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10年前に中国で頂いた親切

大学2年生の終わり頃、同期の中国人学生の友達が夏休みに地元へ帰るという事で、一緒に付いていった。同じく同期の2名と共に、中国の福州へ向かった。

当時ユニクロや自動車メーカーが中国で不買運動や物理的な攻撃の被害にあっているという報道があったため、ビビりながらの訪問だった。日本人というだけで襲われるかもしれない、と不安だった。

この中国人の友達に現地をたくさん案内してもらった。また、宿泊も食事もすべて、この友達の親戚?のお家で提供してくれた。親戚さん達もすごく親切だった。一切不満な顔をしていなかった。

福州で楽しく過ごした後は中国人の友人と離れて、私を含めた3名で上海へ向かった。

上海タワーの近くでは男女ペアに写真を撮ってくれと話しかけられた。「お前らも旅行なのか。私はここに住んでいて、この姪っ子が田舎から出てきたから今案内しているんだ。良かったら一緒にお茶を飲みに行こう」と言われて、ついていった。

私と友人1名(男)には男性の方が、友人1名(女)には女性の方が付き、歩いている間もずっと話しかけてくる。これはおかしいと思い、友人と目を合わせて確認したうえで、「別の予定があるからもう行かなければならない」と告げて脱走した。「約束が違うだろう」と言ってきたが、無視。これは茶器を買わせようとする悪徳商法のひとつだったのだ。

その後、豫園という観光スポットに向かった。ここでもまた男女ペアがフレンドリーに「写真お願いします」と声をかけてきたから、無視した。

いやな気持ちでスタートした上海で街を歩いていると、今すぐにもトイレに駆け込まなければならない状況に追い込まれた。しかし、コンビニにはトイレが無い。どこにトイレがあるか分からない。

やむを得ず、個人経営のパン屋さんみたいなお店に駆け込んだ。スタッフさんは1名、若い眼鏡をかけた女性だった。「危機が迫っているからどうかトイレを貸してくれ」と言うと、奥にスタッフ用のトイレがあるからどうぞ、と案内してくれた。パン屋さんだから、店内飲食するようなスペースも無いし、当然客用のトイレは無い訳だ。

トイレから戻ると、友人2名がスタッフのお姉さんと押し問答をしていた。ように見えた。しかし詳しく聞いてみるとなんと、お姉さんが「こんな時期に日本から来てくれてありがとう」とお菓子をプレゼントしてくれたそうだ。お土産のようなお菓子だった。箱に入って綺麗に包装された焼き菓子だ。友人2名は遠慮していたわけだが、お姉さんは受け取ってほしいと譲らなかった。

お土産はありがたく受け取ることにして、トイレも使わせてもらったから、パンを多めに買おうとすると、今度はそのパンも貰ってくれと言われた。「それも欲しいの?持って行って」ということだった。「違います、これは買います!」といったけど、「ダメだ、お金は受け取らない、持って行ってくれ」の一点張りだった。こうなると、感謝の気持ちを伝えて受け取るしかない。荒んだ心にしみた。

しかし部屋に帰った3名を不安が襲った。「お土産の箱に何か仕込まれていたらどうしよう。例えば、日本に持ち込んではいけないものとか。」上海タワーで既に一度騙されているから、人を信じる心を失っていた。3名で包装紙を破り、お土産の箱をむしって解体した。入っていたのはおいしそうなお菓子だけった。お姉さんは本当に親切だったのだ。


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