見出し画像

【読書感想文】この世にたやすい仕事はない

津村記久子「この世にたやすい仕事はない」を読みました。


えっと、最初に一言いっすか?

真面目か!!!


すいません、取り乱しました。

津村記久子さんの書く文章が好きだ。真面目さが滲み出ている。10年以上会社員として働きながら執筆を続けてこられたそうで、その会社員生活の経験が、物語に大いに反映されているなと感じる。「この世にたやすい仕事はない」は、その名の通りお仕事小説で、労働に対する作者の信条が伝わってくる。15年務めた仕事を辞めた今だからこそ読みたいなと、書店で直感的に選んだ。

それでだな、主人公の「私」がもうね…超がつくほど真面目なんですわ…終始冷静で淡々としているタイプだけど、短期で終了する仕事、お給料も環境も決して良いとはいえない仕事で、毎度そこまで真剣に考えて行動にうつしてがんばるのか??とただただ驚く。はっきりいって全然割に合ってない。

主人公は1年間で5つの仕事を経験するのだけど、どれもこれも、こんな仕事ほんまにあるんか…?これは違法なのでは…?という仕事まで出てくる。私も、前職で非常にニッチな、珍しい業務を行ってきて(詳しく書くとたぶん身バレする)、特に「みはりのしごと」には少し近いものを感じてしまい、ここに共感できる人間はほとんどいないだろうな、と妙な気持ちになった。

「おかきの袋のしごと」なんてね、真っ先に「おばあちゃんのぽたぽた焼」を思い出す世代ですけども、消費者が目にするのは一瞬だけど、あの知恵袋の内容をコツコツと考案している人が世の中にいるんだよなぁ…と嫌でも思いを馳せてしまう。


「バスのアナウンスのしごと」を読んでいて思い出したことがある。昔、どこかに旅行して、地元のバスに乗ったのだけど、「健康、結構、烏骨鶏」という、おそらく烏骨鶏の卵を販売している会社の宣伝が流れ、な、なんてリズミカルで印象に残る言い回しなんだ…と感動した。実際、あの旅行から軽く10年は経っていると思うけど、今でも覚えている。あのアナウンスを考えた人はぶっちぎりにセンスがある。旅行したのがどこだったか思い出せないのが致命的だけど、「烏骨鶏の卵」でネット検索してみるか、と私に思わせた時点でその会社の勝ちなのである。

「大きな森の小屋での簡単なしごと」も、そんなクソ真面目にやらずに一日小屋で寝てたって絶対バレへんやろ…と思わずにはいられないのだけど、「仕事は暇すぎても苦痛」という点については非常に同感で、私がこの仕事をやったとしてもたぶん散策と観察は行ったと思う。あらやだ、私も真面目か。


主人公は基本ひとりで黙々と取り組む仕事を希望する割に、それぞれの職場の人たちとそつなくコミュニケーションをとれているし、「路地を訪ねるしごと」では飛び込みで初対面の人たちに積極的に提案活動を行っており、傾聴も上手くて、いわゆるコミュ障という訳ではない。例えば営業とか接客とか、人と接する仕事でも全然イケそうやん?と感じていた。そして、ラストに、最初に14年勤めた仕事を辞めた理由が明かされる。そうかー、そういう結論に達するのかー。本当に好きな仕事を、本当に嫌いにならないために、5つの仕事の経験と時間が必要だったんだな。


来月から始める新しい仕事、新しい職場で、今は想像もつかないような困難なことがあるかもしれない。そんな時、この物語の「私」のように内心冷静にツッコミを入れつつ、ほどほどに、真面目にやりたいと思う。ほどほどに。


たい焼き




この記事が参加している募集

サポートするのかい?サポートしないのかい?どっちなんだい? する!!パワ――――――――――――――――――――