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映画レポ|『僕と世界の方程式』逃げるという選択肢は常にある

少し重い話をする。困難に直面したとき、無理やり頑張るか、もういっそ消えてしまおうか…なんて思い詰めた経験はあるだろうか。

人は簡単には逃げられない。究極の2択になってしまうのは、逃げるという選択肢を選ぶことが難しいからだ。

今作の主人公であるネイサンは自閉症スペクトラムと診断された少年である。彼はこの物語を通じて、一本道だった世界を大きく広げていくことになる。

◾️あらすじ

他人とのコミュニケーションが苦手で、数字と図形だけが友だちだった天才少年ネイサンが数学オリンピック金メダルを目指す中で見つけた、メダルよりも素敵な人生のたからもの…。

【TCエンタテインメント】
https://www.tc-ent.co.jp/products/detail/MPF-12785

◾️主人公は孤独な天才少年

父親を事故で亡くし、女手ひとつで育てられたネイサン。特に人とのコミュニケーションが苦手で友達はひとりもいない。そんな自閉症スペクトラムという難しい役どころを演じたのが『縞模様のパジャマの少年』で主演を演じたエイサ・バターフィールド。彼の持つ、透き通るようなピュアな瞳が戸惑いに揺れる姿を見ると、思わず胸がギュッと痛む。劇中のほとんどが無表情ながらも、微細な感情の変化が観る側にも伝わる快演を見せてくれた。

◾️才能と引き換えに生まれ持った生きづらさ

類稀なる数学の才能を持つネイサンは、数学オリンピックのイギリス代表候補に選ばれる。オリンピック本番へ向けた5カ国での合同合宿が本作のメインストーリーとなるのだが、そこで、ネイサンははじめて自分と同じように数学の才能を持ったチームメイトと出会うことになる。

私のなかで特に印象に残ったのは、ネイサンと同じ自閉症を持つルークだった。同じ生きづらさを抱える二人は、“自分から数学を引いたら何も残らない”という共通のコンプレックスを持っている。
…そして、最終的にルークが代表に選ばれることはなかった。彼はその夜、ネイサンにこう呟く。

「家族は俺を、
“変わり者でも特別な才能がある”って。
…でも、俺から数学を取ったら何が残る?

ただの変わり者じゃないか…」

ルークの腕からは血が流れていた。彼は“ただの変わり者”に成り果てた自分を厳しく見つめていた。

◾️もう、数学だけが生きる価値じゃない

ネイサンは合宿での関わりを通じて、人と触れ合うことで世界が彩られていくのを知っていった。

数学オリンピック当日、感じたことのない感情に動揺した彼は突如会場から逃げ出してしまう。驚きつつも、ネイサンの母は責めることなく彼を追いかける。母は、ネイサンが動揺してしまった理由…たとえば、数字以外の大切なことをゆっくりと教えていった。人に愛される価値や、人を愛する価値…

どんなにすごい才能を持つ人間でも、生きる価値は才能だけではない。ネイサンもルークも、数学がなくたって愛される資格も、生きる価値もある。言葉にできずともそれを知ったネイサンは、もう数学に縋る必要がなくなったのだ。

◾️まとめ

自分を傷つけるくらいなら、いくらでも逃げて良い。…と私は思う。綺麗事かもしれないが、とにかく追い詰められたとき、選択肢はまだあるかもしれない、と思ってみてほしい。大切なのは、自分にとって本当に大切なものが何かをきちんと理解すること。

…たとえば、明日を生きて迎えること。
ときに私たちは、ただそれだけを考えれば大丈夫なんだと思う。

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