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〝わたし〟とヨーガの軌跡 《探究道編》 3️⃣

チベットに到着した僕を待っていたのは電車の中で見た大自然の極みとは対極の人工的な建造物たち。

そしてはっきりと主張された中国の国旗。


緊張と興奮で戸惑う僕に向かって話しかけてきた〝D〟。

Dはこのチベット人の名前を表すものだがこれから書いていくことには匿名性が必要だと感じているし念には念をが必要な世界があるのは明白だから。


Dの正体は“ガイド“だった。

チベットを自由に旅することはできない。

必ずガイドと運転手がつく。どこに行くのもこの2人と一緒でなくてはいけない。

それがこの[チベット自治区]をおさめている中国の決めたルールだ。


物腰がとても穏やかでかなりカタコトだが日本語を喋るD。

ただ何よりも印象深かったのは彼の“目”で僕は今も忘れられない。

黒目がとても大きくピュアで真っ直ぐな印象を受ける。そして、瞳の奥に深い悲しみを感じた。

そんなDとは対照的な運転手の中国人は大きな身体に力強さを漂わせ、僕にはカタコトの日本語をDには中国語を使って話した。


そんな2人と最初に向かったのは僕が泊まるホテル。とても大きな建物だが中に入ると電気は消えていて人も少ない。中国らしい装飾がふんだんに施されているがそこに鮮やかさはなくどこか怖い印象を受けた。

この日はここで全ての予定が終わった。

理由は高山病の予防。

このラサというチベットの中心地は高さでいうと富士山の山頂とほとんど同じところにあって、最初に下手に動いてしまうと高山病になりこの滞在全てが台無しになってしまう可能性すらある。

絶対に走ったり運動をしない事という注意と翌日の集合時間を言い渡し彼らは帰っていった。


部屋に入った僕は特に体調の悪さも感じてはいないし疲れを癒そうとヨーガマットを広げた。僕にとってヨーガは運動ではないし深呼吸しながらゆっくり動いているわけだから高地順応のつもりだったがはじめてすぐに酸素の薄さを全身で感じた。息は吸っても身体を巡り切らずいつもは紙のように軽いと言っている僕の身体も重りをつけながら動かしているようだった。

そんなこともあってかヨーガを終えた後もいつものような静けさはなく、むしろ明日からのこのチベット旅に興奮していた。



僕には目的があった。


本物のチベットに触れたい。


この綺麗なベットも窓から見える建物も僕の目には本物には見えない。

Dの瞳の奥に真実があるとなぜか確信していた。


そんなことを想いながら夜が明けた。

ホテルの中華バイキングの様な朝食を食べ終え、相変わらずのガランとした暗いロビーで2人を待った。


やはり僕は興奮していた。

僕にとっての本物の旅がはじまる。

そう思っていた。

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