全部「作品〈フィクション〉だ」って笑えば良い
予定とか、約束とか、明日とか、本当にどうでも良かった。
友だちも意味が無い。その当時友だちだったとしても、どんなに一緒に移動教室に行ったり、プリクラを撮ったり、お揃いのアクセサリーを買ったりしても、学校が、環境が変われば、時間が経てば、それらは全部が無意味になるし僕らは知り合いよりは気が知れている程度の他人になるし、思い出が時間を越えることは絶対に無いから。
いつか海に行こうね、とか、今度このケーキ食べようよ、とか、最近も変わりない?とか、すごいね!応援してるよ!とか、落ち着いたら飲みに行こう、とか、所詮は連絡のついでに手持ち無沙汰を埋める口で交わしただけの約束なんて、僕は笑顔で頷きながらいつも相手の指を勝手に切って相手の喉に針を千本勝手に刺してる。
思えば、僕は昔、家族さえも中々、30分程度もすれば顔も声も表情も記憶も吹っ飛んじゃうくらいわすれっぽかったのだが、それは多分こころが関係してたり、そういう性質だったりで特に病気とかではなくて、憶えておきたいことは書けば良い、描いたことは忘れないから。ってどんなささやかなことでも憶えておきたいことは何でもかいてた。
いつからかそれがもう要らないんだなって解った時、昔から随分と物覚えが良過ぎたことを思い知る。
小学生の頃初めて好きと言われ冗談だと受け止めていたのにほんとは大真面目だったってこと、幼稚園生の頃に些細な勘違いでちょっと喧嘩になったけどお互いに宛てた手紙を渡して仲直りしたこと、陸上をしていた頃特段何かがあった訳でもないし成績も悪くない、なんならちょっと上くらいだったのに陰で笑われて悔しかったこと、幼い頃から優しいね大好きって言われて役に立てたってうれしかったこと、だけど裏では都合が良いよねなんて結局何かしら文句が言いたかったんだねって後で識ったこと、言う事聞かないなら体罰だって言われて嫌われてるのかなって怯える程に愛情の躾を打たれたこと、今では彼女も若かったから不安だったんだ、って理解出来ること、中学生の頃鼻の状態が良くないことを死にたいくらい気にしてたこと、それを仲が良いと思っていた女の子二人に無邪気に赤鼻のトナカイを歌われて笑い飛ばすしかできなかったこと、一番上を任されてしまったから大真面目になって自分一人だけが白痴みたいに活動して苦しさを誰にも言えないねって独り笑ったこと、いつも板挟みで人の悪口ばかり聞かされる役割を持たされていたこと、他人を笑えるほどにあんたは立派じゃないだろうなんて思ってても言わなかったこと、友だち出来るかなって一生懸命周りの空気に乗っかってうまくいったと思ったら一人に嫌われた、ら全員がそんな空気を纏ったこと、あいつウザイよね!嫌な気持ちになるよね、表面上だけは仲良くしてるけどなんて言われても同じ空間に居るお前達も同罪だよって疎んで馬鹿みたいに嘘泣きしながら有難うって言っていい子ぶってやり過ごしたこと、何とか信じられるひとについていって世界が変わったって本当に泣いたこと、本当に楽しかったけど結局今はその教室の誰とも連絡をとってないこと、そんなことを繰り返しただけの学生時代、だけどその中に信じられる希望があったこと、でも結局同じことでした。と今嗤っていること。
約束も希望も夢も未来も要らない。言葉で表せてしまう様な物事に意味も価値も無いんだから。
だって人は皆、平等に忘れる機能が予め組み込まれていて、 離れたらその存在は無かったことになるんだから。
あなたも、いつか忘れるだろう。僕との色んな何かしらを。僕ばっかりがずっとずっと憶えてて、永久に記憶と時間の間にただひとりで幽閉されたような気分になって。
ひとをすきだと思う度に地獄を見せられる様な気分になるのはきっとそういう仕組みの所為だ。孤独なものは孤独で居るしかないのに、何かの温度を求めて寄り付いてしまう習性もまた、予め組み込まれているからこんな気分になってしまうのだ。
約束が、すきじゃない。言葉は有限だから。だけど約束をした未来が楽しみに思う自分も居る。どっちも同時に存在するから約束をする度に変な顔になってないかなって心配になる。
僕にとってはどんな約束もだいじなもので、優先すべき僕の生きる理由であって、きっと約束した誰もがそんなこと知らないわけだけど。
しあわせは誰かの不幸の上に成り立つこととか、人は本当にひとりでは生きられないようになっていることとか、チューリップの花の風に揺れる様を愛しく思うこととか、愛しているひととの時間との引き換えに何かを努力することとか、成立しない約束を結んだ首元を撫でることとか、誰かと誰かが寄り添って歩く背中を知り合いでもないのに微笑んでしまうこととか、もうつけなくなったお揃いのイヤリングのこととか、見上げてごらんって言われて見上げた空があまりに青かったこととか、いつか絶対飲みに行こうねって言った珈琲のこととか、前を歩くあなたの弾むように揺れる頭を見てしあわせだなって呟いたこととか、
あなたもいつか忘れるだろう。
僕は憶えてるままで。
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