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【短歌一首】 保護と駆除つな引き三月電柱はカラスの子らの巣立ち見守る

保護と駆除
つな引き三月
電柱は
カラスの子らの
巣立ち見守る

路地裏を歩いていると、電柱に一際目を引く色の貼り紙が貼られていた。どうもカラスの巣が電柱の上の方にあって、それを除去するまで暫く待って下さい、という趣旨のことが書かれている。こんな貼り紙初めて見た。

人目を引く貼り紙

カラスを巡っては地域住民の間でしばしばトラブルが発生している。よくあるのは住民のゴミ出しを巡るトラブル。

例えば、ゴミ出しのカラス避けのブルーのネットがきちんとかけられていないからカラスが生ゴミを引き出して散らかしている、とか、ゴミ出しの時間のルールを遵守せず前の夜中にゴミを出す人がいるからカラスがそれを食い散らかすとか。

しかし、カラスの巣をどのように取り扱うかについて、行政と地域住民の間で駆け引きがあることを伺わせるような貼り紙を見たのは初めて。たぶん地域住民から行政に対して、電柱の上にカラスの巣があるからなんとかしてほしい、というような要望が出されたのだろう。

住宅地に生息するカラス

カラスの繁殖期は3月頃から8月頃とのこと。一般的には、3月頃から巣作りを始め、4月から5月に卵を産み、5月から6月にヒナが育ち、6月から8月にヒナが巣立つ。 おそらくそのことに配慮してのことだろうが、張り紙には「鳥獣保護法の観点から、巣立ち後の撤去にご協力ください。」と書かれている。

巣の存在が確認されたのが「2024/5/20」と書かれているから、3ヶ月近く、ヒナの巣立ちを見守りつつ巣の撤去が見送られているということになる。

貼り紙の近影

カラスの繁殖期には、街中などで人や他の動物を攻撃したりすることも多くなるらしいが、それは卵やヒナを守るために他者に対して威嚇行動をとり攻撃をするから、と言われている。 

地域住民にとっては迷惑や脅威に感じることもあるだろうが、カラスを含むすべての野生鳥獣は原則として法律(鳥獣保護法)により保護されているので、許可なく捕獲・殺傷することは禁じられている。単に「怖い」「うるさい」といった理由だけで勝手に駆除することはできないそうだ。

しかし、現実に一定レベルの被害が発生した場合には、巣のある場所(樹木、電柱など)の管理者を確認し、管理者に被害状況を説明して、巣の撤去を依頼することになる。貼り紙からすると、電柱に巣があるのでこの管理者が東京電力ということになるのか。

神社にもカラス

カラスは学習能力も適応能力も高い。人間社会や都市部にもしっかりと根を張ってしたたかに生きいている。今や、街の至る所でカラスを見かける。

電線のカラスに注意していないと、思わぬところでフンが落ちてきて頭や服にかかりそうになったことが何度もある。そのような時に電線や電柱を見上げると、カラスがしらばっくれているように見える。きっと、人間にイタズラしてやろうとわかって攻撃しているのではと思ってしまう。 カラスは賢い。

住宅の塀にもカラス
川べりにもカラス
木の中にもカラス
電線にもカラス
面白い表現

もう一度、電柱の貼り紙をよく読んでみると見ると、一見カラスに優しく細やかな気遣いがあるように見える。その一方で、妙に調整的な持って回った言い方と、人間の一方的な傲慢な言い方や対外的な責任の軽減・回避の言い方も混在していて、歯切れが悪い。

除去手配中とあり、除去予定日に「3〜4ヶ月程度掛かります。(毎年100件以上発生)」というのは、カラスの繁殖期を意識した期間見積もりというよりも、同様の案件がたくさんあるから遅延しても許してね、と言っているのか。

一方で、ヒナの巣立ちを見守るために鳥獣「保護」の観点から思いやりに満ちたことを言いながら、他方で「除去」とか「撤去」とか厳しい言葉を繰り返し使っている。カラスにとっちゃ人間の都合による自分たちの棲み家の除去や撤去は一大事だろう。

街の中でのカラスと人間が共存することの課題をあたらめて感じさせる貼り紙。
カラスによる人間に対する攻撃や、人間の出したゴミをカラスが食い散らかす問題などは、マンションの理事会や町内会でいつも議題・話題になっている。

今日もカラスは人間の動向をよく観察しながら、タフにしたたかに生きるだろう。

猫間英介


生き物についての短歌集めました。


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