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Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA

Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA (SEL35F28Z) はSONYがFEマウントをリリースした際に発表したレンズで、小型軽量を売りにするミラーレスカメラの特性を殺さない小型軽量なレンズです。

価格的には普及(エントリー)クラス以上と考えますが、初出がFEマウント登場と同時で当時はFEマウント単焦点最安値であり、状況から済し崩し的に普及クラスと言えるレンズでありました。
価格の割にスペックは目を見張るような点はなく地味で見栄えがしないレンズであったためか、より高額なSonnar T* FE 55mm F1.8 ZA (SEL55F18Z)の方が人気があると言う現象も発生し、ラインナップが揃ってきて社外品の選択肢も増えた2021年現在では光学的数値の割に割高な印象は尚更です。

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model : 百川晴香

恐ろしい事にFEマウント登場時はSonnar T* FE 55mm F1.8 ZAと並び〝撒き餌レンズ〟とか無茶苦茶な主張をする人も存在して「実売8万円近いレンズにwwww」とか思ったものです。
勿論、その価格に見合うスペックや性能であればその主張は正しく、安価とは言えない価格であってもそのレンズを目当てにボディを買う、或いはレンズ交換の世界に誘い込む効能(?)は考えられ、例えばEFマウントであればEF135mm F2L USMやEF70-200mm F4L USMといった〝高級ラインなのに比較的安価でありながら価格以上に描写が凄い〟レンズも存在しているので(L沼の撒き餌)、価格だけがその基準ではありませんが。

何れにしろ、価格以上の価値を感じさせなければ成りません。
Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAはその価格に見合う価値があるのでしょうか。 
点光源から確認してゆきましょう。

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画像は開放と一段絞ったF4。
このレンズ、35mm F2.8としてはかなりボケ量が少なく感じるのですが、、、それはさておき、口径食は大きめですが、レンズの大きさを考えれば致し方ないとして、点光源周囲の縁取りは強くないものの、かなりえげつない渦巻きと共に羽形状は開放にも関わらず歪で円形ではなく、絞ると更に酷くなるので点光源描写は評価に値しません。

点光源の渦巻きは「非球面レンズ」と言うものを使っていると出やすいと言われていますが、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAの場合三枚も使っている事が原因かも知れません。
絞り羽根は目視上でも絞り開放にも関わらず微妙に閉じている(絞り羽根が見えている)事や1/3絞っただけで円形を保っていない事が確認出来、円形絞りとは一体?と感じずにはいられない有様です。

専門的な事は判らないのですが、有効径と焦点距離でF値が求められるので、そこが正確ならF2.8と名乗れるとは言え〝微妙に閉じた絞り羽〟を考えると絞った状態と同等なので、ボケ量の少なさといい、なんだか釈然としないものを感じます…

しかし、ボケ質の評価は点光源描写だけではありません。

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ほぼ同じ状況で撮影した1枚目は某50mm F1.4、2枚目はSonnar T* FE 35mm F2.8 ZA(SEL35F28Z)です。
絞りは双方F3.5。
何か後ろの葉っぱに不穏な所作を感じるので拡大してみます。

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芯が強く残っていたり、点光源は先のイルミネーションで判断出来るように余計な物が追加されていると感じる芳しくないボケ描写と言えます。
焦点距離が15mmも違うのでボケ量で劣る35mmに不利で、点光源描写から察するに実際ボケ量も存外少ないとは思いますが、何かもっと根本的な部分で違いを感じるとしか思えません。

ボケ質の善し悪しは中途半端にボケた部分に現れやすく、大きくボケた状態だと善し悪しは計りかねると感じています。 現代はだいたいどんなレンズも大きくボケていると同じような印象で、大きく溶けたボケを見ても違いは判らない事が多いです。
また別の画像でも確認してみます。

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大ボケしている部分は当然問題ないのですが、ピンのあった部分の後ろの網、ちょっと煩いので拡大するとゴチャゴチャとやはり何かが追加されているような、そんな印象でやはり綺麗とは言えません。

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状況としては難しいと言えるのですが、こういったスッキリしない描写が多々見られるのがSonnar T* FE 35mm F2.8 ZA (SEL35F28Z)の特徴と言えます。
もっと寄る事が出来れば大きくぼかせるので誤魔化す事が出来たかも知れませんが、35mmとしては寄れない(最短撮影距離35cm)ので難しい。

最後に別のレンズと較べてみます。
比較するのは35mm F1.4 GとFE 35mm F1.4 GMで、この二つのレンズの絞りはF2.8に、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAは絞り開放。
状況としては下記のような状況で、これの中央をトリミングして等倍に。 
微妙にピント位置がずれているのはご容赦頂きたい。

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35mm F1.4 G

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FE 35mm F1.4 GM

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Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA

ピント位置の違いによりボケ量が変わってしまい印象が変わっている可能性もありますが、GとGMはGの方が若干ボケ量が多いような印象ですが遜色なく、F1.4の二つのレンズに較べSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAはボケ量が少ないのか明らかに滑らかさに欠ける。

次に、ボケ量を増やした状態を見る為、後ろの木からトリミングしましたが、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAの口径食の影響を削減させる為にそれぞれF4に絞っています。

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35mm F1.4 G

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FE 35mm F1.4 GM

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Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA

ボケに纏わり付いた変色は本質ではないのでさておくとして、距離が離れたのでピント位置の違いは相殺されている筈ですが、やはりSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAのボケは滑らかさ欠けていて柔らかいボケとは言えません。

以上の点からSonnar T* FE 35mm F2.8 ZAはボケ質という点では褒められたレンズではなく、単焦点としては厳しいと言わざるを得ませんが、全く気にならない状況も当然あるので、どんな状況でもダメ、と言う事ではありません。
苦手な状況を把握して撮影すれば問題ないのですが、現実的には困難でしょうね。

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model : 川原みなみ

こういった結果からボケ質に対して好意的な印象は持てないのですが「良い」と評価する人もいるので、ボケ質は定量的には計れない主観的な基準だなぁ…と。
実際、「気にならなければ問題があっても気にならない」ものなので、使用する側としては「どの程度が気になるか」が問題ではありますが…

ここ10年程でしょうか、以前から重要視していた一部メーカーだけでなく多くのメーカーが「ボケの綺麗さ」を謳うようになってきましたが、そもそもボケとは「目標とする数値(MTF)の達成の後に結果として生み出されるもの(出涸らし)」で、それ自体は目的とされておらず、目的ではないが故にその評価基準は基準自体がありません。
定量的基準の策定が困難である事も理由の一つですが、基準がない故に主観的な判断に基づく評価に終始し、匙加減はメーカー(開発者)によってまちまちで、長い間、ボケ描写に拘ってきたメーカーとそうではないメーカーの謳う「ボケ質の良さ」には明確な違いがあり、同時に批評家レベルでもユーザーレベルでも判断基準が曖昧で「綺麗だと言われている」事を真に受けて評価する風潮もあるので全くアテになりません。

その為、喧伝や風評からではなく自分流の価値基準が必要になるのがボケ評価だと考えますが、そんなに難しい話ではなく、主題以外の場所に目を向けて「おや?」と思ったら精査する、それを繰り返せば勝手に養われてゆきます。
意識をすると見えてくるのはこれに限った事ではありませんね。
カワイイおねーちゃんの〝カワイイ〟は誰かに教わった事ではなく勝手に感じるもので、興味が無かったら〝カワイイ〟とは感じませんよね。
ボケ質もそれと同じで興味が無いから違いが判らない、のだと思います。

あ、〝ボケ味〟と言う表現だと「美味い」「不味い」と考えてしまうので〝ボケ質〟と言う表現を使ってますよ。

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model : 廣川かのん

Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA (SEL35F28Z)の話から脱線しましたw

ボケ質に関しては美点と言えるような面が見つからないこのレンズ、それ以外の描写は開放F2.8と単焦点としては控えめなF値なので、その分、絞り開放からかなりキレるレンズです。

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撮影場所はかなり暗く、強い光もないのでコントラストも低く条件は良くありませんが、絞り開放でこの描写。
隅を拡大すると高いコントラストと解像力が確認出来ます。

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開放でも隅っこまでかなり綺麗に写しています。
これは一昔前のマクロレンズ以上の開放描写性能で、Distagon T* FE 35mm f/1.4 ZA (SEL35F14Z)の二段絞りと余り変わらない印象ですね。 これだけ小型軽量なのにも関わらず、たいしたもんだな、と。
当然、中央は隅っこ以上で開放からほぼ性能MAX状態。 端っこは絞ってゆけば更に向上し、F5.6程度が全体的な解像性能のMAXではないでしょうか。

絞り込むと光芒が綺麗に描写され、遠景も周辺減光はありますが問題なくこなします。
周辺減光はF8迄絞っても解消しませんが気にならない程度になります。
カメラボディによって変わるものの、F8以降は回折現象の影響なのか解像力は徐々に落ちてゆく印象ですが、F11でも極端に低下しない為実用絞り範囲が広く、ストロボ使用でも使い勝手は良いと言えます。

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歪曲はそれなりにあると思えますが、目立つ程でもないので気にしていません。
歪曲や周辺減光と言った要素はJPEGで有ればカメラ内部補正で解消し、RAW形式でも今となっては容易に修正可能なので、最初から完璧であればそれに超した事はありませんが、重大な問題とは成り得ないと思っています。

ピントの合った前後に現れる軸上色収差はそれなりに発生するし、修正が面倒なので問題ではありますが、人間を撮るに限っては余り気にしないと言った方が適切かも知れませんが、気にならない。

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F2.8はF2に劣り、F2はF1.4に劣る、と言うイメージによってマクロレンズを始めとした開放F2.8の単焦点は一般的に重要視されていませんが、個人的に予てから唱えている〝開放F2.8の単焦点は信頼出来る〟論という、経験則以外に根拠のない論を証明するかのような文句のない描写です。

小型軽量なので持ち運びが苦にならならず常用に適していると思いますが、撮影用途としては不要に目立つ事を嫌うスナップ界隈の方々だけでなく、旅行のように荷物を減らし、観光地では人物と建築物等を同時に収めたい用途で50mmより使い易く好適です。
また「使わないかも知れないがとりあえず予備に持っておく」ような保険用途にも鞄の隙間やポケットに入ってしまい、存在を忘れる軽さなので最適。

感度を自由に変更出來、高感度耐性も向上した現在、実効F値によって撮影場所が限定される事は殆ど無いので、表現的に必要でない限りF2.8で殆どの状況は足りるように思います。

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残念ながらAF精度や速度は良くないですね。
組み合わせるボディによって変わると考えられますが、三脚に固定して同じ場所にピントを合わせてゆくと、毎回同じ場所にフォーカスせずバラバラで、何処にもピントが合ってない時も多々あります。
一眼レフとミラーレスでは後者の方がAF精度は概ね高いと思いますし、開放F1.4のレンズよりF2.8の方が精度が高いと思いますが、レフ機に装着した35mm F1.4 G (SAL35F14G)に精度/速度で大きく劣ります。
人物や風景を撮るのに速度は重要視しませんが精度は大問題なので、多めに撮っておく事が肝要です。

小型過ぎるキャップは何度も紛失するし、マクロフラッシュを使うにはレンズが小さすぎてレンズを保持出来ず使いづらいし、マウント周囲にガスケットがなく「防塵防滴に配慮した設計」はだいぶアヤシイとか、描写以外の懸念材料もあるにはありますが、使う側の問題であったり、要らぬ懸念である可能性もあります。

個人的にはその開放から最高にシャープな性格から、背景が整理されていたりボケ質が気にならない状況ではスタジオでも屋外でも使用しています。
不得手な状況以外では美点しか残らないので愛用していると言っても良いかも知れません。
そもそも、おねーちゃんしか見てないようなものなので、ボケだのなんだのは関係無い気もしますがw

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model : 楠原安里梨

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model : 柳川みあ

どうも撮影者というのは迫力のある高額なデカいカメラやレンズを使うと偉く(?)成ったような気分になるとか、上手になった気分になるとか、使用している機材の価格や年式で人を見るとか、果ては「モデルのテンションが上がる(ので良い写真が撮れる)」とか言い始める人がいて、なんだかホントしょーもない傾向を感じるのですが、Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZAは一応青いバッジのブランド高額レンズで有りながら、あまりにも小さく迫力がないからか、権威やらハッタリやら威圧感とは無縁の小粋さがあります。
この辺りの感覚、PENTAXのLimitedシリーズと共通してますね(描写はぜんぜん違いますが)。

モデルさんから見れば、いかにも高そうなカメラやレンズの方がそれを見た一瞬「良い機材で撮ってくれるっ♪」とかなんとか嬉しいかも知れませんが、結局は〝カワイク撮れているか〟の方が重要なので機材はあんまり関係無いと思いますよw

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Sonnar T* FE 35mm F2.8 ZA(SEL35F28Z)、概ね「良いレンズ」と言えると思いますが、実のところ写りは普通です。
他マウントになりますが、EF 40mm F2.8 STMは2万円を切る低価格で有りながらほぼ同等の描写でやはり小型軽量、ボケ質もここまで酷くなかったし、同社製Aマウントの初めてレンズシリーズも安価で写りが良かった。
これらに限らず「小型軽量で安価だが写りが良い」レンズは数多く存在すると考えられ「写りが良く小型軽量」だけでは特別な存在ではなく求心力に欠けます。 というか、スペックと価格を考えたらマトモに写って当然で、求められるのはその一歩上の表現力です。
小型軽量である事は素晴らしいとは言え、これより多少大きくなっても、より明るいor低価格なレンズの方が魅力があるでしょう。

その高額な価格設定と共に設計なのか品質管理なのか判りませんが、根本的な品質(絞り羽根)にも問題があります。
個体差を疑いカメラ店を見てきましたがどれも同じ…仕様ですかねw
昔のSONY製レンズ(Aマウント)は2万円で買える初めてレンズシリーズでも1段は円形を保ったものですが、半段どころか絞り羽根無関係の開放でも円形になっていない円形絞り…数値や喧伝文句だけの為に設定したとしか思えない機能には呆れ果てます。
Eマウントになって大事な所が杜撰になってきてるような、そんな気がしてなりません…

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あと2~3万円安価であれば「とても良く写るレンズ」として、開放F2で有れば多少性能は落ちても「価格にまぁまぁ見合う性能(スペック)」として2021年現在でもオススメであり〝撒き餌レンズ〟の主張も受け入れる事が出来ますが、高額であるばかりか、見栄えしないスペックと共に低い絞り羽根精度や褒め言葉が見つからないボケ描写では難しいところ。

このレンズが担っていたエントリークラスの需要は、このレンズより大型化したとは言え。より明るく安価な純正レンズ(FE 50mm F1.8とFE 35mm F1.8)が登場した為に役目を終えたと考えて良く、現在は登山のように極限まで荷物を減らしたい場合などは需要があるかも知れませんが、多くの場合選ばれないレンズなのではないでしょうか。

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