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バゲットにはオリーブオイルと塩で

この食べ方を知ったのは旅行先のホテルにあるレストランだった。


そのホテルはホテル志摩スペイン村。
昔夫と志摩スペイン村に旅行に行った時に泊まったホテルだ。
ちょうど行った時は冬の寒い時期。
この時期はオフシーズンなのだろう。
志摩スペイン村は閑散としていて殆ど人が居なかった。ホテルも然り。
それでも人混みが苦手な私はのんびりとスペイン村を楽しんだ。
丸一日かけて園内を一周し、アトラクション園内の雰囲気も全て楽しみその後はホテルに戻ってご飯。

場所はホテル内のレストラン。
恥ずかしながら私たちは普段からコース料理のレストランを利用したことがなく、マナーなどにも疎かった。
なんとなくフォークやスプーンは端から使う程度の知識しかない。
恐らく私たちを接客してくれた男性はその事にすぐ気付いたに違いない。

彼は食事を配膳する時、さりげなく食べ方を教えてくれたり、使うフォークやナイフなども教えてくれた。私たちがあたふたしない様に気を配ってくれたのだと思う。
そのおかげで無事に料理を楽しめたと言っても過言ではない。
じっと私たちが食べているところを観察するでもなく、用が済んだらサッとその場を去り、遠目から私たちを見て良いタイミングで次の料理を持って来てくれる。
その対応にこの人は本当に仕事が出来るのだろうなと思った。

その時のお客は私たちともう1組だけ。
なのに心を込めた接客と気配りはプロだった。

食事はスペイン料理。
配膳の度にされる丁寧な説明のおかげで楽しく食べられた。この時食べたいパエリヤは本当に美味しくて、これを超えるものに出会っていない。出てくるもの全てが美味しくてついつい2人とも会話を忘れて食事に向き合った。

本来ならば最後に出て来る予定のパンが途中から出て来た。
あれ?と思っていると
「申し訳ありません。次のお食事が出来上がるまで少々かかる様でして。よければお待ちの間こちらのパンをお召し上がりになってお待ち下さい」
私たちがあまりに早く食べ過ぎたせいだと思う。申し訳ないなと思いつつその気遣いを有り難く受け取り、パンを食べようと手を伸ばした。

「お客様、少々お待ちいただけますか?」

そう言って少し足早にどこかへ行ってしまった。
何か忘れ物かな?ととりあえず2人で待つ。

「お待たせしました。こちらのパンなんですが、そのままよりオススメの食べ方が御座います」
そういうと、透明な瓶に入った不思議な色の液体を出し小皿に入れ始めた。
なんだろうと思っていると、オリーブオイルです。と教えてくれた。
パンにオリーブオイル?と思っていると

「オリーブオイルとこの塩で食べて頂くのが大変オススメです」
と塩が入った小皿を私たちの前に置いた。

オリーブオイルと塩?そんな食べ方初めて聞いた‥!と思いとりあえず言われた通り食べてみる。あまりオリーブオイルは得意ではないがオススメと言っているし、せっかくの機会だ。
夫と2人オリーブオイルと塩の入った小皿にパンをつけてみる。
ジワっとパンがオリーブオイルを吸い色が変わる。
美味しいのかな?そんな疑問を持ちつつパクリ。

「美味しい」

自然と口から出た。夫も美味しい!と絶賛だ。
横に立っていた彼は私たちの反応が嬉しかったのか、ニコニコと笑っている。
「お気に召して頂けて何よりです。パンのお代わりは自由ですので、また仰ってください」
そう言い残し仕事に戻って行った。

「このパン、バゲットか」
夫がパンを食べながら呟く。
「この食べ方、めっちゃ美味しい。塩強めがオススメ」
そう私に言いずっと食べている。余程気に入ったらしい。私も残りのパンを食べつつ次の料理を待った。
「お代わりお願いします」と言う夫の声を聞きながら。




あれからオリーブオイルを見る度に、あのレストランで食べたバゲットを思い出す。
オリーブオイルと塩のシンプルな味だが、それが良かった。

彼がまだあのレストランで働いているかは、正直分からない。もしかしたらもう居ない可能性もある。
けれど、あの心遣いと接客はずっと覚えている。また志摩スペイン村へ行く時このレストランでパエリヤとバゲットが食べたい。
そう思わせてくれた彼に心から感謝したい。


サポート費用は美味しいスイーツに充てたいと思います。