神様とのおしゃべり
大きな川のほとりで座っていた。ずっと考え事をしていた。気がつくと隣には、神様が座っていた。
その神様は、90歳はとうに超えているであろうおじいさんのような見た目をしていた。神様というのは、やはり人間と同じ見た目をしているんだ、と思った。服装までも人間のものに近い。人間の感性でも十分理解できるような意匠だ。俺たちが住むような世界よりもっともっと高い場所に住んでいるのに、ここまで人間と似るのには、やっぱり理由があるのだろう、と思った。それを聞いてみた。
「うむ、私たちは、君たち人間とよく似ているねぇ。」
そうだ、神様は、人間と同じで言葉を使うんだ。 神様は、言葉という能力を持っているんだ、と感心していると、それを悟ったのか、
「人間は、自分たちが特別なものと考えてばかりで仕方がないね。」
と、神様は笑った。神様が言ったことを理解してはいたものの、それでもやはり、ああ、神様は笑うんだ、そしてどうやら、笑い方の感性も人間と似ているらしい、と思わずにはいられなかった。
そこで神様に、人間と神様は何が違うのか、と尋ねてみた。人間は、神達のことを、何か超常的な力を持って人間に鉄槌を下す、畏怖すべき存在、そして、人間には到底到達できるようなものではない、絶対的不可侵な存在のように扱っている。しかし、神話に描かれている神様たちは、どうも人間臭い。結構普通に「人間している」。不倫をしたり、「殺神」を犯して罰せられたり、くだらないことで不機嫌になったり。どこに人間と神の違いがあるのかは、やはり気になる疑問であった。
神様は答えた。
「人間を超越した『人間性』を持つのが神様なんだよ。」
「世界に名を馳せるような選手たち、皆から称賛される天才学者たち、弱者に手を差し伸べ彼らの拠り所となる、慈悲に満ちた者たち。何かに秀でる者たちは、他の者たちに比べて、『人間性』が発達している。わかるだろう?彼らの言動は人々を動かす。『人間性』がより強いためだ。弱き者は強き者に揺り動かされるというのはわかるね?」
「それを踏まえて考えてみてくれ。君のいう通り、私たち神は、人間を遥かに超えた力を持っている。それは確かだ。だがそれに伴い私たちは、人間には到底理解できぬ『人間性』を手に入れんだよ。」
「だから君たちは私たち神を恐れる。私たちを信仰する。時に救いを求める。自分たちより遥かに高い『人間性』を持つ私たちにね。」
「君たち人間にとっては屈辱的かもしれないが、私たちの方が、君たちよりよっぽど『人間している』わけだ。」
つまり、俺たちと神様たちが似ているのは、俺たちが神様と同じ直線上に在るからなわけで、俺たちと神様の違いは、その人間性の程度で、なんと人間より神様のほうが「人間している」からであると。ふむ、なるほど、と思える答えであった。
最後にふと思い出したことがあったので聞いてみた。
「神様、あなたは、人を救ったことがありますか。」
神様は答えた。
「ないよ。私も、自分のことで手一杯だからね。」
とても人間らしい答えであったが、人間の人間性の枠から外れるような答えではなかった。なんだ、俺たち、そんなに変わらないじゃないか、と思った。
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