の「鍵を掛けずに出かけよう」とか、『そこに愛があるなら』の「灯りを持たず谷へと降りていく」とか、これらフレーズはもちろん曲全体の文脈もあってさらに輝く

          FUNLETTERS『8月15日』のタイトル考察

          読みかけのディケンズ

          「いま、盗ったろう」  すかさず腕を捻り上げる。少年は怯えた目を私に向けた。  私たちのすぐ脇を馬車が駆けゆく。林立する工場の煙突の煙が曇天に滲む。薄汚れた公営の建物に混じって古びた救貧施設があり、路を虚無の如きボロ布どもが彷徨っている。  少年はその瞳にこそまだ光が見えたが、凍てつくクリスマスの空の下、煤だらけの薄着だけ着て瘦せ細っていた。 「言いがかりだね。こいつは元々オレの物だ」  少年はその本を庇うように抱えた。 「誤魔化すな。本の間に差し入れたろう。私が書いたばかり

          読みかけのディケンズ

          墓場軌道

           地球は今日もにぎやかだ。小さな真球を包む薄い大気の膜の底で、昼の海と大地は蒼く萌え、夜はいくつもの銀河を集めたように繊細に輝く。でも僕は、僕の背のしばらく向こうで冷たく佇む月の方が好きだった。  寿命を迎えた衛星は、高度約36000キロの静止軌道より少し上、いわゆる墓場軌道に遷移し、生涯を終える。ここが僕の住処だ。僕の発電装置にはまだ余裕があって、何なら他の廃衛星から部品もとれる。たまにすれ違う中継衛星が電波を届けてくれる以外は静かな場所だ。僕はここでゆっくり過ごす。  真