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さらりと嘘をつくTinder男に騙されてあげている話【前篇】

少しご無沙汰してしまいました。飯田です。


ご無沙汰している間何をしていたかというと、ひとりのTinder男にどっぷり時間を使ってしまい、うっかり騙されてしまい、それでも新しい関係性が出来あがってしまったのでそのお話を。



Tinder男もTinder女も、きっと真面目に恋愛したい、恋人を作って結婚したいと思っている層は少数なんだろうなと思っていて、これまでに会った男たちはもちろん、彼らに聞いた「過去に会った女たち」も大抵みんなセックスしたくてTinderを使っている。Tinderビギナー以外はみんなこの認識で間違いないだろう。マッチングしていきなり「セックスしよ〜」なんてメッセージを送ってくる男はざらにいるし、プロフィールに「”そういう”目的です!(笑)」と公言している男もいるくらいだ。だから、普通に友達を作る目的でTinderを使っているとこうしたセクハラ発言をされたりだとかで、心が傷つく。

わたしも初めは「飲み友達が出来たらいいな」「異性の友達が欲しい」という理由でTinderを始めてしまったので、なんじゃこりゃセックスアプリじゃねえかと怪訝な気持ちになった。だが慣れてくるともうわたしもその前提、というか、ヤるかもしれない、という思いで利用しているので「所詮はTinder男なんだから」「もう2度と会わないかもしれない」くらいの気持ちで男たちに会うようにしている。悪い言い方をすれば、こちらがいいなと思ったところで「やり捨てられる」可能性も秘めている。それも比較的高い確率で。

男側も相性や居心地の良さを感じるなど、何かしら気に入ってくれる要素があればまた会えることも往々にしてあるのだが、たいていは都合の良いセフレになるだけで、そこから恋愛関係に持ち込むことはなかなかに至難の技だ。どうして女は体の関係になると心も持っていかれてしまうんだろう、この厄介な気持ちがなければどんなに楽かとこれまで何度も苦悩した。(ちなみに、「タイプの顔ではないが生理的に無理ではない」程度の顔の男とセフレ関係になるのがいちばん精神衛生上よいとここ最近になってやっと気付いた。比較的顔面も重視するわたしとしては、顔面を好きになれない彼らのことは恋愛としてどっぷり好きになる可能性が低いからだ。この件についてはまたじっくり研究したいところである)

そういうわけで、惚れっぽくて恋愛体質なわたしからするとTinderで男と会うことには「好きになっちゃうかもリスク」が伴う、ちょっと我慢と忍耐が必要な事柄なのである。わたしは将来、もっと素敵な人と(出会いのきっかけは何だっていいので)巡り合って再婚して子どもを産みたいという気持ちがあるので、淡い期待はいつも抱いてしまうけれど。



今回出会ったBはそういったこれまでのTinder男たちとは違っていた。


顔が好みだったことと、身長と「陰キャです」の2行だけというシンプルなプロフィールがいいなと思ってLikeした6歳下のB。マッチングしたあとすぐに「遊びに行ってもいい?」ときたので、ああこれはよくあるセックスパターンですねと思いながら「いいよ~」と返信した。LINEのIDを教えたあと数時間経ち、夜中4時にLINEが来た。「寝てて遅くなっちゃった、ごめんね!」Tinderのメッセージにも「遅くなってごめんね、LINEしたよ」とわざわざ送ってきた。律儀な奴。野暮用で起きていたが、面倒なので寝ているふりをして朝、返事を返した。


昼過ぎにやりとりが始まり、今から遊びに来たいと言う。その日は夜から別の男の家に行く予定があったので一旦断ったが、どうしても来たいとのことだったので1時間半後に来るように伝えてしぶしぶ部屋の片付けを開始した。めんどくせえな、と心のどこかで思いながら。

片付けをしていたため「○:○○に駅に着くね」という連絡をしばらくほったらかしていたら電話までかかってきた。なんだこいつは。Tinder初心者か。かまってちゃんか。心配性か。内心そう思ったが、わかったよ、気をつけて来てね、と伝えて電話を切った。



改札前で待っていたBはわたしを見るなり「えっ、可愛い」と驚きながら笑った。Bも写真通りの好みの顔だったので、非常に都合のいいわたしは「会おうと言ってくれてよかったな」と思った。最近Tinderでマッチした年下男はみんな詐欺写+低身長+ファッションも残念で(失礼)、会った瞬間ものすごいがっかりもう帰りたい…的案件が数件続いたこともあり(失礼)、安心した。

「マスクを外したらめちゃくちゃブサイクかもよ」可愛いねとかタイプだとか言われることに慣れてしまったわたしはこう言った。TinderでもLINEでも自己紹介すらほとんどしていない状態で会ったため、駅から家までの間にお互いの話をした。関西のそれではない方言で話す彼が新鮮だった。


することをしたあともBはわたしのことを可愛い可愛いと連呼し、手が綺麗だとか声がいいだとか色々と褒めちぎった。そういえば行為の最中にも好きだと言ってきたな。飯田さんはきっと俺のことを好きになるよ、とまで言い出す始末。きっとものすごいプレイボーイなんだろう。わたしはこれから地下鉄で行くけど、あなたはJRだったわね、とJRの改札まで見送ると、俺も地下鉄で帰る!とわざわざ値段が高くて遠回りになる地下鉄まで着いてきた。どうして別の男に会いに行くの、俺ともっと一緒にいようよ、と言いながら。

駅まで歩く途中、恋人風のことしよっか、と笑いながら手を繋いできた。ああなんとも珍しいタイプだ。みんな外ではこういうことは嫌がるのに。ちょっとお互いに気持ちが入った間柄になっても、みんなあんまり手は繋がないのに。好きにはならない、というよりなったら危険な気がするからなりたくないけど、ちょっとかわいいな。

わたしの乗る電車が先に来たのでじゃあね、と言うと、Bはまたねと言いながらわたしをハグしてきた。ああやめて、ただのセフレなのに、好きっていう感情を見せてこないで。好きかもって思わせないで。


元々会う予定だった男の家に来ても、頭の中はBのことでいっぱいだった。時折「楽しんでる?」なんてLINEを寄越すもんだから余計に。明日も休みだから男の家に泊まっても良かったが、顔がタイプではなかったことと(失礼)、Bのことを考えるとなんとなく「ちゃんと帰ってきたよ」って言いたくて、終電で帰宅した。



次の日も、その次の日も、またその次の日も、Bはわたしに会いに来るようになった。数日中にBには彼女がいることが分かった。初日に、わたし実は結婚してるんだけどさ、と話したことが衝撃すぎて言いだせなかったらしいが、様子を見ている限り、また毎日仕事の後にすぐ会いに来る熱心さを見る限り、ウブなのかプレイボーイなのかの判断が難しい。かつて「男の落とし方」みたいな本で、男は本命の女には惜しみなく時間を使うしLINEだってすぐに返すと読んだから余計に。

明らかにこれまでのTinder男たちとは違う。こいつは本気でわたしのことを好きなのかもしれない。困ったぞ、(まだ分からないが)きちんと愛されるのってものすごく久しぶりだ、しかもイケメンから好かれるなんてなかなかない。6歳も下というのも初めてでなんだかかわいい。あー困った。毎日浴びせられる褒め言葉と愛情表現に喜ばない女ってこの世にいるんだろうか。

案の定、わたしはどんどんBに夢中になっていった。Bもどんどんわたしに夢中になっていった。自営業をしている家族の関係で最近四国から家族ぐるみで関西に越してきた実家暮らしのBは、22時頃「兄ちゃんに怒られるから帰る」と帰ったあと、結局終電でまたこちらに戻って来たりした。わたしを抱きしめてキスしながら「会いたい病だー、めちゃくちゃ好きだー」なんて惜しみなく言ってくる。正直、戸惑った。イケメンに好かれた経験があまりないからである。わたし自身もともと浮気ダメ絶対派なので(ここ半年でバグってしまったが)、イケメンと付き合っても遊ばれそうで不安、という気持ちもあって積極的に好きになってこなかった部分もあるのだが。




2週間ほど毎日会うような日々が続いた。あるときセックスの後「そういえばこれまで彼女とかセフレとかのこと妊娠させたことってないの?」となんとなく聞いてみると「…あるよ」と言いだした。嘘やろ?と聞いても本当だという。「えっ、それでどうしたの、実は子どもいるとか?w」「うん、いるよ」「えまじか。結婚はしてないの?え、バツイチとか?いやいや待てまだ大学出て2年でそれってどういうこと、えっえっそもそも子ども何人いるの」「2回堕ろして、3人いる」いつもの甘い顔でそう答える。
サーッと血の気がひくこの感覚、前にも一度「彼女はいないけど、実は子持ちです」というTinder男に会ったことがあるが、その時と一緒だ。いやいやそいつはただのあっさりしたセフレだし子どもは一人だけ、しかも別居してるけどきちんと籍は入れてたから、その時よりも断然激しい衝撃。え、待ってこれ、今までの2週間騙され続けてたってこと?なにこれ?嘘だよっていつ言うの?ほんまなの?急に頭の中がキーンと冷静に、でも体は焦りと緊張で熱くなった。ああやっぱりな、という気持ちと、やられた!という気持ち。

よっぽどひどい顔をしてしまったのだろう、「ドン引きしてるじゃん」とBはなんとなく切ない表情で笑った。そりゃそうだ。こんなこと言われて引かない奴がいるまい。その後も質問を続けたあと、今日はもう帰るよ、と言うのでしぶしぶ駅まで送った。「俺クズなんだよ。もう会いたくない?」と言われたが、ここで突き放すのはなんだか自分のプライドに反するというか、余裕のある女じゃないみたいでカッコ悪いと思ってしまい、「嫌。また来て」と答えたが、まさに心此処に在らず状態だった。

いつもとは明らかに違うであろう表情と心情でBを見送ったあと、なんだか泣くこともできず、わたしは布団でただひたすらTwitterを見漁った。衝撃的すぎる事実をごまかしたくて、「あっそ」「まあそんなこともあるよね」くらいの気持ちを取り戻したくて、頭の中をどうでもいいことでいっぱいにしたくて。いつもなら何も考えず流し見ているひとつひとつのどうでもいいTweetに「へー」「ふーん」なんて頭の中で感想を持ちながら。「彼氏 隠し子」なんて検索もして、自分よりもっとひどい事例にどことなく安心しながら。

【後篇に続く】




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