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微妙。『仮面ライダーBLACK SUN』

※本記事はネタバレをたくさん含みますので、未視聴の方はご注意ください。

昨年の10月28日より、Amazonプライムにて公開されております『仮面ライダーBLACK SUN』。最初、告知を見た時は興奮しました。

これまでも『仮面ライダーアマゾンズ』のような作品はありましたが、それ以上に異色な作品になるのではないか?という期待。しかし、同時に「政治的な描写が多くなって、仮面ライダーとしての描写が減るのではないか?」という不安もあって。そして、先に視聴されたがちおさんのこちらのnoteにその旨についてコメントすると

大体当たってます

と返信が。ああ……。
それ以来、なかなか踏ん切りがつかず、どうも観れなかった。でも、今月誕生日があり、年齢を重ねる前に消化しておきたいっていう謎の欲求が芽生えたので、数日前に一気見しました。

原作の『仮面ライダーBLACK』と、その続編の『BLACK RX』は視聴済み。原作は、意外と今の時代に観ても面白かった。分かりやすく”ヒーローとしての悲哀”、”ヒーローの孤独”を描いておりまして。兄弟同然の二人である南光太郎と秋月信彦が、仮面ライダーBLACKと世紀王シャドームーンとして戦わなければならず、今まで一緒に居た信彦の妹の杏子とガールフレンドの克美は海外に避難したため、すべて終わった後は光太郎独り。そして、とにかくその場の機転で切り抜けるがむしゃらさも、個人的には面白かったポイント。まぁ、大体が、ベルト部分から強い光を出す“キングストーンフラッシュ“を放つか、呼んだら来るバイクの”バトルホッパー”もしくは”ロードゼクター”を使ってるだけっちゃだけですけど……。倉田てつをさんの、プロポーションも素晴らしかった。腕も足も長いので、パルクールがとにかく映える。

そして、その『仮面ライダーBLACK』のリブート作品として生まれた今作。正直ぶっちゃけると、物語そのものは面白くなかった。もちろん、素晴らしい点もあったので、まずはそこから述べていきます。

・よかった点

〇出演者の好演&怪演

南光太郎役の西島秀俊さん、秋月信彦役の中村倫也さんがメインの本作ですが。お二人ともホントにカッコいい。自分も男ですが、特に西島さんが映ってる時は「かっこええなぁ」と呟いておりました。2022年と1972年の二つの時間軸を交互に描写するこの作品。中村さんの、反差別運動とその仲間たちの間で起こる青春を駆け抜ける若かりし頃の信彦と、様々な経緯を経て怪人の世界を作ろうとする現在の信彦の演じ分けも素晴らしかった。ゆかりにキスされて「今……怪人なこと忘れてた」と少年のようになる信彦、よかったんですよね……。
怪人態もあるので、各俳優さん方のアフレコが聴けるのですが、三神官ビシュム役の吉田羊さんの美声が良い(語彙力)。透き通っていて何の角もない、なのにしっかりと個性のある声。何か、本の朗読とかされてないんでしょうか。あの人の声はずっと聴いていたくなりますね。もちろん、人間態の演技も良いです。
他の方のレビューでも紹介されてますが、やはりルー大柴さんの怪演は外せないでしょう。いやぁ……すっげえ。あんなに憎たらしい人間を演じられるのか!という驚き。7話の「創世王を殺してぇ?怪人の歴史を終わらせるだぁ?それを叶えても、ゆかりは抱けねえけどなぁ!」が最高でしたね。これはキレて殺されても文句言えませんわ、みたいな悪役っぷり。周囲の人間にパワハラ全開な態度を取ったり、人前では物腰柔らかな雰囲気で居たり。でも、コオロギ怪人に迫られたらビビってコウモリ怪人に助けを求める小者っぷり。堂波真一というキャラを見事に演じ切っておられましたね。安倍元総理への寄せっぷりもよかった。
他の皆さんも、いろいろと難しい設定の本作で、よくここまで駆け抜けたなぁ、と。

〇怪人等のデザイン

本作は「平成ガメラシリーズ」や『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』でおなじみの樋口真嗣さんが怪人と仮面ライダーのデザインを担当。現代にリブートされた仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOWMOONのデザインは自分に刺さりました。原作のデザインの完成度が高いのはもちろんなんですが、生物っぽさと機械っぽさの間を攻めたような姿が……いいっすね。ビルゲニアも、ああなるとは思わなかった。コスプレ感は否めないんですけど騎士の雰囲気をより際立たせていて、三浦さんの好演も相まって、非常にカッコよくなってましたね。他の怪人たちも、グロテスクさもありつつ、ある意味リアルな造形になっており、「おお、あいつか!」と興奮しながら観ておりました。

〇本作の追加要素

原作にはない要素が本作にはいろいろと追加されていまして。あるYouTuberの方も言及されていましたが、秋月信彦のキャラクター性がしっかり描写されていたのは良かった。原作では、信彦の登場シーンはほとんどなく、シャドームーンになってからは信彦の人格がほぼ出てこないので、悲哀を演出するための役割くらいしか与えられなかったんですよね。なので、怪人への差別に怒ったり、先述したキスされて少年のようになる場面だったりと、信彦という人物がちゃんと描かれていたのが個人的には好印象でした。
また、原作だと”悪の総大将”くらいにしか描かれなかった創世王が、実は優しい一面もある悲しい存在として描写されていたのもよかったですね。改造手術で怪人にされ、怪人が生き長らえる上で必要なエキスをただただ抜かれ、どの陣営からも道具としか扱われない。ビルゲニアだけは忠義を持って接してましたけども。それでも、子どものころの光太郎と信彦の頭をなでるシーンには、グッときてしまった。もっと、こいつに目を向けてやってくれよ皆……。巨大な姿から、心臓のみになるところも、原作再現されていてよかったですね。

・個人的に残念な点

〇ちょいちょい雑

本作は、怪人への差別や怪人を道具として扱う政府関係者は変わらず、ヒロインである和泉葵とノミ怪人・クジラ怪人がゲリラ組織を作り、”悪い人たち”と戦う決意を固めたところで終わりました。このラストは、個人的には好きでして。実際の差別だってなかなか解消しないし、半世紀前の焼き直しみたいな組織を生み出すのも、この年齢の女の子なら分からなくもないかなっていう。妙なリアルさを感じたんですよね。
しかし、このラストに向かうまでの道中が、どうもなぁ……と。たとえば、怪人の差別描写。怪人が複数の人間から暴力を受けると亡くなる、という設定があるのはまだわかる。一般人と同じである以上、そこまで戦闘に長けてるわけでもなく。ただ、変身すれば常人を上回る存在になる怪人に対して、わざわざ挑発的な行為をするか?という疑問が。ぶん殴られたら死ぬかもしれない相手に、「運転手さん、このバス怪人乗せるんですかぁ?」とか「うちの店は怪人お断りなんですよ!」みたいなこと言う?むしろビビって、距離を取る方が自然だと思うんですよね。
また、差別団体もなぁ、と。いわゆる在特会がモチーフなのでしょう。話は逸れますが、リーダー役の今野浩紀さん、良い演技でしたね。その差別団体が暴力行為をするのが、どうもリアルじゃないというか。何せ、実際の在特会やら、そのカウンターであるいわゆるしばき隊という存在は、脅威的に振る舞うことはあったとしても暴力まではしないんじゃ?と。そして、暴行されて死んでしまった俊介は、商店街(?)にある俊介が住む家の前に吊るされ、父がそれを見つけるのですが……いや、何でそれまでバレてないの?と。四六時中だれか居そうな場所なのに。で、リーダーが頭潰されて死んだのに、まだ活動続ける辺りが、さすがにアホすぎるというか……。
あと、旧日本軍の人体実験に関する資料を葵が手にし、国連に告発するシーンがありましたが。普通、その手の資料って焼くんじゃない?もしくは、流れないように厳重に管理されない?何で五流護六に所属していたとはいえ、何で一般人がほとんどの資料を入手出来てるの?という疑問がすごかった。現実のいわゆる731部隊も、当時の時流を鑑みれば人体実験をしていた可能性はあるのでしょうが、そういう文書などが見つからないために、どこまでも噂の域を出ないわけで。せっかく実験に携わった秋月博士が存命中なのだから、数枚の資料と当時の関係者の証言を集めて証拠とした方が、まだリアリティあったんじゃないかなぁ、と。
そのほかにも、キングストーンの設定。これは……何だ?っていう。増えてません?あと、取り外し可能なのが残念だった。埋め込まれてしまった以上、”ブラックサン”と”シャドームーン”として戦うことを余儀なくされる運命にあるからこそ、悲哀や駆け引きが生まれるのに。どうも、貴重な感じがしないんですよね。
あと、怪人のランク。上級と下級を分ける基準が、おそらくは持っている能力に由来しているでしょうけども。結局、集団から暴行されれば死ぬことに変わりがないのが、なんだかなぁ。本当にこんなのが、戦場で役立つのか?せめて、上級なら撃たれても死なない!ってくらい強い方が、兵器として生み出されたことへの説得力が出てくると思うんですよ。

〇アクションがワンパターン

一応、”仮面ライダー”と名を冠する本作ですが。大体が相手を転がしてその頭や腹を蹴るとか、そういうヤクザ映画みたいなアクションばかりなのが、モヤっと。特に、仮面ライダーBLACK SUNに変身した5話。もうちょい見栄えのあるアクションにならんかったか……という気分になりましたね。特に最近の令和ライダーがアクション頑張ってて、何度か見返すほどのナイスバウトがあったりするので、なおさら残念でした。

〇怪人側の行動

秋月信彦→怪人たちが人間を支配する世界にしようするも、やってることは内ゲバ。どう考えても戦力が要る状況で、ダロムを殺すのは仕方ないにしても、ビルゲニアを追放したりバラオムを殺す必要あったか?
三神官たち→首相である堂波真一の祖父である堂波道之助に従属する形で、怪人たちの参政権などを獲得。反差別団体である五流護六が分裂する要因になり、結局は本人たちも甘い汁を吸う存在になってしまった。政治闘争が下手過ぎんか。怪人による固定票があるのだから、もっと野党にすり寄ったりして、揺さぶってもよかったのでは。
ビルゲニア→三神官とは違い、怪人の地位向上を狙って動いているのは伝わった。おそらく、和泉葵を怪人にしたのも、現状と戦ってくれる”戦士”を作りたかったんだろうな、と。それにしても、葵の母親殺す意味あった?
同じ怪人たちの中でも、それぞれ理想が異なるために、すれ違うのは当然だとは思うんですが。内輪もめを延々見させられただけなのでは?という感じがすごい。

・総評として

いろんな要素をごった煮にしたがために、どれも半端になってしまった作品、というのが自分の感想です。ところどころリアリティあるのに、その他が雑、というか。そのせいで作品全体で観れば薄味。
個人的には、もっと人間側の描写をしてほしかった。特に、デモの制止などをしていた警官の黒川みたいなキャラ、もっと他にいてもいいと思うんですよ。怪人側の事情も分かるから、やりきれない思いを抱えつつ仕事する感じの。そして、そういう人たちと怪人が互いに殺し合うからこそ、戦うことの空虚さがより深まると思っていて。9話で、バスの車中から国連で演説する葵を突入部隊が取り囲み、それをビルゲニアが止めるシーンがありました。「人間も怪人も、命の重さは地球以上。1グラムの違いもない」というセリフが出てくる一方、大量の突入部隊の死体と弁慶の立ち往生をしてるビルゲニア。虚しさを表してるのは分かるんですが、これ見て命の重さを同等と受け取る人、いないんじゃないかな……っていう。
物語も、結局は50年前の焼き直しというか。信彦は革命から抜け出せず、光太郎も受動的なのは変わらず。これだけ時間があったなら、もっと創世王を殺したあとの世界を考えられただろうに、と。殺した後も、行き着く先は革命ですからね。もっと他の戦い方も一緒に模索しないの?っていう。いい意味で言えばリアルなんですが、悪く言えば同じことの繰り返しで。それを、7時間18分の長尺でやるのか……っていうね。
ただ、良いところももちろんあったので、駄作の一言で片づけたくないですね。


本作はグロテスクな描写があることも相まって、18+の制限が設けられましたが。”大人向け”って何なんでしょうね。ラストにはBLMが起こる原因となった警官の捕縛など、ところどころ実際の差別を盛りこんだシーンもありましたけど。何か、それをただ入れただけで”大人向け”なの?もっとそれまでの文脈とか、一枚岩ではない被差別側の姿を描き、一つの答えに行き着かないから”大人向け”なのでは?という思いになりました。その辺は、『仮面ライダーアマゾンズ』の方が上手かったかな。
アマゾン側のレビュー、社会派が好きな方と一部ライダーファンの方が好意的、否定的な方は大部分が『仮面ライダーBLACK』のファンという印象です。まぁ、原作が大人気であるが故に、もめるのは避けられないでしょう。しかし、ここまで二分するのか!という驚きもあって。あと関係ない話ですが、自分は10話の原作OP再現、好きじゃないです。あのドラマの雰囲気に合わない……。

長々と書きました。普段大した文字数の記事を書かない自分が、まさか今の時点で5000文字越えの記事を書けるとは思わなかった。否定的な書き方ではありましたけど、おもしろい/おもしろくないは個々の判断なので。気になった方は視聴してみてはいかがでしょうか。
ここまでお読みいただきありがとうございました。