最前列で見る「天守物語」
十二月大歌舞伎第三部を中村屋友の会に入っている友人の手配で3人で観た。最前列で観る歌舞伎は初めて。
「舞台装置の粗とか役者さんの化粧や着付けの粗とか見えちゃったりしたら冷めちゃうんじゃないか」とか「天守物語の舞台は俯瞰で見た方が映えるんじゃないか」とか不安もあったが……さすがは歌舞伎座、完璧に妖魔の住まう異世界をつくりものっぽくせず、間近に見ても粗がひとつもない。それどころか、遮るものが何ひとつなく、舞台の世界に没入できた。溜息が出るほど美しい泉鏡花ワールドに身ひとつで飛び込んだような体験だった。
富田勲のシンセサイザーはちょっと音が大きすぎるように思ったけど、暗闇に浮かぶ満月、三日月の後に幕が開けて、鶴松さんが間近に糸繰りで糸を垂らしている。鶴松さん芝のぶさんがお女中たちの中でもとりわけ若く美しいが他の方々も奥女中らしい品があり、女童たちも愛らしく、かつ生身でない女の洗練された所作が眼を引いた。
あぁそして玉三郎さんの富姫の美しさときたら。年齢を感じさせない若々しさ、人ならぬものの妖しさ。所作や言葉の美しさに見取れてしまう。赤姫の拵えで登場した七之助さん亀姫と並ぶと、この世のものとも思われぬ美女姉妹の親密さが眩しい。
やがて登場する姫川図書之助。團子ちゃん、清々しくて凛々しくてぴったり。富姫に恋し、人間界に裏切られて富姫と共に永遠に生きることを選ぶ図書之助を美しく清々しく演じきってくれた。玉三郎さんがぜひにと指名した相手役を堂々とこの若さで演じきる團子さん。拍手拍手。
勘九郎さんの三役演じ分け(桜の精、父親松虫、雪達磨)た踊りと長三郎さんの子松虫の可愛らしさも、いい舞台だった。